本日は・・・曇りのち晴れ!







「おはよー八戒、悟浄〜・・・」

「おはようございます、。」

「オハヨ、チャン。」

居間へ行くと珍しく八戒と悟浄二人が揃ってテーブルについていた。

「珍しいね、悟浄がこんなに早く起きてるなんて・・・。」

「わるいんかい!」

「ううん!珍しいなぁって思っただけだからっ」

苦笑しながら八戒の隣の椅子を引き寄せて座ると、テーブルに置いてあったコーヒーメーカーから八戒がコーヒーをついでくれた。

「昨日三蔵から此方に来る用事があるのでついでに立ち寄るっていう連絡を受けたんです。それで悟浄に買出しをお願いする為に早起きしてもらった・・・と言う訳です。」

「なるほど・・・」

「ったく、別に三蔵が来るからって茶菓子なんざわざわざ買いに行く必要ねぇだろうが・・・」

「三蔵が来ると言うことは悟空も来ると言うことです。それなら悟浄の食事はしばらく無くてもいいんですね?」

それはやはり悟空が沢山食べると言う事で・・・買って来なければ悟浄の食事の分が悟空に与えられると言う事・・・かな?

「はいはい。ワカリマシタ!行って来ま〜す。」

悟浄はカップに残っていたコーヒーを一気に飲み干すと立ち上がり、八戒から財布を受け取った。
そのまま視線をあたしに合わせると、にっと笑って手招きした。

チャンも一緒行く?」

には別の用事があるので一人で行って下さいね?」

あたしが何か言う前に八戒がにっこり笑顔で悟浄の申し出を断った・・・と言うより断ち切った。

「あっそ・・・じゃ、行ってくる。」

「い、行ってらっしゃい!気をつけてね!!」

少し肩を落とした悟浄の背に声を掛けるが、ひらひら振られている手が何処となく元気が無い。

「・・・あたし別に荷物持ちでついて行っても良かったのに・・・。」

呟きながら椅子に座り直し隣に座っている八戒を見ると、何やら時計をじっと眺めていた。
特に気にもせず注いでもらったコーヒーをのんびり飲んでいたら、急に家のドアが開いてそこから元気な声が部屋中に響いた。

「八戒、おはよう!!」

「邪魔するぞ。」

「いらっしゃい、三蔵、悟空。遠い所お疲れ様でした。」

三蔵と悟空の登場である。
二人とはあまり会話をする機会が無く、イマイチなじみが薄い。
しかも悟空とは和やかに話ができるものの、どうしても三蔵の前に行くと萎縮してしまう自分が情けない・・・。
とは言え、やはりあの紫暗の瞳でじっとこちらを見られると硬直してしまうのは仕方ないだろう。
そんな事を考えていたら椅子に座っていたあたしの手を誰かが掴んでいる事に気付いた。その手の主を探ろうと視線で辿っていく・・・

「それじゃぁすぐに戻る。」

「はい、わかりました。あまり驚かせないで下さいね?」

「あぁ・・・悟空、しばらくここで待ってろ。」

「えー!何で俺だけ!!」

「悟空、こちらのお菓子もいかがですか?もう少しで悟浄が買い物から戻りますから、そうしたらお茶入れ直しましょうね?」

「わーいvやったぁ〜vv」

「え?え?えぇー!?」

気付くとあたしはジープの助手席に乗せられ、笑顔の八戒と両手にお菓子を抱えた悟空に見送られながら三蔵と二人で家を後にした。










八戒達と別れて数分が過ぎ、三蔵と二人きりになって思った事・・・。

・・・何を話せばいいんだ!?ち・・・沈黙が重い・・・。

ちらりと横目で三蔵を見ると運転に集中しているのか視線は前から逸らされない。
それでも日の光を浴びて輝く金髪が凄く綺麗で思わずうっとり眺めてしまった。

「・・・おい。」

「はっ、はい!!」

やばい!盗み見してたの気付かれた!!

「着いたぞ、降りろ。」

「は・・・はい」

慌ててシートベルトを外して車外に出ると、今まで三蔵を見る事に集中していたせいで自分が何処にいるのかわからなかったが、今目の前に広がるのは一面緑の絨毯…原っぱである。

「うわ〜っ・・・すごーい!」

感動しているあたしを無視して三蔵はさっさと草原を歩いていく。
着いて行くべきかどうするべきか悩んでいると、いつの間にかジープが車から竜の姿に戻っていてあたしの服の袖を掴んで三蔵の方へ引っ張っている様子が見えた。
その姿があまりにも可愛くて、そっと腕に抱きかかえると先を歩いていた三蔵の後を追った。
暫く後をついて行くと三蔵がおもむろに草の上に腰をおろし、煙草に火をつけ吸い始めた。
取り敢えず三蔵から少し距離を置いて草の上に座り、のんびり流れる雲を眺めていた。
そう言えばこっちに来てこういう風に外でのんびりした事って無かったなぁ・・・。





どれくらいそうしていただろう、ふと視線を感じて振り向くと三蔵がじっとあたしの方を眺めていた。

蛇に睨まれたカエルのカエルってこんな気持ち?

いや、今はそんな事言ってる場合じゃない!!
三蔵の事は嫌いではない、いやむしろ好きであるし憧れている。
でもやっぱり・・・あの目でじっと見られると心の奥底を見られているようで落ち着かない。
視線を外す事も動く事さえもままならないあたしは取り敢えず八戒を見習って一生懸命笑顔を作ってみた。

「・・・っ」

あれ?三蔵・・・どうして俯いてるの?
三蔵が急に視線を外し、俯いて口元に手を当てている。
しかも僅かに肩が揺れている・・・気がする。
あたしはまた何か可笑しな事をやってしまったのだろうか?

「あの・・・三蔵様?」

そのままの体勢で動かなくなった三蔵が気になって、膝立ちで近くまで行くと俯いたままの三蔵の顔をそっと覗き込んだ。
さらさらの金髪に隠れた横顔がとても綺麗で・・・思わず見とれていたらいつの間にか三蔵に手を掴まれじっと目を見つめられていた。
うわぁっ!また手、掴まれた!!

「・・・三蔵・・・様?」

「・・・捕って食ったりしねぇから落ち着け。少し話がしたいだけだ・・・」

掴んでいた手を離すと、三蔵はあたしに隣に座るよう指で示した。
あたしは落としそうになったジープを膝に乗せ直すと三蔵に言われた通り隣に座った。

「お前は・・・俺がどうして三蔵になったか知っているんだろう?」

「は・・・はい。」

「じゃぁお前は・・・師匠の経文の在り処も知っているのか?」

師匠の経文・・・って事は三蔵の両肩にかかっている魔天経文と対になってると言う聖天経文の事・・・だよね。

「・・・いえ、それはわかりません。」

「質問を変える。最近妖怪達が急に暴れだした・・・それについて何か知っているか?」

「それは・・・今は言えません。」





三蔵の目つきが鋭くなった。
金属音が耳に届き、視界にあるものが映った・・・それは三蔵が寺院から頂いたと言う妖怪を滅する為に使う・・・昇霊銃。
体が固まってしまい、膝で眠っているジープに触れていた手が自然と震える。

「もう一度聞く。・・・原因は?」

話してしまえば三蔵は銃をしまってくれるだろうか・・・でも、今ここで三蔵が全てを知るのは・・・まずい・・・って言うかダメだ!まだ早すぎる!!







額から嫌な汗が流れてくる。時間にしてほんの数秒の事が数時間にも感じられた。
あたしはゆっくり呼吸をしてから三蔵の目を真正面から見つめ、キッパリと言った。

「今はまだ知る時じゃありません。いずれその時期が来たら・・・三蔵様に直接話されると思います。」

「それは何時だ。」

「わかりません。あたし自身が今、どの時点にいるのか良く分かりませんから・・・」

そう言うとあたしはゆっくり目を閉じた。
今、三蔵に撃たれたらどうなるんだろう。
現代の布団の上は血の海になるんだろうか・・・なんてのんびり考えながら。





やがて膝で眠っていたジープの小さな泣き声が聞こえ目を開けた瞬間、スパーンと言う音と共に頭に激痛が走った。

「・・・ったぁー!!」

反射的に両手で後頭部を押さえた。
目の前に星が散らばるかのような痛みで涙が零れそうになる。
一体あたしの身に何が起きたんだ!?
今までの緊張も忘れあたしは三蔵の方を振り向き思わず声を荒げてしまった。

「いきなり何するんですか!!って言うかそれ、何処から出したんです!!」

三蔵が手にしているのは昇霊銃ではなく・・・いつも何処からともなく出てくる『ハリセン』である。
にやりと笑いながら片手でハリセンを持って三蔵が楽しげに笑う。

「ちゃんと話せるじゃねぇか。」

「は?」

「お前は俺の前に来るといつもかしこまって、借りてきた猫みたいだったからな・・・」

今だ三蔵の言う事が良く分からない。
それはあたしの理解力が乏しいからか、それともハリセンで叩かれた痛みのせいか・・・それは良く分からない。

「えっと・・・三蔵様・・・イマイチ意味が分からないんですが・・・」

「・・・三蔵でいい。」

突然言われ対応に戸惑いながらも、隣に座っている三蔵の方を見て小さな声で名前を呼んでみる。

「・・・三蔵」

「何だ。」

そう言ってあたしを見つめる視線はさっきとは全然違う。
何が変わった訳ではないんだけど、あたしは三蔵と視線を合わせても逸らす事は無い。

「三蔵?」

「だから何だ?」

呼ぶと振り向いてくれるのが嬉しくて思わず笑ってしまった。
三蔵は意味も無く名前を呼ばれるのを不機嫌そうにしていた。
調子に乗って何度も名前を呼んでいると、再びあたしの頭にハリセンが振り下ろされた。

「意味も無く何度も呼ぶんじゃねぇっ!!」

「いったぁー!いいじゃないですか!呼びたかったんだから!!それに女の子に銃を向けといて、しかもハリセンで叩くなんてひどいじゃないですか!!」

忘れていたけど、三蔵はあたしに銃を向けたのだ。
あれは脅しだったのかそれとも本気だったのか・・・。

「そんな無駄な事するはず無いだろう。弾は入ってない。」

「え?・・・じゃぁどうして・・・」

「お前の本音が聞きたかった。俺にとって不都合な人間なら・・・お前と話す意味は無いからな・・・」

確かに・・・悟浄と八戒とは同じ家に居るからどうしても話をする。
三蔵とは家が違うから会わないのは簡単だ。
・・・って事は?

「三蔵様・・・じゃなくて、三蔵はまたあたしと会ってくれるの?」

「・・・気が向いたらな。」

嬉しくて自然と頬が緩む。

「・・・なにニヤニヤしてる。そろそろ帰るぞ、お前の保護者が煩いからな・・・」

「保護者って?」

「あの二人に決まってんだろ。第一この場所を指定したのは八戒だぞ・・・お前が俺と二人だと緊張するからここに連れて行けと・・・。」

「そ・・・か・・・」

「行くぞ・・・。」

悟浄とも八戒とも悟空とも違う声。
同じように呼ばれているはずなのに何故かとても新鮮で・・・何だかくすぐったく感じる。
ジープが再び車になり、三蔵が先に運転席に乗ったので慌てて隣の助手席に滑り込む。










行きは長く感じた道のりが帰りは凄く短く感じた。
それは運転席の三蔵があたしの話を聞いてくれて、それに応えてくれたからだ。
たまに逆鱗に触れかけて叩かれそうになるけど、今度はハリセンは出てこない。
あれはあたしが緊張していたのをほぐす為にやった事なんだと後で分かった。

「三蔵って優しいんだねv」

「煩い・・・黙れ。」

「は〜い♪」

くすくす笑いながら三蔵から視線を外し前を見ると、家の前で煙草を吸っている人影が見えた。
こちらに気付いたのか立ち上がり手を振っている。

「悟浄!ただいまー!」

ジープを降りて悟浄の方へ走って行くと思い切り抱きしめられた。

「ご!悟浄!?」

「大丈夫か?何もされなかったか!?」

頬に手を当ててじっとあたしの顔を見る悟浄は今まで見た事が無いくらい不安げな顔をしていた。
い・・・一体何があったんだ!?

「買い物から帰ったらが三蔵に拉致されたって聞いたから・・・心配したんだゼ。」

「拉致!?」

シャキンと言う音がして目の前にいた悟浄の額に三蔵の持っていた銃が当てられた。

「出掛けただけだろうが・・・」

「日頃の行いが物言うんじゃねぇのか?こっの生臭坊主!」

「死にてぇのか・・・」

「大丈夫だよ、悟浄。この銃、弾入ってないから・・・」

あたしが言った瞬間・・・大きな音が耳に届き、銃弾が飛んでいった。
あたしはキーンと耳鳴りする耳を押さえながら後ろに立っていた三蔵を見た。

「さ・・・三蔵?」

「弾を込めるのに時間はかからん。」

「てっめーチャンに当たったらどうすんだよ!」

「安心しろ。これは馬鹿にしか当たらん。」

「俺が馬鹿だって言うのかよ!!」

「二人とも近所迷惑ですから止めて下さいね。お帰りなさい。三蔵と話はできましたか?」

「ただいま八戒!三蔵と話・・・できたよ。」

「それは良かったですね。」

にっこり笑顔であたしの手を引いてさり気なく背にかばってくれる八戒。
家の中を見ると悟空がにこにこ手を振って椅子を引いて待ってくれている。
ようやく皆と繋がった・・・気がする。
それから八戒が二人の争いを止めて、皆で楽しいお茶をした。



今日は何だか色々あって疲れたのか、八戒が追加のお茶を入れに行き、悟空と三蔵が追加のお菓子を買いに行き、悟浄がちょっと席を外した隙にあたしはつい、うとうとしてしまい・・・気付いたら夢の世界へと旅立ってしまっていた。

その中であたしは何度も三蔵の名前を呼んでいて、三蔵は面倒臭そうに・・・でもちゃんと返事を返してくれていた。





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2100hitをゲットされました ヒロ サンへ 贈呈

『うたた寝で三蔵様とお話』と言うリクエストだったんですが・・・振り返れば三蔵様ってばあんまり名前呼んでない(汗)
一応この話は今後のうたた寝にも繋がる物として書かせて頂きました。悟空、三蔵様と数回会った後・・・くらいですかね。
この話の目標は三蔵様にハリセンで叩いてもらう・・・でした。そうする事によってちょっと三蔵様と親しくなれる気が・・・
・・・するのは私だけだったりして(苦笑)
一応、三蔵様もヒロインを認めてくれたようなので、今後はもう少し親しくなって・・・いくといいなぁ(おいっ)
ヒロさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv