あって欲しくない・・・真夏の風物詩。
「・・・はぁ」
三蔵と悟空が悟浄の家に遊びに来て、近くでお祭りがやってるから行きたい!と悟空が一枚のチラシを手に騒ぎ始めた。
こっちの世界でのお祭りは始めてだからあたしも興味を示して、書かれてる内容なんてサッパリ分からないチラシを見ながらチラリと八戒の方を振り向けばいつもの笑顔で八戒が頷いてくれて、それじゃぁ皆で行きましょうかって事になったんだけど・・・。
「何でこんな所にいるんだろう・・・。」
最初は良かった。
綺麗な提灯が吊るされている幻想的な雰囲気の中、美味しそうな屋台を見つけては一番に悟空が駆け込んで行って、何度も三蔵にハリセンで叩かれながら怒鳴られてた。
でもちょうど夕食がまだだった事もあって、蒸し器から香る美味しそうな匂いにつられてあたしが思わず立ち止まったらポンって頭を叩かれて、気付けば悟浄が先に店に入って手招きをしてくれた。
最初はブツブツ文句を言っていた三蔵も、冷えたビールとおつまみが来たら少しだけ機嫌が良くなって、悟空は口いっぱいにご飯をほお張りながらも美味しい物をあたしに勧めてくれた。
悟浄はここの支払いが誰持ちなのかさり気なく八戒に聞いてたみたいだけど、今日は悟空が一緒って事で三蔵払いみたい。
それを聞いてホッとしたのか次々ビールとおつまみを追加して・・・八戒に笑顔で諭されてた。
いつも家で食べる食事も美味しいけど、こんな風に皆と外でご飯が食べれるなんて思わなくって・・・凄く、凄く楽しかった。
ご飯、食べるだけでその先へ行かなければ・・・こんなため息も出なかったのになぁ。
今あたしが立っているのは、文字が読めなくともその雰囲気で意味が分かる。
どー見ても・・・中国版お化け屋敷にしか見えないんだけど、ここ。
「やーっぱ夏って言ったらコレだよな。」
口に火のついてない煙草を咥えながら楽しそうにニヤニヤ笑う悟浄。
「森一帯を使っているんですねぇ・・・」
何処から貰ってきたのか分からないけど、パンフレットのような物をジープの口から出される小さな火で照らしながら読んでいる八戒。
「・・・ふん、馬鹿馬鹿しい。」
入り口にぶら下げられているちょっと壊れたような古ぼけたような提灯を睨む三蔵。
「なぁ!これ俺持ってもいい♪」
心の底から楽しそうな笑顔でチケットと交換に渡された提灯をこっちに向けて持ち上げる悟空。
そんな皆を見ながら無駄だろうと思いながらも最後の望みを託してみる。
「ねぇ・・・やっぱり入るの?」
「モッチロン♪」
「えぇ。」
「あぁ」
「うん!!」
はぁ・・・あたし、無事に帰れるのかな。
そもそもあたしは極端に怖がりで、テレビとかで怪奇特集なんてやってるのを見ちゃったらその日の夜はその関連の物に近づけないくらい小心者。
現代でも遊園地のお化け屋敷には絶対に入らない。
入れるお化け屋敷といえば某ディ○ニーランドのホーンテッ○マン○ョンくらいなのに・・・。
「・・・はぁぁぁ」
現代だったら嫌だ嫌だと暴れて逃げるのに、八戒達にそんな情けない所見せたくないってちょっとだけ思ってるあたしは一歩また一歩と暗闇の中へ足を進めた。
背中を丸めてノロノロ歩く、そんなあたしの隣にさり気なく立ったのは・・・
「チャン、オレの腕掴まっていいぜv」
やっぱりと言うかさすがと言うか悟浄だった。
「何があっても守ってやっから・・・ナ?」
顔を近づけてニヤリと笑うその笑顔の裏に何か隠れている気がしないでもないけど、下心込みでも今はその申し出が有難い。
多少遠慮しながら悟浄の左腕に両手を添えてお礼を言った。
「・・・ありがと、悟浄。」
「どーイタシマしてv」
「行くぞ。」
提灯を持った悟空を先頭に三蔵、悟浄とあたしそして最後尾に八戒とジープと言う順序で白い暖簾をくぐると・・・中は深い森と言う事もあって先頭を行く悟空の提灯の明かりだけが暗闇にぽっかり浮かんでいた。
この時一瞬背筋がゾッとしたけど・・・それはお化け屋敷に入るって事を考えたからだと、この時は思った。
「最後の社にあるお札を持って帰ると賞品があるそうですよ。」
「賞品って食いモンかな?」
「くだらん。」
み、皆どうしてそんなに普通にしてられるの!?
サクサク草の上を歩いていく皆に遅れないよう必死で悟浄の腕に掴まって歩く。
そんなあたしの歩調に合わせてくれてる悟浄が口元に手を添えて前方を軽やかに歩く悟空に声を掛けてくれた。
「おいサル!もうちょっとゆっくり歩けよ。チャンが疲れちまうだろうが!」
その声に悟空が足を止めてゆっくりペースに変えてくれたおかげで若干息のあがっていたあたしも少しずつ落ち着いてきた。
「、こんくらいでいい?」
「う、うん。」
頷いときながら何だけど、実はあたし・・・今、目を瞑ってたんだよね。
何でかって?だって前を歩く三蔵の白い法衣が・・・暗闇に浮かんで、ふわふわしてる様子が何だか怖いんだもん。
三蔵の足元って黒いじゃない?で、いつもなら光に映えてキラキラ光る金髪も今日は暗闇だからほのかに見えるくらいで・・・法衣の白は暗闇の中ぼんやり浮かんで見えて・・・まるで幽霊みたい。
すると背中に冷たいタオルでも当てられたかの様な寒気に襲われて全身に震えが来た。
(うわっうわっうわぁぁっっ!!!)
声にならない声を心の中であげると一緒に歩いていた悟浄の足がピタリと止まった。
「チャン?」
「あ・・・・・・平気。」
ぐっと掴まっていた腕に力を入れてしまった所為か悟浄が火のついた煙草を手に持ち替えて心配そうに顔を覗きこんだ。
こんな事で怯えてちゃ皆に笑われる!頑張らなきゃ!!
ちょっと引き攣るような笑顔を悟浄に見せながら元気な第一歩を踏み出そうとして・・・何かに躓いてしまった。
「うわっ!」
悟浄があたしの体を支えるよりも先に手を伸ばして無意識に掴んだのは・・・さっき迄怖くてしょうがなかった前を歩いている三蔵の法衣。
「・・・おい。」
地面に転びそうになったから思わず三蔵の法衣掴んじゃった・・・もう数センチ上だったら経文に触れる所だったよ、危ない危ない。
「うわっ三蔵ゴメン。」
謝りながら掴んでいた法衣を離そうとすると、そのまま肩を掴まれて三蔵の隣に並ばせられた。
頭にハテナをつけながらも三蔵があたしの肩を掴んだまま歩いていくから、今はそれについていくしかない。
「あっあのっ・・・三蔵?」
「転ぶ度に掴まれたら・・・困るからな。」
「え?」
「怖けりゃ目を閉じていろ。俺が支えてやる。」
「・・・三蔵。」
ぎゅっと肩を抱き寄せられたら体が三蔵に密着して・・・さっきまで暗闇で怖かったはずの真っ白な法衣が、今は神聖な空気で温かく守ってくれるような感じがした。
でもさっき迄一緒に歩いていた悟浄がこの状況を見て何も言わないはずは無い。
「何してんだよ!こっの生臭坊主!!」
「あぁ?」
「チャンはオレがエスコートしてたんだぜ!横から取ってンじゃねェよ!!」
「てめぇが不甲斐ないから変わってやったんだろうが。」
ま、まさかこの展開は・・・。
身の危険を感じたあたしが肩に置かれている三蔵の手を解いて一歩後ろに下がった瞬間、あたしの首筋に何か柔らかい物が触れた。
「きゃぁあああっっっ!!!」
今度は声を押さえる事が出来なくて悲鳴を上げて逃げ出そうとしたけど、恐怖で足が震えてしまって・・・目を瞑ったまま手を伸ばしてすぐ側にあった物にしがみ付いた。
そのしがみ付いた物が何だか頭で理解するには暫く時間がかかって・・・ようやく落ち着いてゆっくり目を開けた先には、何故か目を見開いて顔を真っ赤にしている悟空の姿があった。
「・・・、だ、だい・・・じょうぶ?」
「悟・・・空。」
ぎこちない笑顔で地面の上にべったり座り込み、手に持っていたはずの提灯も放り投げてしっかりあたしを抱きしめてくれている悟空。
そしてそれをじーっと見つめる目が6つ+赤い目が2つ(これは多分、ジープ?)。
「オイシイ思いしてんじゃねェよ、こっのガキんちょサル!」
「とっとと明かりを取って来い!」
「わっ、分かったよっ!」
悟浄に髪をぐしゃぐしゃと撫でられた後三蔵にハリセンで叩かれた悟空は、あたしの手を引いて一緒に立ち上がると何となく恥ずかしそうにしながら遠くに転がってしまった提灯を取りに行った。
あたしもしかして・・・ご、悟空に抱きついちゃった!?
「、怪我はありませんか?」
「あ、うん。大丈夫。」
赤くなった頬を押さえてその場に立ち尽くしていると、八戒が心配そうな顔をしてやってきた。
「ごめんね、何だか大騒ぎしちゃって。」
「すみません。さっきが驚いちゃったの・・・多分ジープの羽なんです。」
「ほぇ?」
「きゅ〜・・・」
ジープがすまなそうに首を垂れてその瞳を閉じた。
「ジープがの事を心配して肩に止まろうとしたんですけど、一応ジープも・・・鳥ですから、夜目が効かなくて・・・」
「あぁ・・・なるほど。」
あたしを心配して様子を見に行こうとしたけど、夜目が効かないから目測を誤ってあたしの首筋を掠めてしまった・・・と、そう言うわけか。
「ゴメンねジープ、心配してくれたのに悲鳴あげちゃって・・・」
「きゅ〜」
今だ心配そうな顔をしているジープの頭を撫でてあげる。
うううっジープに心配されるほど怖がってるの、ばれちゃってるのね・・・。
ため息をつきながらジープの頭を撫でていた手を離したと同時に何処かで鳥が羽ばたいたのか側の枝が大きく揺れ、その音に怯えたあたしは思わず側にいた八戒の服を掴んだ。
「・・・っっ!!」
「・・・大丈夫ですよ。今のは鳥の羽ばたきですから。」
「あ〜、うん。」
分かってる、分かってるんだけどこんな真っ暗闇の中だと見えない物全てが怖い。
怯えるように周囲を見渡すと、ついさっき迄側でギャーギャー言い合ってた三人は少し離れた所で何かやってる。
時折火花のような物が見える所をみると・・・ハリセンから昇霊銃に変わったのかな、三蔵の武器。
何処にいても何してても変わらないんだなぁ。
そんな事を考え肩の力が少し抜けた所で八戒の声が聞こえた。
「。」
「はい?」
声のする方を振り向くと八戒の右手があたしの左手を軽く握っていつもの様に、にっこり笑っていた。
「もう少しで社に着きますから頑張りましょう。」
その声を聞いたら・・・今まで怖いって思っていた暗闇が少し明るく見えるような気がして、恐怖で震えていた心がホンの少し温まった。
やっぱり八戒って・・・何か凄い。
「うん!」
「それじゃぁ行きましょうか。」
再び社を向かって歩き始めるあたし達。
今度は何故か眉間のシワがさっきよりも増えてる三蔵を先頭に、その次をあたしと八戒とジープ、その後ろで何やら騒がしい声と共に悟浄と悟空が喧嘩しながら続いている。
さっき迄の怖い気持ちは何処へやら、八戒と手を繋ぎながらその肩に乗っているジープを時折眺め軽い足取りで進んでいるあたしの耳に
小さな声−八戒の恐らく独り言であろう−が聞こえてしまった。
「ふぅ、ようやく静かになりましたね。」
「・・・ほぇ?」
あたしが首を傾げたのを見て八戒はちょっと気まずそうな顔をして口元を押さえた。
「静かにって・・・さっきから人の声はあたし達しかしてないよ?それに後ろで悟浄達もまだ小競り合いしてるし・・・」
「いえ・・・そう言う声じゃなくて・・・」
・・・そう言う声じゃ、ない?
顔色を変えて足を止めれば手を繋いでいた八戒も自然と足が止まる。
「あの・・・八戒?」
「、もしかしてここが何か・・・」
「って・・・ココ、お化け屋敷・・・じゃないの?」
今この場で確認するべき事じゃないんだろうけど、でも・・・聞かなきゃさっきの八戒の独り言の意味が分からない。
手の震えが八戒に伝わってしまったのか、僅かに力をいれて手を握られたと同時に八戒が現在いる場所を教えてくれた。
「ここはこの辺でも有名な心霊スポットなんですよ。」
「「「えっ!!!」」」
それに驚いた声を上げたのはあたしだけではない。
何時の間にかあたしの右肩と左肩に悟浄と悟空が張り付いてあたしと同じ様に驚愕の声をあげていた。
「最初は三蔵も気付かなかったようですけど、途中で何かあるのに気づいたみたいですね。」
いつもと変わらない笑顔でそう告げる八戒が、頼もしいような怖いような・・・。
そのまま視線をあたしの肩先にいる悟浄達に向けると何か見つけたような顔をした。
「入ってすぐの所にいた女性は悟浄が気に入ったようですね。」
「なっ、ナニ・・・言ってんだよ?」
「おや?悟空。提灯と一緒に何を連れてきちゃったんですか?」
「えええっ嘘!何処に何がついてんの八戒ぃぃぃ!!」
「あまりいいモノでは無いみたいですから、三蔵にお払いしてもらったらどうですか?」
ねぇ三蔵?と八戒が先を歩いている三蔵に声を掛ければ、その手には何時の間にか数珠が握られていて何やらブツブツ呟きながら足早に歩いている。
「ああやって三蔵がお経を唱えてくれてる間は何も出ませんよ。」
「「三蔵ぉ〜!!」」
それを聞いたと同時に悟浄と悟空の二人が一気に石段を駆け上がり三蔵の袂に必死に追いすがった。
三蔵は二人にくっついている物が見えるのか酷く嫌そうな顔をして二人の手を振り払いながら更に足早に前に進んで行った。
残されたのは八戒と手を繋いだままその場にしゃがみ込んだあたしと、表情の変わらない八戒と心配そうな鳴き声を上げるジープ。
「あの・・・八戒、さっきの話・・・」
「嘘ですよ。」
「え?」
「悟浄と悟空には何もついてません。三蔵が足早に進むのはここが蒸して暑い事と、二人にまとわりつかれるのが嫌・・・それだけです。」
「で、でも数珠は・・・」
「あれは落し物ですよ。先程三蔵が拾っている所、ちゃんと見ましたから。」
「そ・・・そうなんだ。」
は、八戒の意地悪・・・周りに墓石が見えるから思わず信じちゃったじゃないかっ!!
「でもここが心霊スポットって言うのは本当ですよ。」
「え゛」
「ほら、入り口でパンフレット貰いましたし。」
何で今このタイミングでそんな嬉しそうにパンフレット取り出すかな!?
「さて、それじゃぁ。僕らも行きましょうか?」
「・・・・・・」
そ、そうだね・・・と言って立ち上がろうとしたけど、あたしの足は今までの八戒の話を聞いた所為か立つ力はもう残ってなくて、風に木々が揺れるだけで心臓が止まりそうになった。
やばいかも・・・腰が、抜けた!?
そんな恥ずかしい事八戒に言えるはずも無く、何とか気力を振り絞って足に力を入れたけど全然立てない。
どうしようって考えていたら何時の間にか隣に立っていた八戒の笑顔が目の前にあって、小さな声で失礼しますと言うと同時にあたしの体は地面からふわりと浮き上がった。
「はっ八戒!?」
「目、瞑っていて大丈夫ですよ。僕がキチンと抱いていますから。」
「でもっ、あのっ・・・」
「僕は何があっても貴女を最後まで離しませんよ。」
至近距離でにっこり微笑まれて、耳元で目を閉じてくださいとまるで呪文のように囁かれたら・・・断れるわけが無い。
そのまま社まで八戒にお姫様抱っこで連れて行ってもらって、そこでお札を取ってからスタート地点まで戻った。
その後貰った賞品は・・・目玉と口が描かれたスイカだった。
結局あの場所が桃源郷でも有名な心霊スポットだと知っていたのは八戒だけで、毎年夏になると肝試しと称して何組かのグループが利用するらしいと言うのを知った。
ちなみに悟浄と悟空についていた何かは嘘だってあたしは聞いたけど二人に説明はしなかったみたい。
だから二人はあの日から暫くの間、背後での物音に凄く敏感になっていたって言うのは内緒の話。
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『季節物でお化け屋敷v逆ハー八戒勝利!』と言うリクエストでしたが・・・今年の夏が終わってしまってからのUPになっちゃいました(汗)
お待たせした上にお化け屋敷から何時の間にやら肝試しへの変化(笑)
最初は色々仕掛けのある小屋にしようと思ったんですが、気付いたらにっこり笑顔で悟浄と悟空の背中を指差す八戒が頭に出てきて・・・気の向くままに書いていたらこんな話になっちゃいました(苦笑)
目玉と口の書かれたスイカは翌日のオヤツになったそうです(笑)
めぐみさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv