Little Happy Birthday
「いよっと・・・これで全部か。」
「うん、今日は買い物多いね。何かあるのかな?」
「・・・さぁ〜な。」
八戒に言われてチャンとジープに乗って買い物に出かけた。
普段だったらこれはオレではなく八戒の役目(特権って気もするな)・・・のはずだが、今日だけは特別と言う事でオレにお鉢が回ってきた。
今まで特に意識した事も無かったが、今日はオレの・・・誕生日。
珍しく朝早くに目覚めたオレは、まず居間に行っていつものように新聞をボーッと眺めていた。
そこでまず八戒から祝いの言葉を貰った。
「おめでとうございます。」
「・・・は?」
その時はまだ今日が何日だかサッパリ分かっていなくて、何かのイタズラだと思ったオレは思わず八戒の事・・・睨んじまったんだよな。
とは言えそんなモンに動じるような八戒じゃない。いつもと同じ何食わぬ顔して笑っている。
「あれ?もしかして忘れちゃったんですか?」
「何がっ!」
「今日は貴方の誕生日じゃないですか。」
「・・・・・・へ?」
思わず部屋の隅にかかっているカレンダーに目をやると、今まで気付かなかったが赤ペンで花丸がされている事に気付いた。
誕生日だと言う事をオレが認識したのを確認すると、八戒がもう一度祝いの言葉を告げた。
「お誕生日、おめでとうございます。」
「はいドーモ・・・って、別にガキじゃねーんだし改まって言う必要ねェんじゃねェの?」
「気持ちの問題ですよ。あ、そうだ。が起きたらお買い物お願いしていいですか?」
「・・・どんな時でもお前が行ってた買いモンに?」
今日は雨か槍でも降るのか!?いやいや・・・ひょっとして季節外れの雪とか雹とか・・・
「今日だけ特別ですよ、お誕生日ですからね。ただ、に余計なちょっかいを出したら・・・」
瞬時に八戒のまとっている空気の温度が下がる。
「チョッカイなんて出しません!」
即座に首を横に振ると、八戒はいつもの爽やかな笑顔と一緒に財布と買い物のメモをオレに手渡した。
「お買い物に行っている間にご馳走の準備しておきますからね。」
と言う訳でチャンが朝食を食べ終えてすぐに買い物に出てきたんだが、オレの隣を歩くチャンの態度は朝から全く変わりがない。
チャンは人を喜ばせる事が大好きなはずだから、こう言う誕生日と言うようなイベントでは一番に何かをする気がしていた。
しかも今時珍しいくらい天然で素直な女(コ)だから何を考えているのか、大抵はその顔を見れば分かるはずなんだけど・・・今日はいつもと全然変化が無い。
っつーか寧ろ普段通りに見える。
「うふふっ今日のデザートはケーキなんだね♪しかもホールだなんて・・・嬉しいなv」
ってそれマジ!?
いつもの店で、あのオバチャンや店員のおネェちゃんが誕生日って単語まで出してたのに・・・マジで気付いてないのか!?
あーそーいえば、チャンはオレ達の言葉は分かるけど他の人が喋ってる言葉は分かんねーんだっけ。
はぁ・・・と、大きなため息をつくと、先にジープに荷物を置いたチャンが心配そうにオレの顔を覗き込んだ。
「悟浄、そんなに大きなため息ついて・・・具合悪いの?」
「いんや、別に。」
「でも家を出た時から何か顔色悪いよ?」
「だから何でもねーって。」
ガキみたいに誕生日を気にしてどうすんだ?
明るく今日オレの誕生日なんだって言っちまえばいいじゃねェか。
そうすればチャンも笑って祝ってくれるって!
・・・けど、どーやらワガママな俺はチャンが気付いてくれるのを実は待っているらしい。
サルの事、ガキだガキだって言ってらんねェな。
「具合悪いなら帰りの運転、あたし代わろうか?」
「え?」
オレが誕生日の事を口に出すよりも先に、意外な事をチャンが言った。
「運転慣れてないから少し帰るのに時間かかるかもしれないけど・・・。」
「チャン運転できんの!?」
「うん、一応ね。」
「へェ・・・」
ボンネットを軽くポンポンと叩いてからジープの運転席に乗り込んだチャンの後に続いて、助手席に乗り込む。
「ちゃんとシートベルと締めてね。マニュアル車の発進・・・苦手なんだ。」
「お手柔らかに。」
滅多に体験できない、チャンの運転でのドライブ・・・最初は何処か期待していた部分もあったけれど、その期待は僅か5分で終了した。
「・・・やっぱチャンは助手席がイイって。」
「そ、そーだね。」
発進からブレーキまで・・・できれば忘れてしまいたいようなアクシデント連発。
最後には坂道発進が出来ず、急斜面を逆走し始め・・・横からハンドルへ手を伸ばして何とかその場をしのぐ事が出来た。
注意一秒怪我一生・・・危うくオレの誕生日は強制的に命日へと書き換えられる所だった。
「「タダイマー」」
「お帰りなさい・・・おや?どうしてそんなに疲れた顔しているんですか?」
「道中色々あってな・・・」
「うっわー八戒凄いご馳走だねv今日何かあるの!?」
さっき迄車に酔って青い顔をしていたチャンが、目をキラキラ輝かせながら机いっぱいに並べられている料理を見て言った。
「えぇ、今日は悟浄のお誕生日なんですよ。」
「へぇ〜・・・・・・・・・・・・え?」
ピシリと言う音が聞こえそうな勢いで動きを止めたチャン。
ま、まさか・・・。
「八戒・・・今、何て?」
「ですから、今日は悟浄の誕生日なんです。」
一瞬の沈黙の後、チャンの悲鳴が家中に響いた。
「えっ!?嘘!!うそ、ウソ、うっそー!!」
「嘘じゃないですよ。ほら、カレンダーにもちゃんと印がしてありますし。」
そう言って八戒がカレンダーを指差すと、チャンが泣きそうな顔でこっちを見た。
「・・・それ、カレンダー?」
「はい。」
「分かりにくいけどな。」
「そうですか?斬新なデザインで結構気に入ってるんですけど・・・」
「ぐるぐる日付が回ってて、幾何学模様の中に数字が細かく書かれてなければもう少しカレンダーっポイんだけどな。」
「・・・ただのタペストリーだと思ってた、それ。」
「オレも最初見た時そう思った。」
コイツのこー言う意味不明の趣味だけは納得できない。
今日何度目かのため息をつきながら、ふとさっき泣きそうな顔をしていたチャンの方を振り返ると見るからにオロオロしながらその場をぐるぐる回っていた。
「チャン?」
「ご、悟浄っ!あのっその、あのねっ忘れてたんじゃないんだよ?」
「わーってるって。」
「今月に入ってから一生懸命日付気をつけてたんだけど、分かんなくなっちゃってっ。」
「それも分かってる。」
「だからっ、その・・・えっと・・・」
顔を赤くしてしどろもどろと言い訳をする彼女の姿がやけに可愛く見える。
あぁそうか・・・そんなチャンだから、誕生日を祝ってもらいたかったんだ。
「・・・悟浄、お誕生日おめでとう。」
「・・・サンキュ。」
「プレゼント何も無くてごめんね。」
「イイって、その気持ちだけでジューブンv」
そのまま調子に乗ってチャンを抱き寄せようとしたら、その体は横から伸びてきた手に邪魔された。
「僕からのプレゼントは・・・もう受け取って頂けましたよね?」
「八戒もプレゼント上げたの?」
「えぇ、とっても素敵な時間(モノ)を・・・ね。さ、。料理はまだまだありますから運ぶの手伝って頂けますか?」
「うん!」
にっこり笑って台所へ向かうの背を見ながら、側に立っている八戒を見た。
「・・・おい。」
「はい?」
「もーちょっとサービスしてくれてもいいんじゃねェの?お誕生日なんだしぃ。」
「過剰サービスは人間を甘やかしてしまいますからね。またの機会にどうぞ?」
って、お前は何処の店の店長だっ!!
「あのなぁ!!」
オレが八戒の胸倉を今にも掴もうとした瞬間、台所から話題の張本人がひょっこりと顔をだした。
「八戒!折角悟浄のお誕生日だからさ、このお酒開けてもいい?」
「えぇ構いませんよ。そっちよりも・・・」
落とさないよう十分気をつけながら高そー酒瓶を抱えているチャンは、何だか危なっかしくて目が離せない。
今まで気にした事なんてはっきり言ってなかった、誕生日。
でも実はチャンからの祝いの言葉を人一倍気にしていた事も事実。
目に見えるプレゼントよりも、チャンからの言葉が一番のプレゼント。
お誕生日おめでとう。
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11555hitをゲットされました 日向麻理 サンへ 贈呈
『悟浄の誕生日に気付かない又はフリをしているヒロイン』と言う事で、気付かないヒロインを書かせて頂きましたv
本当はヒロイン、悟浄の誕生月になったら一生懸命日付を毎日気をつけてたみたいです。
でも家に飾ってあるカレンダー(八戒の趣味)は誰にも気づいてもらえず、今回のような事態が起きてしまったみたいですね(苦笑)
峰倉先生の八戒の趣味が悪いって言うのをふっと思い出してそれを踏まえて書いてみました。
本当にプチバースディになってしまってスミマセン(TT)
麻理さん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv