料理は愛情。







ぐるるるるぅ〜〜〜

良くマンガとかドラマでお腹が鳴る時、凄く可愛い音で表現するけど・・・あたしのお腹は自己主張が激しかった。
それが一人の時なら良いけど、何で・・・何で今悟浄と二人っきりでいる時に鳴るかな!?

「・・・ぷっ」

案の定、目の前で雑誌を読んでいた悟浄は雑誌で顔を隠して笑い声を必死で堪えている。
でも肩は微かに揺れていて・・・どうみても笑ってるのバレバレ。
必死でお腹に力を入れてその音を抑えようとしたけど、音が小さくなっただけで空腹を訴える音は止まらない。
・・・自分で穴掘るから、今すぐ何処かに隠れさせてくれ。
そんな事を思いながら恥ずかしさで自然と赤くなった顔を隠すように俯いていると、あたしの頭をポンポンと叩く大きな手があった。
ゆっくり顔を上げると悟浄が何処からかゴムを取り出してまるでポニーテールみたいに髪を纏めて上にあげてる姿が見えた。

「何かメシ作るか、オレもハラ減ったし・・・な。」

こっちに来て悟浄が台所に立っている姿は・・・冷蔵庫からビールを取り出す姿くらいしか見た事が無い。

「悟浄ご飯作れるの!?」

そんな姿しか見た事が無ければこんな言葉が口から出てもおかしくは無い・・・だろう、多分。

「あのね、今は八戒が台所の権利持ってっけどその前はオレだって一人暮らししてたんだゼ?一応料理くらい出来るって。」

苦笑しながら台所へ入っていく悟浄の後姿をボーッと眺める。
言われて見ればそうだよね。
今は八戒が殆どお母さん的役割だから料理の心配とか全然した事無かったけど、八戒がここに来るまでは悟浄も一人暮らしの男の人だったんだから料理ぐらいするか。
・・・でもどっちかって言うと、綺麗なお姉さんがここに来てご飯作ってくれて片づけをしてってくれるイメージの方が強いかも。

「・・・この家にオンナはチャン以外入れた事ねーよ。」

「ほぇっ!?」

右手に包丁、もう片方の手に皮を向いた玉ねぎを手にした悟浄がいつものように不敵な笑みを携えながらあたしの前にやって来た。

「ホント?」

「ホントv」

うっわぁ〜な、何か凄く嬉しいかも。
今迄女の人が入った事が無い所にあたしだけ入れて、しかも二人と一緒に生活できてる・・・これって何だか凄く『特別』って感じがするよね?

「ま、オレは八戒ほど器用じゃねーし?男のひとり暮らしで作れるモンなんてたかが知れてっけど・・・茶でも飲みながら待ってろナ?」

「うん!ありがとう悟浄!」

「現金なヤツ。」

悟浄が手を上げて台所へ戻っていく後姿に、笑顔で手を振りながらさっき自分で入れたアイスコーヒーとテーブルに置いてあるクッキーを摘みながら悟浄の手料理が出来上がるのを待つ事にした。





何作ってくれるのかなぁ?
そう言えば本の中で八戒は悟浄の作るラーメンの話とかしてたよね。
ラーメンとは言いがたいごった煮のラーメンって・・・それも気になるなぁ。
ひょっとして今作ってるの、ラーメンだったりして。

思考がピタリとやんだ所で、外では夏の風物詩でもあるセミがより一掃暑さを際立たせるように騒がしく鳴いていた。

「・・・熱そうだ。」

食べる方もだけど、作る方も熱そうだ。
そんな風に色々考えているうちに玄関の扉が開いて八戒が外出先から戻ってきた。

「ただいま戻りました、スミマセン遅くなってしまって・・・」

「お帰りなさい八戒!」

額の汗をハンカチで拭いながらそれでも笑顔の八戒にあたしも笑顔を向けた。
ふと八戒の肩に乗っていたジープが首をダラリとさせて口をパクパクしていたのがとても暑そうだったので、思わず側にあった新聞をたたんでパタパタと風を送ってあげると気持ち良さそうに目を細めている。
ジープは毛があるからあたし達より暑いよねぇ・・・今日も外、相当暑いんだ。

「さて、すぐにお昼にしましょうか。お腹空いたでしょう?」

「あ、でも悟浄がお昼作ってくれてるよ。」

「え?」

あれ?何で八戒そんなに驚いた顔してるの?
悟浄がご飯作るの、そんなに珍しい事なのかなぁ?

「・・・悟浄が、ですか?」

「うん。あたしのお腹が鳴っちゃって、でもまだ八戒帰ってくる気配無かったから我慢してようと思ったんだけど、そしたら悟浄もお腹空いたから何か作るかーって言って・・・」

「何時頃から作り始めたんですか?」

「んー30分くらい前かな?」

「何を作るか、聞きました?」

「ううん。お任せしちゃったけど・・・八戒、口元押さえてどうしたの?」

何だろう、この妙に不安感を倍増させるような八戒のまとっている空気は・・・。

「・・・ねぇ、そんなに悟浄が台所に立つの・・・・・・危険?」

「危険ですね。」

そ、そんなにキッパリと言い切られたら何にも言えないよ。
しかも・・・真剣な顔してるし、八戒。
それでも一応その『危険』と言う言葉が何を示しているのか勇気を振り絞って確認してみた。

「それは・・・お腹?悟浄?それとも・・・あたし達?」

「ある意味全部です。」

これまたキッパリ言い切った!!シンと静まり返った室内で、耳に入ってくるのは台所で何かを炒めているような音とさっきと同じ外の暑さを増幅させるかのようなセミの鳴き声だけだった。










「お、何だお前も帰ってたのか。」

「えぇ。」

「やっぱ大目に作っといて正解だったな♪ちょっと待ってろ。」

汗だくになりながらもどこか達成感のある爽やかな感じの悟浄と、少し疲れた様子の八戒・・・そして、一体何が出てくるのか期待と不安半々のあたし。
そんなあたし達の事など全く気にしていない悟浄が台所から両手にお皿を持ってやって来た。

「ほい、悟浄特製チャーハンお待ち!!」

「・・・うわぁっv」

目の前に置かれたのは、ほかほかした湯気の向こうに様々な具が入ってちょっぴり焦げ目のついた美味しそうなチャーハンだった。

「すっごーい!美味しそう!!」

「だろ?お替りあるからいっぱい食えよ。」

うんうんとあたしが頷いたのがよほど嬉しいのか、悟浄はあたしの頭をぐしゃぐしゃっと撫でた後持って来るのを忘れたスプーンを取りに一旦台所へと姿を消した。
あたしは早く食べたくてうずうずしてたんだけど、ふとさっき迄苦悩の表情を浮かべていた八戒を思い出してチラリと視線を横へ向けた。

「・・・こう来ましたか。」

小声で呟かれた謎の言葉。
その言葉の意味を聞こうと思うよりも早く、悟浄がスプーンと自分の分のチャーハンを持って戻ってきたので今はご飯を食べる事を優先する事にした。

「いただきます。」

両手を合わせてスプーンでチャーハンを掬って口に運ぶ。
八戒があれだけ不安そうな事を言ってたから、実はちょっとどんな味か怖かったけど・・・意外や意外パラリとしたご飯と、キチンと味付けされた具がちょうど混ざり合ってて、空腹で倒れそうだったあたしのお腹には勿体無いほどおいしい味だった。

「悟浄!美味しい!!」

素直な感想。
家であたしが作ると、いつもご飯がパラパラにならなくて不満なんだけど悟浄特製チャーハンは中華料理屋さんで出てくるのと同じくらい美味しかった。

・・・ここまで言うと褒めすぎかな?

「久し振りのワリには結構上手くいったな。」

「今日は普通ですね。」

「今日は・・・って何だよ。」

もぐもぐ食べながら隣の八戒と目の前の悟浄の会話を聞く。

「いつもなら・・・ほら、人参の皮は剥かないし、キャベツの芯もそのまま炒めるじゃないですか。」

「・・・そうか?」

「それに以前作った時にはチャーシューを包んでいる薄い紙も一緒に混ざってましたよね?」

「たまたまだろ!たまたま!!」

「それにいつもならザク切りの所、今日はが食べやすいように野菜も細かく刻んでありますし・・・」

「そー言う気分だったんだよ!」

「それに卵も・・・」

「あーもー文句言うなら食うな!」

「文句なんて言ってませんよ。いつもこれだったらたまに作って貰いたい位です。ね、?」

「うん!あたし悟浄のチャーハン、好き!!」

チャーハンを口に運ぶ手を止めて、正面に座っている悟浄へ笑顔で言えば・・・少し照れたような顔をしながら悟浄が小さな声で呟いた。

「サンキュ」





初めて食べた悟浄の手料理は、本で読んだごった煮ラーメンと違ってキチンと野菜も切られていたし味もしっかりしていて美味しかった。
でも悟浄が食後の片づけをしている時に八戒がこっそり教えてくれたけど、いつもよりも味が薄味であたし好みに味付けをしてくれてたって事を教えてくれた。
普段だったらもう少し辛味を効かせてキムチとかザーサイとかを入れる事が多いらしいけど、今日は・・・どちらかと言うと野菜が多くてあっさりした味だった事を思い出した。
今度は悟浄好みのチャーハンも・・・食べてみたいな。





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『悟浄の手料理を食べる』と言うリクエストで、当初のメニューはごった煮ラーメンでした。
これが全然書けなくて、ちょっと時間を空けてメニューを炒飯に変えました(笑)
炒飯なら一人暮らしの男性が良く作りそうだし、悟浄大きな鍋とか使うの上手そうだし・・・と言う安直な理由で(苦笑)
悟浄は真っ赤な炒飯(キムチとかザーサイとか入った辛いやつ)好きそうだなぁと思ったんですが、今回はヒロイン向けにあっさり風味にして貰いましたが如何でしょうか?
香香さん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv