低分子量G蛋白質Rabの網羅的機能解析
Rasスーパーファミリーに属する低分子量G蛋白質Rab(ラブ)は、酵母から哺乳動物に至るまで全ての真核生物に普遍的に保存されており、細胞内の膜(小胞)の輸送を制御すると考えられています。Rabは膜輸送の制御因子の中で最大のファミリーを形成し、そのアイソフォーム数は生物種ごとに大きく異なります。例えば、出芽酵母では約10種類、線虫やショウジョウバエでは約30種類、ヒトやマウスなどのほ乳類では約60種類の異なるアイソフォームが存在することが知られています。興味深いことに、これらのアイソフォームの中で酵母からヒトまで進化的に保存されているのは僅か5種類で、残りの大多数は種(あるいは脊椎動物)特異的なものです。すなわち、これら大部分のRabは細胞が細胞として生きて行くために必要なもの(housekeepingな役割)ではなく、何らかの特殊な機能を担うものと推察されています。しかしながら、ヒトやマウスに存在するRabのアイソフォーム数は非常に多いため、他の低分子量G蛋白質に比べて機能解析がこれまで立ち後れていました。
最近私達は、ヒトやマウスに存在するほぼ全てのRabを対象とした比較解析ツール(Rabパネル)の開発に成功し、ゲノムワイドでのRabの網羅的機能解析が可能になってきました(詳しくは総説・生化学をご覧下さい)。既に1千を超える様々なタイプのツール(FLAG-Rab,
GST-Rab, EGFP-Rab, GBD/GAD-Rab, TBC/Rab-GAP, siRNA/shRNA, 抗体, constitutive active/negative変異体など)を作製し(現在もさらに発展中!多くはまだ未発表です)、様々な生命現象におけるRabの役割の解明に挑んでいます。Rabの網羅的機能解析に関しては、世界中のどのラボにも引けを取らないノウハウを持っているのが、当研究室の特徴です。ご興味のある方は下記の文献をご覧下さい。
2016年以降に発表したプラスミドツールに関しては、理研バイオリソースセンターより入手可能です[リンク]! KO細胞株(MDCK-II:
RCB5099〜RCB5148、RCB5389〜RCB5390)(HeLaM:
RCB5093〜RCB5098)も理研・セルバンクより入手可能になりました[リンク]!
FLAG-Rab: ほ乳類細胞での共免疫沈降に使用し、Rab結合特異性を示すのにも活躍しています(例:Slp2-aとRab27の結合)。→ JBC, 2002; JBC,
2003; BST,
2006
GST-Rab: GST
pull-downに使用し、結合分子の探索やRab結合特異性を示すのに使用します。→ MBC, 2008; Traffic,
2010; EMBO J, 2010; Brain, 2017; J Proteomics, 2020
EGFP/mStr-Rab: Rabの細胞内局在を示すのに有用で、Rab5/7/11などはオルガネラ(エンドソーム)のマーカーとして頻繁に使用されています。→
JCS, 2006; Traffic,
2011; JBC, 2012; JCS, 2012; JCB, 2016; PNAS, 2018; JCS, 2018; JCS, 2019; JCB, 2019; CSF, 2020; Cell Rep, 2022
GBD/GAD-Rab: 酵母two-hybrid用のベクターで、Rabエフェクター、GEF/GAPの探索、さらにはRab結合特異性を示すのにも活躍しています。→ GTC, 2006; MCP,
2008; MBC, 2009; CSF, 2011; JBC, 2012; BBRC, 2013; Sci Rep, 2015; Biol Open, 2015; JBC, 2019; JCS, 2021
Rab(CA/CN): 活性化型固定化(CA, constitutive active)及び不活性化型固定化(CN,
constitutive negative)変異体にEGFPタグを付加したもので、特定の膜輸送の促進/阻害に有用です。→
JCS, 2012; JI, 2012; Cell Rep, 2017
TBC/Rab-GAP: ヒトに存在する約40種類のTBC蛋白質(Rab-GAP、不活性化酵素)を用いて、Rabの機能解析を行うのに有用です。→ JBC, 2006; GTC,
2009; JCB, 2011; JBC, 2016; Autophagy, 2016; PLoS One, 2017;
Cell Rep, 2019; JCB, 2022
Rab-GEF: ヒトに存在する約30種類のGEFドメイン(DENNドメイン、VPS9ドメイン、Sec2ドメインなど)を含む蛋白質を用いて、Rabの活性化機構の研究に有用です。→ JBC, 2013; JBC, 2014; MBC, 2016; JBC, 2019; JBC, 2020; JCB, 2022; JCS, 2023
pMRX-Rab: レトロウイルスを用いたマウスRabの安定発現株の作製に有用です。→ JCB, 2011; JCS, 2019; JCB, 2019
siRNA/shRNA: マウス、ラット、ヒトに存在する全てのRabアイソフォームをノックダウンすることが可能で、Rabの機能解析をgenome-wideで行うのに有用です。→ EMBO Rep, 2013; JBC, 2015; JCB, 2016; Cell Rep, 2017; Neurosci Lett,
2018; JV, 2019; CSF, 2020; JBC, 2020; IJMS, 2022
Anti-Rab
antibody: 60種類のRabに対するアイソフォーム特異的抗体(例:Rab1A/B,
Rab2A/B, Rab27A/B, Rab32, Rab33A/B, Rab35, Rab36, Rab37, Rab38等)で、細胞内局在の検討や免疫沈降に使用されています。→
JCS, 2006; MBC,
2009; JCS, 2012; JBC, 2012; Biol Open, 2014; JBC, 2015; JCB, 2016; JCB, 2019; JBC, 2020
Rab KO
cell line: CRISPR/Cas9により作製したMEFやMDCK細胞のRab KO細胞株(例: Rab2A/B, Rab35等)。→ JCB, 2016; eLife, 2017; JCS, 2018; JCS, 2019; JCB, 2019; CSF, 2020; JBC, 2020; Small GTPases, 2021; Curr Biol, 2021; BBRC, 2021; Cell Rep, 2021; JCS, 2021; Cell Rep, 2022; IJMS, 2022; Autophagy, 2024
GTP-Rab
trapper/sensor: 細胞内の活性化型のRabをトラップしたり、可視化したりするツールです。→
GTC, 2004 (for Rab3); JBC, 2006 (“RBD27” for Rab27); CSF, 2011 (“RBD35” for Rab35); JCB, 2011 (for Rab33B); MBC, 2016 (for Rab21); JBC, 2016 (“RBD32/38” for Rab32/38); MBC, 2016 (“RBD8/10” for Rab8/10); JCS, 2021 (“RBD11” for Rab11)