温泉☆PANIC
「っはぁ〜・・・気持ちいい〜v」
タオルを体に巻いて大きな岩に囲まれた露天風呂に入る。
「やっぱりお風呂はいいなぁー♪しかも大きいし、露天風呂だし・・・何より貸し切り状態ってのが嬉しい!!」
時期的に閑散期なのか、それともただ単にたまたまこの時間お風呂に入りに来るお客さんがいないのか分からないけど、今露天風呂に入っているのはあたしだけ。
「うふふふふっv幸せ〜v」
もとからお風呂好きなあたしだけど、温泉!しかも露天風呂は特に大好きだ。
今日は天気もいいから空には満天の星が見えて、三日月もくっきり見える。
風は時折吹く位で、湯船から出ている部分に当たると火照った体にちょうどいい。
「ん・・・あれ?お湯が沸いてる所に何か書いてある?」
誰もいないのをいい事に、軽く平泳ぎで看板のような物に近づいて目を細めた。
「・・・読めない。」
いい加減中国語覚えないとダメかも。
でも読める漢字だけを拾っていったら「湯」「健康」「痛」「病」・・・「子宝」とかあった。
ちょっと最後の言葉はどうかと思ったけどきっと効能かなんかが書いてあるんだろうな・・・あとで八戒に教えてもらおう。
ちょっと熱くなってきたので手近な岩に腰掛けて、火照った体を夜風に当てていたら聞きなれた声が竹で編まれた壁の向こう側から聞こえてきた。
「うっわ〜スッゲーでっけー!皆早く来いよ!!」
「煩い黙れ。」
「中々広くていいですね。」
「これで混浴なら言う事ねェんだけどな。」
しーんとした空気を一変させる賑やかな足音と話し声。
皆もお風呂入りに来たんだ・・・と思うと、何だか嬉しいような恥ずかしいような複雑な気分だった。
「いっちばん乗り〜!!」
「悟空、ダメですよ。他の方のご迷惑になります。」
「他のってオレ達以外いねェじゃん。」
「・・・ここにはな。」
「あ、そっか隣は女湯だもんな♪」
悟浄の妙に明るい声と、バシャバシャと言う水音が聞こえる。
音しか聞こえないのに皆が何をしているのかなんとな〜く分かって、思わず1人でくすくす笑ってしまった。
「隣にいる方の迷惑になるといけませんから、少し静かにしましょうね?悟空。」
「うん!あれ?でもそしたら隣にいるの?」
「そうですねぇ・・・を案内してから結構時間経っているからもしかしたらもう上がってるかもしれませんけど・・・」
「いんや、チャンならぜってェまだいるって。」
「どういう根拠だ?」
「オレの勘がそう言ってる。」
「・・・馬鹿が。」
片手でお腹を抱えて、もう一方の手で口を押さえて何とか笑い声を堪える。
悟浄の勘って凄すぎー!!
確かにあたしがお風呂に入ってから30分は過ぎてるから、普通ならもう上がってると考えてもおかしくない。
それにあたしがお風呂好きって悟浄に言った事も無いから・・・本当に勘で言ってるんだろうけど、当たってるから凄いよなぁ。
笑いが落ち着いてきた所で、このまま返事をしなかったらもう少し皆の話が聞ける気がして静かにしてようと思ったんだけど、次の声には返事をせざるを得なかった。
「そんなら呼んでみればいいじゃん。
―!!まだそこいんのぉ―――?」
悟空の大きな声に思わずピタリと動きを止め、男湯の方へゆっくり視線を向けた。
今、あたしの名前呼んだのは・・・悟空?
「ご、悟空!?」
「この馬鹿が!!」
「何やってんだよっ!この馬鹿ザル!!」
「何っての名前呼んだだけじゃん!」
「他の方がいたらどうするんです!」
「馬鹿な真似すんじゃねぇ!!」
慌てて悟空を押さえ込んだのか、凄い水音が聞こえてきた。そして三蔵の怒鳴り声の後響いたのは、耳慣れたいつものハリセンの音・・・ってお風呂の中まで持ち込んでるの!?ハリセン!!
「今悟空叩いたのってハリセン???」
はっと気づいて口元を押さえたけどもう遅い。
「「「?」」」
「やっぱりいたじゃん♪」
あたしの声を皆が聞き逃すなんて事は無く、すぐにあたしの名前が呼ばれ、こっそり皆の会話を楽しもうとしたあたしの企みはあっという間に終わってしまった。
結局どちらもあたし達以外誰もいないと言う事で、何時の間にか男湯と女湯の間にある壁際に集まってまるで何時ものように話始めてしまった。
場所が温泉と言う事以外、やってる事はいつもと全然変わりないなぁ・・・。
「そっちのお風呂も岩風呂なの?」
「えぇ、床に小さな石が敷き詰められている部分がありますよ。」
「こっちもあるよー。じゃぁほとんど一緒なんだね。」
「そうですね。」
「景色はどうだ。」
「塀が高いから周りは良く見えないけど、空のお星様が良く見えてすっごく綺麗v」
「・・・そうだな。」
「今日は雲が無いから星も良く見えますね。」
そう言って空を眺めれば、隣にいる皆も同じ空を見てるんだと思うとちょっと嬉しい。
本当は一緒のお風呂の方が楽しいんだろうけど流石にそれは・・・ねぇ?
「なぁチャン、そっち1人?」
「うん。この広いお風呂独り占めしてるトコv気分いいよ♪」
「いいなー・・・俺も独り占めしてみたい!」
「でも悟空、今は皆と話してから平気だけど1人だとちょっと寂しいかもよ?」
実際皆がやって来るまで、暫くの間この広いお風呂を貸し切りって言うのはで気分良かったけど自分が立てる音以外何もしないと言うのはちょっと・・・寂しかった。
だからこうして壁越しだけど皆といられるの、ちょっと・・・って言うかかなり嬉しい。
両手を思いっきり空に向けて伸ばしてこの開放感を味わっていると、突然悟浄がとんでもない事を言い始めた。
「んじゃ、一緒に入る?」
「ほえっ!?」
慌てて壁を振り返ると、コンコンと拳で壁を叩いているかのような軽い音が聞こえ思わずその場から一歩離れてしまった。
「こんな薄っぺらい壁なんてあっと言う間に壊して・・・」
「「「悟浄!!!」」」
慌てて体に巻いたタオルの端を掴んでお風呂の中に肩まで浸かったあたしの耳に届いた音は、盛大な水音と何かを叩くような、吹っ飛ぶような・・・何とも言えない音だけだった。
やがて水音が落ち着き静かになったの頃、問題発言をした人物の名前を恐る恐る呼んでみる。
「ご、悟浄?大丈夫?」
それに返ってきた声は・・・
「生きてますからご心配なく。はゆっくり体を休めてくださいね。」
「おい、悟空。これを外へ捨てて来い。」
「うん!分かった。」
「ゴミ扱いかよ!!」
あ、良かった〜生きてる生きてる。
あのまま反応しなかったらきっと三蔵の言う事は素直に聞いちゃう悟空だから、本当に外に投げ捨てかねないもんね。
ホッと胸を撫で下ろしそろそろ熱くなってきたので上がろうと立ち上がった瞬間、女湯の扉が急に開いて物凄い勢いで誰かが入ってきた。
「?」
他のお客さんが入ってきたのかなぁと思って視線をそっちへ向けたら、決してここにはいない・・・と言うか、いてはいけない人が1人立っていた。
・・・・・・男の・・・人?
頭が真っ白になってボーゼンと立ち尽くしていると、突然その人が何か言いながらこっちに向かってやって来た。
すぐに悲鳴を上げて逃げれば良かったのに、突然の事に驚いて硬直した体は全然言う事を聞いてくれなくて・・・すぐ近くまでやって来た男にあっさり手を掴まれてしまった。
口を開いて声を出そうとしてるんだけど、恐怖からか喉がカラカラに渇いてしまって声が音となって出てこない。
それでも一生懸命足を踏ん張って何とか抵抗したけど相手の力も強くてついに両手首を掴まれてしまった。
やだっ・・・やだやだやだっっ・・・
涙が零れそうになりながら、もう一度大きく息を吸って精一杯声を上げた。
「・・・・・・ゃぁ・・・きゃぁぁぁ――――――!!!!」
「安静作!」(静かにしろ!)
「!!」
掴まれていた両手首が開放されたと同時に男の悲鳴と水音が耳に届き、ふわりと体が浮いた。
「きゃぁっっ―――!!」
「、大丈夫ですか!?」
「やっやだぁっっ!!」
目をつぶったままジタバタと暴れてその腕から抜け出そうとすると、頬に細い指先が触れた。
「僕です!八戒です!」
「いやぁ!・・・ふぇ?」
恐怖でしっかり閉じていた目をゆっくり開けると、そこには星空をバックに心配そうにあたしの顔を覗きこむ八戒がいた。
「は、八戒。」
「大丈夫ですか?何処も怪我とかありませんか?!」
「な、無い・・・けど・・・」
ふと掴まれていた部分を見ると、青紫色の痕が両手首に残っていた。
このアザが・・・どれほど強く掴まれていたのかを物語っていて、先程の恐怖が爪先から全身に広がっていった。
温泉で温まっていたはずの体が一気に冷たくなり、思わず体をギュッと抱きしめたけど恐怖から来る体の震えは一向に治まる気配がない。
「大丈夫。・・・もう、大丈夫ですよ。」
「・・・八戒。」
八戒は抱き上げていた腕の力を少し強めて、あたしの冷えた体を温めるようにぎゅっと抱きしめてくれた。
大きな腕に包まれて、八戒の胸の鼓動を聞いている内に徐々に震えも治まり、ようやく落ち着いてきた頃耳元に悟浄の声が聞こえてきた。
「お〜い、ナニ二人の世界に入ってんだよ。」
ポンポンと頭を叩かれて振り返ると、すぐ目の前に悟浄がいた。
八戒は笑いながらあたしを床に下ろすと、悟浄の方へ体ごと視線を向けた。
「あははははっ、すみません。」
「ったく・・・まぁあの痴漢ヤローはぶちのめしといたけどヨ。」
悟浄の後ろにはさっきの男の人の背中にドカッと乗っかっている悟空と、視線を反らしている三蔵。
ん?何で二人ともこっちに来ないの?
「壁、少し壊れたけど・・・」
「正当防衛って事で大丈夫じゃないですか?」
八戒と悟浄が何か話していたけど、あたしは今更ながらものすっごく大切な事に気がついた。
八戒が助けてくれて、他の皆が痴漢を取り押さえてくれた。
そこまでは・・・いい。
でもここは、何処?・・・ここは、女湯=お風呂の中。
ついさっき迄皆と話をしていたのだから皆がお風呂に入っていた事は明白。
改めて目の前に視線を戻すと・・・腰にタオルを巻いただけの八戒があたしの視線に気付いたのか顔を赤らめながら視線を反らした。
後ろを振り向けば悟浄も口元を押さえて視線をあさっての方向に向けている。
しかもついさっき迄八戒は・・・あたしを抱き上げてた、よね?
って事は・・・
「・・・きっ・・・きゃぁっっっっ!!!」
慌てて体に巻いていたタオルごと自分の体を隠すようにしてしゃがみ込み、本日二度目の悲鳴をあげた。
「す、すみません!」
「見てねェ!な〜んも見てねェ!!」
「やだやだっ!もう上がる!!」
しゃがみ込んでもどうにもならないので、慌てて立ち上がると急に視界がゆがんで体が上手く動かなくなった。
もしかして・・・長時間お風呂に入ってたから、湯あたりおこしちゃった?
「危ないっ!」
あたしが床に倒れる瞬間、側にいた八戒があたしの体を支えてくれたおかげで何とか地面との衝突は免れた。
「あ、ありが・・・」
ホッとしてお礼を言おうとした瞬間、目に入ったもの。
それはあたしを助ける為に背後から伸ばされた腕が・・・見事胸に当たっていたと言う事。
「きゃぁぁっっっ―――――!!!」
思わず支えられていた手を振り払って、そのまま遠心力に任せて手を振ってしまった。
すると・・・パシ―――――ンと言う何とも乾いた音が露天風呂に響き、あたしはその音が何かを確認するよりも前にその場を逃げ出してしまった。
「・・・?」
タオル一枚何て殆ど裸と同じようなものじゃん!!
そんな、そんな格好見られた上に抱き上げられて・・・しかも、しかも・・・不可抗力とは言え胸まで触られたぁーっ!!
脱衣所に駆け込むと、宿の人達が何事かとやってきた所で・・・あたしは痴漢男の事などすっかり忘れて、ただただその場にしゃがみ込んで泣きじゃくるだけだった。
もーっどんな顔して会えばいいのかわかんないよぉっ!!
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15000hitをゲットされました めぐみ サンへ 贈呈
『温泉へ行って、女湯に痴漢が現れ・・・色々あった後、八戒さんに平手打ち。』と言うリクエストで、風見一番の難関は・・・八戒に平手打ち、でした(笑)
いやぁもう・・・何度叩き損ねたか(苦笑)ってか、叩けませんって!!!
最初は痴漢と間違えて叩こうとしたけど上手く書けず、結局恥ずかしさのあまり叩き逃げと言う事になってしまいました。
さ、さすがキリバンマスター・・・リクエストも一味違います!
めぐみさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv
※ この話はこの後・・・20000hitのリクエストに続きます。
宜しければ、そちらもお楽しみ下さい。
更に追記(笑):この話にはオマケがあります。
一行が温泉旅館について、お風呂に入るまでのホンのひと時です。
宜しければそちらもご覧下さいませv
