夏の轍

 

 まず聴いて思ったのは、リズムがいい。

躰にダイレクトに伝わるようなビート感、とでも言おうか。

聴いていると躰を動かさずにはいられない感がある。

眩暈のSummer Breezeの横系、 真夏のSEAの縦系、

甘キスremixの16は代表的だが、

他も含め全ての曲で躰を揺らせるリズムである。  

 じっくり聴き込んでみると、切なく哀しい詩が多い事に気づく。

いつの間にか詩が躰に突き刺さり、入り込んでくるような感覚。

内的、外的な部分から痛みが迸る。

コークスクリューが体内深部にまで入り込み、

その先端が神経に突き刺さったような痛み。

後頭部を鈍器で一撃されたような激痛。

心臓を鷲掴みにされ、膝から力が抜けていくような衝撃。

さまざまな痛みが心を襲う。  

 この両端の間に、不安定な音がある。

別に音階が外れているのではなく、不協和、不安定、揺れる音だ。

眩暈の間奏のキーボード、Violet Skyのギターソロは誰もが判るだろう。

そこはかとなく不気味な雰囲気すら漂う不協和な音だ。

それだけではなく。

甘キスremixやStarsでは違和感を憶える程にリズムが絡んでくる。  

 これこそが「轍」であると断ずる。

夏の轍。

 乾いた砂の上にある、霞んで明確な輪郭を持たない轍を連想する。

雨中の明瞭なそれとは明らかに違う轍を。

リズムとメロディと声と詩の四輪が絡むようにして作られる轍を。  

 

 そして、その四輪は遠く前方へ疾走して行く。

 

KAI Records