この作家の文章力は他に類を見ない。

一度でも彼の文章を読んだ人であれば解るだろうが、

そこにある情景を文章のみで有無を言わせず見せつける事ができるのは、

彼をおいて他にない。

元をたどれば戯曲作家であり、演出家であるため、

自らその光景を想像しながら執筆しているのだろうが、

それにしてもこの視覚効果は素晴らしい。

無駄な説明文など無く、文章の滑らかな流れとリズム感。

口立てにより芝居を作る希有な演出家/作家でもあるが、

選りに選った言葉の美しさは特異とさえ言えよう。

そしてわしは、瞬時にしてその世界の住人となり得る。  

 彼の書くキャラクターは、そのほぼ全員が人格的社会的には破綻者である(爆)。

傍にいたら大迷惑な輩ばかりである。

しかし彼らには愚直な情が溢れんばかりにあり、

これにより彼らは愛すべきキャラクターとなりうるのである。

則ち、美醜全てがデフォルメされた人間そのものを彼は描こうとしているのであり、

またそれは人間を愛するつかこうへいの姿勢をも浮き彫りにする。

ただし、人間の全てを愛するのではない。

唾棄すべき部分は唾棄し、愛すべき部分は愛す。

その何れかならば後者をもって、人を信じよう。

これが基本的な姿勢ではあるが、 当然そこには様々な葛藤があり、

その藻掻き行く様の描写は、涙を禁じ得るものではない。  

 

  幕末純情伝、龍馬伝シリーズ

 新撰組と坂本龍馬を中心としたストーリィであるが、

登場人物は全て史実とは全く異なる。

沖田総司は絶世の美女であるし、 伊藤博文は水呑百姓の出自である(笑)。

歴史の名を騙る小説であるが、 各キャラクターが激動の時代や恋愛感情など

様々な内外の要因に翻弄される展開はダイナミックであり、

人の心にある葛藤の描写は素晴らしい。

龍馬伝の最後、龍馬は伊藤博文を斬り捨て、捨て台詞を吐く。

「だから百姓はダメなんじゃっ」

これに差別的意味合いは全くない。

弱者に対する愛情と憐憫、そして絶望。

龍馬を借りて、作者の葛藤が滲み出る。  

 

  広島に原爆を落とす日

 朝鮮系日本人がエノラ・ゲイに乗り込み発射ボタンを押す。

愛する女性、愛する祖国、愛する日本のために。 

出自、軍隊、愛、そして原爆投下・・・・

主人公の葛藤がこれでもかと列挙される。  

 

  飛龍伝

 東大理。に入学し、全共闘の闘士に心を奪われ、

いつしか全共闘の委員長とならざるを得なくなってしまった主人公、美智子。

様々な男との愛憎関係、全共闘の委員長としての責任、立場。

謀略の筈がいつしか愛にすり替わり、破綻する。

そして・・・・・

ラスト30ページのグルーブを感じる時、 ティッシュは山積みとなる。

 

 2003年には筧利夫、広末涼子らにより舞台化されている。

広末の演技でさえも瀑涙を誘う台詞回しとそのテンポは絶品。

ちなみに舞台上で広末が

「奥までズッポリ」だの

「おキンタマ」だの言ってるのはある意味必見かもしれない。

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つか こうへい