揺れる未来
「悟浄、悟浄ってば!」
「ん・・・あぁ?チャン何、夜這い?」
寝ぼけ眼であたしを見る悟浄はちょっと可愛くって・・・でも言ってる事はいつもの悟浄なんだよね。
取り敢えず悟浄に現在の時刻を知ってもらうべく、側にある窓のカーテンを開けて日の光を部屋に取り込んだ。
「・・・もうお昼になるよ。」
「んだよ、もうそんな時間か・・・」
大きな欠伸と共に悟浄が起き上がって、気だるそうに髪をかきあげるとベッドサイドにおいてあるタバコに手を伸ばした。
「んで?珍しくチャンが俺んトコ来た理由は?」
さすが悟浄、あたしなんかの行動パターンバレバレ?
「手に洗濯カゴ持ってるって事は・・・洗濯物の回収ですか?オジョーサン?」
えぇ!?そこまで分かる!?・・・って当たり前か。
せめて籠くらい置いてくれば良かったかな。
「大当たり。八戒が用事で出掛けちゃって暇だからお洗濯でもしようかと思って・・・八戒の洗い物は出掛けに出してもらったんだけど悟浄の無かったから回収に来てみました。」
「そりゃドーモ、んじゃ・・・」
そう言うと悟浄はおもむろに自分が着ていたシャツを脱ぎ始めたので慌てて止める。
「って何でそれなの!?」
「これだって立派な洗いモンだろ?」
「そ、そりゃそうなんだけど・・・えっと、あたし外に出てるからカゴに入れてね!!」
カゴを悟浄の目の前に置いて慌てて部屋を出て行く。
悟浄達との生活に慣れてきたとは言え、さすがに目の前で脱がれるとちょっと目のやり場に困る。
最初にこっちに来た頃、悟浄は結構上半身裸で家の中にいる事が多くてその度にあたしは机に顔を伏せたり、雑誌で顔を隠したりしてたんだけど最近その回数は減った。原因は八戒の教育的指導・・・どんな指導が行われたのかあたしには分からないけど、ある日を境に悟浄はあたしが来た事が分かるとシャツを上に軽くはおったり、タンクトップを着てくれたりと気を使ってくれた。
「・・・あたしってからかいやすいのかな?」
「いんや、どっちかっつーと反応が楽しいって言うのが正解v」
「そんなに面白いかなぁ・・・」
「面白いっての語弊があるかもナ。ほい、洗濯物。」
ソファーに座っていたあたしの前にシャツなどの入ったカゴを置いて、隣に悟浄が腰掛けた。
「チャンの場合楽しいっつーより、表情がイイんだよな。」
「表情?」
思わず自分の頬を両手で引っ張って伸ばしてみる。
これの何処がいいんだろう?
「おいおい違うって、カワイイ顔が台無しだろ。」
ニッと笑って頬を引っ張っていたあたしに手に悟浄の手が重なる。
あたしの手なんかすっぽり包んじゃうくらい大きな悟浄の手。
「オレさ、マジな話チャンみたいなオンナって初めてなんだよな。」
「え?」
「なんつーの?自分の気持ちに素直で正直で、やる事なす事裏が無い、損得ナシに人の為に動く・・・そんなオンナいるんだなって思わされた。」
「悟浄・・・どうしたの?今日・・・何か・・・」
「オカシイか?」
そう言って重ねていた手であたしの手をぎゅっと握りこむとそのまま下に下ろしてあたしの膝の上に手を置いた。
「オレだってたまにはこんな話、したくなる時もあんの。」
間近で少し照れた様に笑う悟浄、こんな悟浄今まで見た事あったかな?
「オンナなんてする事したらそれで終わりって思ってた。ま、そんな深入りしたいとも思わなかったしな・・・」
悟浄はあたしの手を掴んだままゆっくり肩口に額を乗せると小声で話し続ける。
悟浄のこんな話もこんな声も・・・今迄聞いた事・・・無い。
「それがチャンに会って、こうしてたまに一緒に居る様になって・・・オレの中のオンナのイメージがかなり変ってきた気がする。」
肩に乗せられた悟浄の声が耳に届く度に体の力が抜けていく気がする。
「オレの周りにいたオンナなんて・・・何かしらの利益を求めるヤツが多くてさ。オレもそれを利用してたからあんま言えねーケド・・・でもチャンといるとさ、なんつーの?自分がすっげー穏やかな気持ちでいられるって事、最近知った。」
「そ、そうなの?」
悟浄が顔をあげてじっとあたしの目を見つめる。
真っ赤な瞳はいつに無く真剣で、反らしてしまったらもう悟浄と向き合えない、そんな感じさえした。
不安そうなあたしの気持ちに気付いたのか、悟浄の表情が一変した。
「・・・チャンは優しいな。」
そう言うと急に笑顔になり、あたしの髪を思い切りぐしゃぐしゃとかき回した。
「うわっ!急に何するの悟浄!!」
「ヘンな話して悪かったな。ほら、とっとと洗濯モン放り込んで来いよ。」
両手を引っ張ってあたしを立ち上がらせると、床に置いていたカゴをあたしに手渡しそのまま肩を押して洗面所の方へ強引に行かされた。
「早くしねェと日が暮れちまうゼ♪」
「う、うん。」
戻って悟浄の話を聞き直せそうな雰囲気じゃなくなっちゃったな。
取り敢えず初志貫徹。洗濯機に三人分の洗濯物を入れて洗剤を入れスイッチを押す。
あー全自動洗濯機バンザイ・・・って馬鹿やってないで早く悟浄の所に戻ろう。
何だか今日の悟浄は一人にしちゃいけないような気がする。
あたしの杞憂だといいんだけど・・・。
居間に戻ったら悟浄はテーブルに座って新聞を読んでいた。
えっと・・・えっとどうしよう、何すれば、どうすればいいんだろう。
考えがまとまらないまま悟浄の前まで来てしまった。
「ナニ?もう終わったの?」
「ううん、まだ洗濯機回しただけだからあと30分くらいかかると思う。」
「ふ〜ん。」
「ふーんって悟浄、自分の家の洗濯機でしょ?」
「八戒が来てから自分で洗濯機回した記憶・・・ねェンだなコレが。」
自慢するかのように言ってるけど・・・悟浄、それ自慢じゃない。
思わずこめかみに手を当てて考え込んでしまったあたしの手をずるずる引っ張って悟浄があたしをソファーに座らせた。
「悟浄?」
「ワリィけど洗濯機が止まるまで少しそのままでいてくれるか?」
「?」
「わかんねェって顔。」
額を指で突付かれて思わず頭が後ろに反ってしまった。
その行為に抗議しようと起き上がろうとしたら、悟浄がソファーに座っているあたしの膝に頭を乗せて器用に横になっていた。
このソファーはもともとそんなに大きくなくて、あたしが寝転がるくらいなら余裕だけど悟浄や八戒がこのソファーで休もうとするとどうしても足が出てしまう。
だから今、あたしの膝枕で寝ている悟浄の足は膝から下が宙に浮いてるような状態。
「悟浄!?」
「ナンか今日はやけに眠くて・・・洗濯機止まったら干すの手伝うから・・・暫くこのまま・・・」
そう言うと悟浄はゆっくり瞼を閉じていった。
ずるいなぁ、こんな無防備な姿見せられたら振り払って立ち上がる事なんて出来ないよ。
悟浄の額にかかっている前髪を指でちょいちょいっていじってたら、それがくすぐったいのか悟浄が体勢を入れ替えて横向きになった。
残念、さっきまでは上向いてたからじっくり寝顔見れたのに、反対側向いちゃったら横顔しか見れないよ。
その時、ふと悟浄の頬の傷跡に目がいった。
お母さんにつけられた・・・傷。
そっと手を伸ばしてその傷に触れようとして・・・止めた。
まだ触れられないってこの時思っちゃったから・・・。
「ん〜・・・良く寝た!チャン?」
「悟浄動いちゃダメェ〜!!!」
悟浄が目を開けて両手を伸ばした瞬間、あたしの足に嫌な痺れが駆け巡った。
よく正座とか同じ体勢をずっと続けてると血の巡りが悪くなってこの状態になる事がある。
今のあたしはまさしくその状態。
ピクリとも動かないで足の痺れが去るのを耐えていると、悟浄がゆっくり起き上がり問題の足を見た。
「うっわ、もしかして痺れてる?」
「そ・・・う・・・」
言葉を喋ろうとするその動きですら足が痺れてしまってツライ。
ううぅ〜早く元に戻ってぇ〜!
ふと目の前のいや〜な気配に気付いてゆっくり顔をあげると、悟浄がとっても楽しそうな顔でゆっくりあたしの足に手を伸ばしてきた。
「やっ!それはダメ!!」
「ダメって言われるとやりたくなるよナ〜♪」
「ご、悟浄のせいで痺れてるんだよ!!」
「こんなになる前に起こせば良かったろ?」
あんなにカワイイ顔して寝ている悟浄を起こせるわけないじゃん!
普段のカッコイイ悟浄とは全然違って幼い感じがして・・・しかも寝る前に妙な事言ってたから無理矢理起こす事なんて出来なかったんだもん!!
「と、とにかくっ・・・ダメー!!」
必死の形相で訴えると悟浄は小さくため息をついて手を引っ込めてくれた。
「膝枕サンキュ、気もち良かったゼ♪」
「☆○◆◇▽▲★〜!!!」
恩を仇で返すとはまさにこの事だろうとこの時思った。
立ち去り際にポンポンと痺れきったあたしの足を2回も叩いてくれた事で、あたしは声にならない声を上げてソファーに倒れこんだ。
すぐ側では声も出ないくらい笑っている悟浄の姿。
涙を流しながら悟浄をキッと睨むけど、あたしの視線なんて痛くも痒くもなさそう。それでもこう言わずにはいられない。
「悟浄の馬鹿ぁ!!」
「チャンってやっぱサイコーにイイ女、だな♪」
そう言って再びあたしの足に手を伸ばそうとした悟浄の手を渾身の力で振り払う・・・でもそれがまた痺れた足には辛くって、再びもがくあたしを見て悟浄は再び楽しそうに笑い出した。
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10000hitをゲットされました 夜志あゆみ サンへ 贈呈
『うたた寝で悟浄がちょっと幸せ気分になれるような話』と言うリクエストでした。
悟浄を幸せ気分にする為、今回は邪魔者なし(笑)平和ですねぇ・・・って平和か!?
でもちょっと前半悟浄がブルー入ってる気がします・・・一眠りしたらいつもの悟浄に戻ったみたいですが・・・どうしたんでしょう?(おいおい)
あゆみさん、リクエストありがとうございましたv
少しでも楽しんで頂けると嬉しいです!
また遊びに来て下さいねvvv