噂のアノ人







「ねぇ八戒。」

「はい何ですか?」

秋の味覚、栗ご飯を作る為さっきから栗の皮をむいている八戒の邪魔にならないよう遠慮がちに声をかける。
前からちょっと気になってる・・・ある事を聞くために。

「八戒はあのケーキの美味しいお店、知ってるよね?」

「あぁあの外観がとても可愛らしいお店ですね。」

悟浄曰く少女趣味全開な店・・・そして、可愛い制服を着たお姉さん達に紛れて一筋縄ではいかないとぼけたおばちゃんのいる、悟浄にとって鬼門の店。

「八戒はもうあのお店何度も行ってるの?」

栗を向く手を止めた八戒が何かを思い出すように顎に手をあて首をかしげた。

「そうですねぇ・・・結構あのお店は行ってる、と思いますよ。が以前食べたプリンのレシピもあのお店で教えていただきましたし・・・」

「え゛」

レシピを教えてもらえるほど仲がいいの!?
って事はそこのお店の店長さんかパティシィエさんと仲が良いって事だよね?
それぐらい仲良くないとお店の命でもあるレシピ、教えてくれるなんて事無いもんね。
・・・って事はあの人とも、話した事あるって事?

「悟浄がいつも言っているあの人も、よーく知ってますよ。」

「ほぇ?」

毎度毎度思うんだけど、八戒ってどうしてあたしの考えてる事わかるんだろう???

は本当に素直ですね。」

「・・・もしかして顔に書いてある?」

「えぇ、ちょっとだけ。」

くすくす笑いながら再び栗をむき始める八戒に改めて訪ねてみた。

「あのケーキ屋のおばちゃんって・・・いっつもあんな感じなの?」

「あんな感じ?」

「んー・・・悟浄に言わせると『天然なんだかボケてるんだか分かんないおばちゃん』だって。」

確か前一緒にケーキ屋さんに行った時そんなような事言ってたよね、確か。

「天然・・・ですか?」

「うん、いつもケーキの注文すると必ず一回じゃ聞いてくれないんだって。違う商品を一個ずつ・・・えっと例えば『精霊達の輪舞(ロンド)』と『人魚の涙』を買うと『精霊の涙』って言う商品作っちゃったりとか・・・」

「ご年配の方にはちょっと覚えにくいですからねぇ、あの商品名は・・・。」

剥き終った栗をボウルに入れて空になった袋をたたんでゴミ箱へ入れる。

「ケーキと名前は一致しないけど商品の名前可愛くて好きだよ、あたし。」

何気なく言った台詞だったのに・・・何故か八戒が満面の笑みを浮かべてこっちを振り向いた。

「どうもありがとうございます。」

「・・・ほぇ?」

あたし、八戒にお礼を言われるような事言った覚えないけど・・・。

「あの、八戒?あたし別にお礼を言われるような事した覚え・・・ないけど・・・」

栗の皮むき手伝おうとしたらもう残り僅かだったーとか、何か手伝おうかって声かけるの遅れたーとか・・・逆にあたしが謝らなきゃいけない事はいっぱいあると思うんだけど・・・。

「今が褒めてくれたじゃないですか、可愛い名前だって。」

「え?あぁケーキの名前ね。」

そっかそっかケーキの名前か・・・・・・ってちょっと待った!

「まさか・・・」

あたしの頭の中にある事が浮かんだ。
今までの話を総合すると・・・まさか・・・まさか、あのケーキ屋さんのネーミングは・・・。

「実はあのお店のケーキの名前を考えたの・・・半分くらい僕なんです。」

「えええええー!!!」










八戒達の住む町に可愛らしい外観のお店が出来た。
店員さん達の制服も可愛く、一時は行列が出来るほど人気が出たが一定期間を過ぎると町の人達の興味も薄まり、ただの洋菓子屋として町に馴染んでしまった。
その為客足が途絶えてしまい、売り上げが一気に落ちてしまったらしい。
売り上げが落ちればバイトを雇う事も出来ない。
すると自然と店長と副店長である老夫婦が店頭に立つことになり、折角の可愛い外観と制服も意味の無いものになってしまう。
そんな所へ近所の奥さん達から美味しいお菓子屋さんの情報を仕入れた八戒がケーキを買いにきて、落ち込んでいる人をほっとけない八戒がさり気なくケーキの名前も普通の物じゃなく外観や制服に合わせて可愛い物にしてみたらどうか・・・と言うアドバイスをしたらしい。とは言え、老夫婦にそんな物が思い浮かぶはずも無く結局その頃店に並んでいた物はすべて八戒がケーキの名前を付け替えたらしい。










「そ、そんな裏話が・・・」

「別に話す必要も無かったかと思って黙ってたんですが、そうそう以前悟浄が食べた『月のかけら』と言う名前をつけたのは僕ですよ。」

月のかけら・・・あぁ、以前悟浄とジャンケン勝負をした時に悟浄が食べてたレアチーズケーキね。
あれは結構上手なネーミングって思ったけどなぁ・・・。

「他の物は・・・そうですねぇ。この間新シリーズのタイトルが決まらないと言っていたので天使シリーズなんてどうですか?って言ったのも僕ですね。」

そ・・・それはまさか、悟浄がホワイトデーのお返しを買う時に死ぬほど苦労していた『天使の告白』も含まれてるんじゃ・・・。

「・・・オマエが諸悪の根源か!!」

「おや、悟浄お帰りなさい。」

すまし顔の八戒の後ろでは今日は涼しくて汗なんかかく筈も無いのに、顔を真っ赤にして額の汗を手の甲で拭っている悟浄が立っていた。

「あ、ケーキv」

肩で息する悟浄の手にはいつものあのお店の箱が握られていた。

「秋の新作ケーキ、ありましたか?」

にっこり笑顔で訪ねる八戒に、悟浄は頬をピクピク引き攣らせながらケーキの箱を差し出した。

「あぁ。」

「2種類ですか?」

「・・・あぁ。」

「良かったですね、今日のデザートは『リスの宝石箱』と『小人たちの収穫祭』ですよv」

一瞬の静寂の後、あたしの耳には何かがプチリと切れる音が聞こえた。

「やっぱりテメェが諸悪の根源か!!!」





どうやら今年の秋のケーキフェアのタイトルを決めたのも・・・八戒のようである。
ちなみにあのオバチャンが惚けたフリをするのは・・・好みの男性の前だけと言うのはここだけの話。
八戒曰く、悟浄はあのオバチャンの死んだ旦那さんの若い頃にそっくり・・・なんだって。
惚けたフリをすればそれだけ長く会話が出来るし、見ていられるからと言うなんともいじらしい乙女心の持ち主だったみたい。

Goodボケ賞なんてのを貰ってからは今まで以上に客の選り好みをして、楽しく第二の青春を謳歌している・・・そうです。





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11000hitをゲットされました めぐみ サンへ 贈呈

『「GOODボケ賞」のオバチャンと八戒の攻防』と言うリクエストだったのですが、どうしても八戒とおばちゃんだと普通の買い物話になってしまったため、今回あのオバチャンの裏話・・・と言う事で書かせていただきました。
書いてる自分でも笑いが止まりません(笑)
オバチャンがそう言う理由でボケてたとか、お店にそんな苦労がっ!とかそこじゃなくてあのケーキのネーミングが八戒って所が笑いのツボでした(笑)
そんな訳で若干リクエストと変わってますが、宜しかったらお受け取り下さい。
めぐみさん、リクエストありがとうございましたv
随分長い間お待たせいたしましたが、少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv