続・温泉☆PANIC







「はぁぁ〜〜」

大きなため息をつきながら、案内された部屋の窓辺にたれ○んだのようにうな垂れる。

「どぉーしよぉ〜」

何て呟いた所で誰も何も言ってくれない。
でも、口に出さないとどんどん悪い方向へ考えが進んで行っちゃうんだもん!!

「・・・八戒、怒ってるよなぁ。」

そして再びため息。





露天風呂に入っている時、女湯に痴漢が現れた。
必死で抵抗したけど捕まっちゃって・・・悲鳴を上げたら八戒達が助けに来てくれた。
そこまでは良かった!そこまでは良かったんだけど、お風呂場と言う事であたしはタオル一枚だったし、皆も腰にタオルを巻いた状態・・・早い話がほぼ裸に近い状態。
すっかり気が動転したあたしは、慌てて脱衣場に戻ろうとしたんだけど湯当たりを起こしたのか足元がおぼつかなかった。
危うく転びそうになったのを八戒に支えてもらったんだけど、その・・・あの・・・手がね?
悟浄じゃないんだから狙ってやったなんてこれっぽっちも思ってないんだけど、手が胸に当たってたの。
それに気付いたらもう何も考えられなくなって・・・気付いたら八戒に平手打ちを食らわして逃げちゃった。





「うぅぅ〜・・・でも助けてくれたのにあんな事して、やっぱり謝らなきゃだよなぁ・・・」

でも皆がいる所だと言いにくいし、さっきの状態を思い出させるような行為は絶対に避けたいし・・・何とか八戒が一人の時に謝れないかな。
って考えながら何気なく宿の庭を見ていたら、今一番会いたい人が一人で歩いているのが見えた。

「八戒!!」

夜だと言う事も忘れて窓辺から大声で八戒の名前を呼ぶ。
足を止めて周りをキョロキョロ見渡していた八戒の視線が部屋にいるあたしを見つけると、ちょっと驚いたような顔をした。

?」

「八戒、今一人?」

「えぇそうですけど・・・」

「えっと・・・お散歩、一緒してもいい?」

すぐに了解してくれると思ったけど、何故か八戒の返事がすぐ返ってこない。
や、やっぱり怒ってるのかな?嫌われちゃったのかな?
ドキドキしながら八戒からの返事を待っていると、何か考えているような仕草をしていた八戒がようやく顔を上げてこっちを見てくれた。

「いいですよ。でも外は暗いですから気をつけて下さいね。」

「うん!!」

一緒に散歩してもいいと言う返事に気を良くしたあたしは、思わずスリッパも履かず部屋を飛び出そうとしてしまって慌てて戻る。
落ち着いて、キチンと誠意を込めて謝らなきゃ・・・。















「八戒!!」

「随分早いですね。」

「だって八戒待たせちゃってるから・・・」

と言うより待たせたり何かして、これ以上八戒に不愉快な思いさせたくないって言うのが正解。

「それじゃぁ行きましょうか。この先に東屋があって、その周囲に今の時期はアヤメが咲いているそうですよ。」

「アヤメ?」

「紫色の大きな花弁の花ですよ。見ればも分かると思います。」

でもあたしそんなに花の名前詳しくないぞ?見た事あるけど知らない花の方が断然多い。

「足元暗いので気をつけて下さいね。」

そう言って自然に差し出された八戒の手。
あたしはちょっと躊躇いながらも差し出された手に自分の手を重ねて、結構広い宿の庭をゆっくり八戒と一緒に歩き出した。
慣れない浴衣と、少し大きめの下駄は思ったより歩きづらくて、あたしは東屋へ行くまでに何度も転びそうになってその都度八戒に助けられた。
その行為がどうしてもお風呂場の行為を思い出してしまって、自然と頬が赤くなる。
そしてようやく東屋につくと真ん中の池を見る様にして二人並んで座った。
八戒が言ったように東屋の周りには紫色の大きな花が咲き乱れていた。
テレビや広告でよく見る花で、ようやく花と名前が一致した。
最初はキョロキョロ周りを見ていたんだけど、八戒が少し俯いて小さくため息をつくのを見た瞬間・・・体が凍りついてしまった。

今を逃すと・・・謝れない、よね。

この後はきっと部屋に戻って皆と合流しちゃうし、そしたら後は寝るだけ・・・向こうにあたし帰っちゃう。
帰っちゃったら謝る間隔が更に開いちゃってもっと謝りにくくなっちゃうよ!!
あたしは両手をぐっと握り締めて、気持ちを落ち着かせる。
ゆっくり目を閉じて深呼吸を繰り返すと、立ち上がって八戒に向けて頭を下げた。

「ごめんなさい!!」

「え?」

「本当にごめんなさい!助けてくれた八戒を叩いちゃったりして・・・」

?」

「叩くつもりは無かったの!ただ動揺して手を振り回したら・・・八戒の顔がちょうどあって、それで・・・」

「ちょっちょっと・・・」

「本当にごめんなさい!!」

「ちょっと待って下さい。」

「ゴメン・・・え?」

深々と下げていた頭を上げて八戒の顔を見ると、困ったような顔であたしを見ている。
どうして八戒がそんな困った顔してるの?
きょとんとした顔で八戒を見ていると、やがて八戒が苦笑しながら話してくれた。

「僕の方こそ、その・・・あんな状態のに触れてしまってすみませんでした。あの時は痴漢から遠ざける事しか考えていなくて、つい抱き上げてしまって・・・軽率でした。」

「そんなっ八戒は助けてくれたんだからそんな事気にしなくても・・・」

「その後も、ちょっと考えて行動すれば良かったんですけど・・・その、僕も動揺していたみたいで・・・上手く対応できなくて・・・あんな事になってしまって・・・」

口元を手で覆って目を反らした八戒の頬は、気のせいかちょっと赤い気がする。
それを見たらあたしも何だか恥ずかしくなってきちゃって、つられる様に顔が赤くなった。

「だからがそんな気にする事は無いんです。」

「でも・・・頬、痛かったでしょ?」

「あぁそれは、まぁ・・・でもあれはしょうがないと思います。」

にっこり笑ってくれてるけど、その笑顔には何処か影があるように見える。
八戒は優しいからそう言ってくれてるけど、八戒の心を傷つけたのに代わりは無いよ。

「でも・・・」

「僕が大丈夫って言ってるんですから、気にしないで下さい。」

「・・・ん」

の力で倒れるようなヤワな体じゃありませんから。」

そりゃそうだけど・・・でも・・・でもやっぱりスッキリしない。

「そうだ。泥棒を取り押さえたお礼を宿の方が部屋に届けてくれるそうですよ。」

「ほえ?泥棒?」

「えぇ、女湯に入ってきた人は痴漢ではなく泥棒だったそうです。ここに泊まっている方のお財布や貴金属を粗方盗んで人気の少ない女湯から外へ逃げようとした所をに遭遇してしまったみたいですね。」

ただの痴漢じゃなかったんだ。

「前科のある人だったようですから、捕まってよかったですね。」

「そ、そうだね。」

・・・八戒が、皆が助けてくれなかったらどうなってたんだろ。
思わず怖い考えが頭を駆け巡って足元がおろそかになった瞬間、外履き用の大きな下駄に足を取られ足元の大き目の岩に躓いてしまった。

「危ない!」

地面に手をつくよりも早く、差し出された八戒の手を掴む事によって今回も衝突を免れた。
あー・・・もうちょっとちゃんと足元見て歩くようにしないと、これから何回八戒に助けられるか分からないな。
そう思いながら助けてくれたお礼を言おうとしたら、八戒が右手首を押さえて珍しく眉を寄せていた。

「は・・・八戒?」

「あ・・・大丈夫ですか?怪我は・・・」

「あたしは平気・・・八戒もしかして手、痛めてる?」

押さえている手首の様子を見ようと手を伸ばしたら、さり気なく八戒に止められた。

「大丈夫です。ちょっとお風呂に入っていた時にぶつけてしまって痛めただけですから。」

「もしかして・・・あたしの所為?」

「違いますよ。ほら、お風呂に入る時ってモノクルも眼鏡も外すじゃないですか。だから良く前が見えなくて・・・ぶつけちゃったんです。」

確かにお風呂場にいた八戒は・・・モノクルも眼鏡もかけていなかったけど、何処かにぶつけただけでそんな状態になる?

「ほら、早く部屋に戻りましょう。皆さん・・・特に悟空は首を長くして待ってますよ、きっと。」

「う・・・うん。」

先に階段を降りていた八戒が左手を差し出してくれたので、行きと同じようにあたしはその手を掴んだ。
右手を庇いながら部屋まで戻る八戒を見て、あたしはある事を心に決めた。










「あーっ!も八戒も遅ぇよ!」

「ごめんねー悟空。」

部屋に戻るとテーブルの上に沢山の果物やお菓子、そして夜食のような物が置かれていた。
悟空は一番色々な物が置いてある場所を陣取って、あたし達が帰って来るのをずっと待っていてくれたみたい。

「・・・何処に行っていた。」

「八戒とここのお庭を散歩してたの。池の周りのアヤメがすっごく綺麗だったよ!」

「そうか。」

「んだよ、それならオレも誘ってくれりゃいいのに。悟浄ザ〜ンネン!」

「ゴメンね。ちょっと八戒と話があって・・・」

「ここじゃ出来ねぇ話か?」

「え?」

三蔵が珍しくあたしの目をじっと見てそんな事言うから、思わず体が硬直したように動けなくなった。
さ、三蔵の目を見たら・・・何だか体が動かなくなる気がするのは気のせい!?

「・・・何の話だ。」

「え・・・えっとぉ・・・」

困っているあたしを助けてくれたのは・・・意外にも悟空の声だった。

「あーもうハラ減った!!ハラ減ったぁ〜っ!!」

「あ、悟空がお腹空いたって!!取り敢えず食べよう!ね、三蔵。」

ガタガタと机を揺らして空腹を訴える悟空を見て、あたしはそれを口実に三蔵から視線を外して先に席についていた八戒の隣に座った。
あ〜・・・話途中にしたから三蔵の眉間のシワ、一本くらい増えたかも。
あとでちゃんと説明しないとダメかな。

「なぁ〜もう食ってもいい?」

「さっきからいちいち煩ぇんだよ、こっの馬鹿ザル!!」

あまりの音の大きさに自然と目を瞑ってしまった・・・ご、悟空大丈夫かな。

「いってぇ・・・何で機嫌悪いんだよ!」

「知るか。」

「三蔵はな、チャンと話してたの邪魔されたからご機嫌ナナメなんだよな♪」

「・・・死にてェのか貴様。」

あわわわ・・・今度は矛先が悟浄に変わった。

「オレ死ぬ時はオンナの膝の上って決めてるから、今は死ねねェな。」

「ほぉー・・・」

二人の間の空気がピリピリと痛いものに変わる。
悟空ってばどうしてその間にいるのに何も無いように頭さすって座ってられるの?
向かい側にいるあたしですら、何か居心地悪いのに!
そんなあたしの様子に気付いたのか、八戒がお茶を飲んでいた手を止めてにっこり笑顔で二人に声を掛けた。

「三蔵、がいるんですから銃の乱射はやめて下さい。悟浄もこれ以上余計な波風立てるなら・・・」

「はい!スンマセンでした!!」
「ちっ・・・」

八戒が最後まで言い切るより先に悟浄がペコリと頭を下げた。
三蔵も舌打ちしただけでそれ以上何も言わず銃を懐にしまう。
やっぱり八戒のひと言は強いね。

「んじゃ、いただきま〜すv」

やがて悟空の言葉を合図に、それぞれが宿お勧めのデザートやお菓子、夜食に手をつけた。
寝る前に食べると太る・・・と言うのを今日だけは忘れて、あたしは可愛らしい器に入ったゼリーを手に取った。
スプーンでひと口すくって口に運ぶと、爽やかな甘味が口中に広がる。
これは・・・桃かな?
何て考えながら食べていると、隣に座っている八戒が何も食べていないのに気付いた。
そう言えば八戒手を怪我してるから・・・もしかして食べれないのかな?
あたしは八戒の方に体を向けると手に持っていたゼリーの器を差し出した。

「ねぇ八戒、このゼリー食べる?」

「美味しそうですが、僕はちょっと・・・」

「あたしが食べさしてあげるよ!!」

「「「は?」」」

あたし以外の皆が動きを止めてしまったけど、八戒が怪我したのは絶対あたしの所為だもん。
だから八戒の手が良くなるまで・・・あたしが八戒の右手の代わりをしなくちゃ!!

「えっとゼリーが嫌なら・・・このお饅頭は?」

?僕は大丈夫で・・・」

「ダメ!無理に手を使ったら余計酷くなっちゃうかもしれないでしょ?」

それに八戒を叩いちゃったって言う負い目もあるから・・・今日だけはあたしに八戒の面倒を見させて欲しい。
そう言う思いを込めてじっと八戒の目を見つめたら、八戒はちょっと照れたように笑って机に乗っていたひと口サイズのお饅頭を指差した。

「それじゃぁお言葉に甘えて・・・ずっとこのお饅頭が気になっていたんです。」

「これ?草もちかなぁ・・・あれ、でも開けて見るとちょっと色違う・・・」

包みから取り出して八戒の口元へ差し出すと、それはひと口で八戒の口の中へと入って行った。

「ど・・・どう?」

「とっても美味しいですよ。」

にっこり八戒が笑ってくれたのが嬉しくて、調子に乗って他に食べたい物はないか聞いてみる。

「じゃぁ他は?他に食べたいのは?」

「そうですねぇ・・・それじゃぁが食べているゼリーをひと口味見させて頂いていいですか?」

「うん!これねぇ良く冷えてて美味しいよv」

スプーンで掬って落ちないよう手を添えて先程と同じように八戒の口元へ運ぶ。

「美味しい?」

「意外とあっさりしてますね・・・これは桃ですか?」

「多分・・・あ!八戒、こっちのも食べてみない?」

「いいですね。その前にお茶のお替り入れましょうか。」

「いいよいいよ!今日はあたしが全部やるから八戒は座ってて!!」

あたしは空になった湯飲みを持って、他の皆の湯飲みをチラリと見た。
皆はまだお茶あるね・・・じゃぁ二人分入れよう。
ひょいっとポットを持ち上げたら・・・やけに軽い、もしかしてこれ・・・空?

「ゴメン八戒。お湯が無いみたいだからちょっと貰ってくるね。」

「大丈夫ですか?」

「うん!言葉は通じないけど、これ渡せば大丈夫だと思うから・・・ちょっと待ってて!」

あたしはスリッパを履いて静かに扉を閉めると、仲居さんを探して歩き始めた。





「・・・八戒?」

「はい?」

にっこり笑顔で唖然とした表情の三人を見つめる八戒。
声を掛けた悟浄はゆっくり八戒の右手を指差して、首を捻る。

チャンが言ってるのはその右手首の事か?」

「えぇそうですけど、何か?」

「お前、俺達といる時は右手使ってたじゃねぇか。」

三蔵が手に持っていた煙草を二つに折ってそれを灰皿の中に落とした。

「あとで痛みに気付いたんですよ。いやぁ〜結構こう言う痛みって後から来るんですね。」

あはははは・・・と笑う八戒の笑い声が、やけに部屋の中に響く。

「そりゃあんだけあの痴漢ボコボコにしたら・・・右手首もおかしくなるわな。」

「何か言いましたか、悟浄?」

「いえ、な〜んにも!」

「とっとと気で直せ。」

「湯当たりしたみたいで気も安定してないんですよ。下手に使うとこの宿簡単に吹き飛ばしてしまいますが・・・それでも宜しいですか?」

((ワザとか?))

普段気の合わない悟浄と三蔵の二人が同時にこう思ったのは言うまでも無い。
ただ一人、悟空だけが八戒の腕を心配そうに見つめている。

「いいなぁ八戒。に食べさしてもらって・・・」

「僕はいいって言ったんですけど、が色々と気にしているみたいなので・・・今日はお願いしようかと思います。」

「じゃあ俺も八戒に食べさせる!なぁ何がいい?雑炊?焼きおにぎり?茶漬け?」

全部夜食メニューを勧める所が悟空らしい。
八戒は先程と変わらぬ笑顔で丁寧に悟空の申し出を断った。

「折角ですがそちらは悟空が食べて下さい。僕はお腹いっぱいですから。」

「そっか・・・じゃぁ何か欲しいもんとかやって欲しい事とかあったら教えてな!」

「はい。」





「お待たせー!!お湯貰ってきたよ!」

「ありがとうございます。」

あたしが部屋に戻って来た時、妙に三蔵と悟浄が・・・何て言うか不機嫌そうな顔をしていた。
てっきりまた悟空が何かやって三蔵と悟浄に怒られたんだなって思ったのにどうも違うみたい。
そっちが気になったけど、今のあたしは八戒の右腕。
取り敢えずさっき八戒が食べたいって言っていたこっちのゼリーを開けてみようかな。





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20000hitをゲットされました めぐみ サンへ 贈呈

『15000hitの続きでいじけた八戒(確信犯)を慰める?』と言う、風見初の連続リクエストです。
やはりこの技が使えるのも、キリバンマスターであるめぐみサンならではですねv
と言う訳で、長かった温泉編も終了となりましたが如何でしたでしょうか?
八戒に「あ〜んv」をするシーンを増やそうとしたんですが、何故か前半の二人で話をするシーンの方が長くなってしまいました。
それでもさり気なく八戒の張ってあるワナ?が見え隠れしていれば私的には大成功です(笑)
明らかに見えているワナは・・・風見の文章力と想像力の稚拙さが原因でございます(TT)
めぐみさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv