小林 よしのり

 手塚治虫とならび、わしの本棚を最も占有する作家である。

近年「ゴーマニスト」としての側面ばかりが強調されるのは致し方ないが、

「漫画からメロディが聞こえてくる」希有な漫画家であり、

幾多のギャグに流れるリズム感、音感は他に類を見ない。

これに並ぶべきは全盛時の山上たつひこぐらいであるが、

そのリズム感溢れるギャグの数は比較にならない。

本来ならそのようなシーンをここに掲載したいぐらいだが、

版権の問題もありここでは割愛する。

 また、

「験勉してる?」「親指大ね!」

「ともだちんこ!」

に代表される言葉遊びとしてのフレーズも秀逸である。  

 

 

  東大一直線、東大快進撃

 昨年から「電波少年」にて放映されたシリーズの モチーフとなった作品であり、

氏を世に出した作品でもある。

「東大一直線」当時は純然たるギャグ漫画であり、

上記のフレーズなど氏独特の言語感覚、リズム感覚に溢れるギャグの萌芽をみる。

個人的には

「ぼいからかっか ぼいからかっか 

ちゃいやんちゃいやんちゃいやんや〜ん」

が、大好きである。 (言葉だけで書いたら面白くねえなあ・・・・・・)

そして掲載紙をヤングジャンプに移し、「東大快進撃」となる。

当初は当然の如くギャグ漫画であったが、

終盤からラストにかけてはシリアスそのものな描写となり、(多少SFチックでもあるが・・・)

特にラストシーンの数ページには激しく心を揺さぶられる。

ギャグとしか思えない東大への憧れが怨念となり、

その怨念の結晶がどうなるか・・・・ 是非読んでもらいたい作品である。

というか、胸ぐら掴んで読ませたい(爆)。  

 

  厳格に聞け!

 あまり高い評価を受けているとは言い難く、

またキャラクターや構成に苦労している作品であるが、

氏の言語感覚、というよりむしろ言語に対する感性、

を読みとる上では最高の作品だと思う。

「井の中の蛙 大海を知らず されど空の深さを知る」

(だったかな・・・手元にこの本ねえや・・・・

ニュアンスは間違ってないと思うけど・・・・間違ってたら誰か教えて)

等、言葉とその意味についての感性の鋭さ、思慮深さに驚嘆する。

そしてあくまでも言葉の意味は二の次であり、

本質的、行動的なものの重要さをギャグの間に散りばめている。  

 

  ゴーマニズム宣言

 現在は新ゴーマニズム宣言を経て「暫」とタイトルを変えて連載中の

(本人曰く)思想漫画である。

変節したと揶揄されたり、批判されたりすることも多いが、

本質的には全く変わらず、世俗的な常識、良識から

思想を立ち上げようとする氏の姿勢をわしは読みとる。

簡単に言えば、庶民的な考え方、行動とはどのようなものかを探し求める漫画である。

一応断っておくが、ここで言う世俗や庶民とは、良い意味での、である。

時事漫画としての側面も強く、

天皇制、部落問題、オウム事件、薬害エイズ、教科書問題と枚挙に暇がない。

しかしこれらはその題材に過ぎず、種々の問題を解決する手段としての

思想とは如何なるものか、それを問い続け、時にはその解決案を提示する。

ただし惜しむらくは、その解決案に対し

現実的かつ有効的な対案が他から提示されたことはなく、

結果として、「庶民的な考え方」の強さを浮き彫りにするのみとなっている。

このシリーズでベストセラーを連発しているその理由は、

大多数の庶民に届く言葉で、その考え方を表しているからに他ならない。

届く言葉を連発できるのは、先に言ったような 希有な言語感覚、

感性の賜物であるとわしは信じて疑わない。

 

 

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