世界レベルとは?

 

毎日新聞より。

高校サッカー選手権で優勝した国見高校に関する署名記事にて。

要約すれば、

「ロングボールを多用する同校の戦術は世界の潮流に反しており、

パスを繋ぐ戦術を徹底することが世界と戦うには必要だ」

ということらしい。

 

確かに、今年度の国見に限って言えば、一理あると認めよう。

ボールを奪ったらすぐ前方の選手にフィードし、

単調な、お世辞にも近代的とは言えない、

むしろ原始的と言っても差し支えないスタイルであった事は事実である。

ディフェンスに関しても、泥臭いマンツーマンである。

正確に言えば、men to manなのだが。

ボールを持った相手選手に二人三人と詰め寄るスタイルである。

この守備スタイルがむしろ打ち破り易いものであることは、

国見高校がこの選手権の全試合において失点していることが証明している。

 

仮にわしがどこかのチームの指導者であるとして、

わしは絶対にこのスタイルを採らない。

それほど古いシステムであったのだ。

 

 

 

ここまでで。

一般的な見識がある人は「?」と思うだろう。

なぜそんな古いシステムで優勝できたのだ?と。

 

その問いに対する解答を「高い個人技」の一言で済ますのは

優勝した国見は元より、高校選手権に参加した全国の高校生、スタッフに失礼である。

 

 

否。

フットボールに関わり、フットボールを愛する人への冒涜ですらある。

 

要するにわしは腹立たしさをここで吐露しているだけなのだが(爆)

彼の記者の記事はある意味、勇気ある行動である。

ある意味、賞賛に値するかもしれない。

自分の見識、知識のなさ、

端的に言えばバカさ加減を署名入りで全国に暴露するのである。

もちろんそれを紙面に掲げる新聞自体も同じ事であるが。

わしにはとても真似できない勇敢さである(笑)。

 

 

以下、二点からこの記事に反論しつつ、

国見高校の選手、スタッフの名誉を挽回したい。

 

1.個人レベルに関して

初めて国見高校を観たのはもう15年も前になるだろうか。

とにかく凄い体力である。

このチームの選手が息切れし、スピードが落ちるのを見たことはない。

徹底した体力トレーニングの賜物だろう。

その落ちないスピードで、ボールに向かって突進し、

更にボールキープするのである。

 

トップスピードでボールを扱うのがどれだけ難しいことか。

この難しさは誰にでも体感できる。

10メートル先の地面に20センチの円を描き、

そこまで全力疾走し、スピードを落とさずにその円を踏めるかどうか。

試してみればいい。

彼らは、それを三次元的に動く球体を相手に、

いとも簡単にやってのけるのだ。

ドリブルが巧い選手、キックが正確な選手は数多く見てきたが、

これほどボールキープが巧い選手が揃った国見は初めてだと思う。

この様な技術を持つ選手達だからこそ、

ロングボールも正確にキープしてシュートを放ち、

杜撰とも言える組織でもせいぜい1点に抑えることができたのだ。

 

個人レベルということに関してはもう一点ある。

何度も言うが、日本と世界レベルの差で最も大きなものは、

総じて言えばボールキープの技術、なのである。

パスを受けるに際して敵との距離を作る動き、

ボールを次に繋げるためのトラップの技術、

これが埋めなければならない「差」なのである。

 

件の記者は世界を引き合いに出したのだから、

こちらも世界を引き合いに出して反論しよう。

国見の選手達のボールキープの技術は、

世界レベルとは言わないが国内レベルでは相当高いものであり、

世界との差を縮めようとする意志を感じさせるに

十分なものであったのではないか。

その彼らに「世界レベル云々」とするのは烏滸がましさにも程があるのではないか。

 

 

2.戦術に関して  

 

繰り返すのも気が引けるが、

確かに国見の採った戦術はシンプル且つプリミティヴである。

あくまでも「戦術」が攻撃と守備の方法という意味において。

しかし、「単純原始的」で済ますものではない。

 

まずわしは。

 

あんなチームと戦いたくはない。

タイムアップまで延々恐怖感を感じさせるチームと戦いたくはない。

あれほどまでに相手に恐怖感を与えるチームを、

この日本で見たことがない。

もちろん、代表を含めて、である。

レベルの差はあれど、とにかくゴールを目指す攻撃陣は畏怖に値する。

ロングボールで前線にパスを送り、

キープしたボール、零れたボールに次から次へと

国見の選手が雪崩れ込んでくるのである。

息吐く暇もない、とはこの事である。

守備に際してももちろん、トップスピードで群がってくるのである。

 

このようなチームに相対してパスをじっくり繋げて守備を崩して・・・

等と悠長な事ができるチームがどれほどあろうか。

まして、高校レベルで。

 

相手の戦術を無にすべき手法(フットボールなのだから足法か?)も

戦術に含まれるとすれば、それを成し得た彼らの戦術は賞賛すべきだ。

尚かつ、短期間のトーナメントを戦うという戦略の面においても、

彼らの戦術は効果的である。

ただでさえ個人技術の高い国見の選手が、

正に、押し寄せてくるのである。

対戦したチームの選手、スタッフは頭を抱えたことだろう。

どうやって勝機を見いだすか、悩みに悩み抜いたことだろう。

そしていざ試合になると圧倒的な恐怖感に苛まされたことだろう。

この意味において、戦術云々と批判するのは

盲目的といって差し支えあるまい。

 

蛇足ながら、小嶺氏をはじめとするスタッフ、

歴代の国見の選手の名誉の為にももう一言言いたい。

パワーとスピードが国見高校の代名詞であることには一理を認めるが、

テクニック、パスワークも相当なレベルである。

もう5年以上も前になろうが、永井を擁し優勝した時のチームなどは特に素晴らしかった。

狭い地域でのショートパスの連続でボールキープする様は、

高校レベルであれほどのパスワークが作れるのか、

と感嘆せざるにいられないものだった。

要するに、そういったショートパスを多用する戦術よりも、

今回のチームに関しては、

ごり押しする戦術の方が良いと判断したまでの話、なのである。

 

 

以上、三大新聞に数えられる毎日新聞というメディアに

掲載された杜撰極まりない記事に反論してみた。

 

反論ついで、ではあるが。

先に「わしは絶対にこのスタイルを採らない」と書いた。

しかしながら、フットボールのベースアップを考えるなら。

育成という観点において指導するのであれば。

 

是非ともこの戦術を採用したいと思う。

この戦術で戦える選手を育ててみたいと願う。

 

なぜならば。

わしは以前から、育成段階にある選手に「パターン」

という名の戦術を 教え込む事には疑問を持ち続けている。

この高校選手権においても、明らかに「攻撃パターン」と判る

パスワークで攻撃を仕掛けるチームを散見した。

 

散見とはいえ、わしは試合を通してみたのは決勝だけであり、

後はせいぜいがダイジェストである。

おそらく、そういった攻撃パターンを重視したチーム作りが大多数であろう。

確かに、パターンを多く持つことは有効である。

しかし、パターンに依存すると、それが通用しない時には。

打つ手なし、となる可能性が高いのだ。

実例を挙げれば、ドーハに於けるワールドカップ予選における日本の苦戦、

そして予選敗退である。

 

ドーハの悲劇に教訓があるとすれば、

その第一にはフレキシビリティの欠如である。

フレキシビリティを裏付けるのは、安定したパスワークなのであり、

安定したパスワークの土台は基本技術なのだ。

 

つまり、育成段階の選手には、身体作りを含めた、

基本を重視したトレーニング、戦術が好ましいのである。

それこそが世界レベルで戦える選手、チームを育てるということなのである。

 

まあおそらく。

毎日新聞という企業は世界と戦うことなど否定するのが社是なのだから、

このような記事を載せ、世界と戦えなくする腹づもりなのかもしれないが。

 

 

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