TOYOTA CUP 2002
レアル・マドリー VS オリンピア
2002年12月3日。
第23回TOYOTA CUP。
三度目の観戦、初めての横浜国際競技場。
席はカテゴリー3、ホームスタンドから向かって左側に位置する二階席。
かなりピッチは遠くになるが、全体は十分に見渡せる。
むしろ視界の中にピッチ全体が入り、よく見えるとさえ感じる。
ビールを呑みながらキック・オフを待つ。
19:15。
キック・オフ。
開始早々、両チームとも積極的に攻め上がる。
オリンピアは守備の堅さで有名なパラグアイのチーム、
しかもそのほとんどがパラグアイ代表に名を連ねる。
守備一辺倒ではないことを示し、簡単なパス交換からチャンスを作ろうとする。
早々に左サイドからのFK。
イエロに当たったボールがカシージャスの眼前に零れる。
レアル守備陣がやや浮き足だったように感じた。
オリンピア攻撃陣がボールキープすると一旦DFライン近くまで下がり、
機を見ては猛然とチェックに走るマケレレの動きが素晴らしい。
彼がこの試合で目立ったプレーは後述するが、
それ以外でもほぼミスはなく、中盤の危険地帯を悉く抑えていた。
レアル攻撃陣は自由自在にポジションを換え、
オリンピアとは対照的に複雑流麗なパス交換でボールを押し上げる。
これに対するオリンピア守備陣はDFとMFのラインを二重に揃え、
且つ無理なプレッシャーはかけない。
更にDF四人はゴール前に絞ったままで、
サイドからの攻撃はほぼ自由にさせている。
それをいいことに駆け上がりシュート、パスを繰り返すロベルト・カルロス。
そして左右に広がりドリブルからクロス、シュートを狙うフィーゴ。
先のオリンピアのチャンスの直後、ロナウドの頭にフィーゴのクロスが合う。
枠を逸れる。
オリンピアも南米チャンピオンであり攻撃力は十分にある。
コルドバが左からシュートを放つもカシージャスの巧みなポジショニングに会い阻まれる。
カシージャスはわざと自分の左、ファーサイドのシュートコースを空けていて、
コルドバは空いた方向を狙う。
鋭いシュートであるがカシージャスは読み切っていた。
苦もなくシュートを押さえる。
前半10分を過ぎると、オリンピアは攻撃にかける人数を減らし、
且つ深めのDFラインを保つようになった。
目の前を目まぐるしくパスが飛び交ってもじっと我慢のディフェンス。
しかしこれを打ち破ったのはラウルだった。
左サイドからロベルト・カルロスが鋭いクロス。
ラウルとロナウドは一直線上にいた。
ラウルはフェイントをかけた上でロナウドにスルーしてそのまま縦に切れ込む動き。
この動きでオリンピアのセンターバック、セラージャの飛び込みが一瞬遅れた。
ロナウドはワンタッチで最高の場所にトラップ。
ゴール右に流し込む。
レアルの先制。
試合としてはオリンピアが先制した方が面白かったのだが(笑)、
ロベルト・カルロス、ラウル、ロナウドの三人が
最高のプレーをしたことに異論を挟むものではあるまい。
この直後オリンピアの攻撃。
右クロスに完全にフリーのロペスがボレー。
立ち竦むのみのカシージャス。
ポストがレアル失点の危機を救う。
オリンピアからすれば、返す返すも残念なシュートだった。
この後、レアルは華麗なパスワークで会場を沸かせる。
圧倒的にボールを支配し、ワンタッチ、ツータッチのパスを回しまくる。
ジダンやロナウドがシュートに至るもゴールを大きく外す。
オリンピアはボールを奪っては少人数でレアルゴールに迫る。
むやみにDFラインを上げ数的不利を作ることはない。
実際この試合を通じ、数的不利な状況で攻められることなど
一度としてなかったと言っていいだろう。
40分頃にはまたもレアル守備陣を崩してのMA・ベニテスのシュート。
しかしこの日のカシージャスは大当たり。
カシージャスの素早い反応がボールを押さえる。
あっという間に前半が終わる。
圧倒的に見えるレアル。
それをじっと耐えるオリンピア。
後半が始まる。
オリンピアはそれでもむやみに攻撃に数をかけない。
安全第一を選択するのは当然だろう。
レアル攻撃陣が数的有利になればそれは即オリンピアの失点に繋がる。
じっくりと好機を窺うオリンピアと、 奔放に攻め込むレアルの好対照。
55分近く、ロナウドが鋭い切り込みを見せDFを置き去りにしてシュート。
わずかにゴール右に逸れるボール。
ボールとポストの間の距離は10センチもあっただろうか。
溜息が洩れる。
この日のロナウドは決して本調子とは言えなかっただろう。
それでも一瞬の動きでチャンスを作り出す。
超一流の選手たる所以、だろう。
この直後にはオリンピアのチャンス。
MA・ベニテスがこぼれ球をフリーでシュート。
甘いコースをカシージャスが難なく押さえる。
この後、徐々にオリンピアのDFラインが上がっていく。
五分おきに5メートル前方へ、そんな感じだった。
次第に中盤での攻防が増え膠着しそうになった場面で
ロベルト・カルロスが意表をつくシュート。
タバレリは難なく弾き出す。
これ以降もレアルは前半ほど自由にはボールキープできない。
しかしDFラインが上がった分だけゴール近くにスペースが生まれ、 チャンスが生まれた。
70分近く、スルーパスに反応しタバレリをも置き去りにするロナウドがクロス。
献身的に中盤を守ってきたマケレレ最大の見せ場が訪れた。
マケレレのシュート。
足元で止まるボール。
こぼれ球をジダンがクロス。
防がれた。
この時間帯からウォーミングアップを始めるグティとモリエンテス。
グティはベンチからゴールラインに向かって走って戻ってはベンチを覗く。
何度も何度も繰り返す。
出たくて仕方がない、それが見てとれる。
75分頃には交代で入ったバエスがヘディングシュート。
スピードは十分だったが枠を外す。
5分後には左サイドに切れ込んだロベルト・カルロスが
またも鋭いクロスをラウルに合わせようとする。
ギリギリのパスはギリギリで合わない。
オリンピアは更にMA・ベニテスをカバジェロに交代。
レアルは初めての交代。ロナウドを下げ、グティへ。
そしてこのグティが試合を決めた。
CKの後、フィーゴがグティの頭に合わせる。
競り合いながらシュートを放つグティ。
タバレリはクロスに合わせ前方へ移動していた。
為す術もなくボールはゴールに吸い込まれて行く。
時が止まったようなゴール。
チャンスらしいチャンスは生まれない。
パボンを投入し完全に守りを固めるレアル。
マケレレはパボンに守備を任せ前方に移動する。
オリンピアのCK。
シュートまで至るが勢いはなくエルゲラがクリア。
タイムアップの笛が、鳴った。
素晴らしいゲームだった。
第23回を数えるTOYOTA CUPの中でも、上位に入ると言っていい。
敗れたとは言え、オリンピアの攻守の組織は素晴らしく、タフだった。
堅守を誇るパラグアイのトップ、そして南米の代表であることを如実に示した。
レアルの華麗なパス回しも素晴らしかった。
眼が一つ二つ余計に付いているのではとさえ思うほどの視野の広さ、
徹底したパス アンド ゴー。
両チームとも、観るものに感動を与え、
そして これからの志をもつものには多大な示唆を与える内容だった。
また、悪質なファウルはなくクリーンな試合であったことは明記しておきたい。
審判であったブラジル・シモン氏のジャッジが正当であり、
且つボールから離れない素晴らしいポジショニングであったことにも依るが、
両チームともに悪意のこもったファウルは皆無だった。
正々堂々と戦うことはやはり、美しいことなのだ。
素晴らしいゲームを魅せてくれた両チーム、
そして審判に最大限の賛辞を送りたい。
ここまでが総評、ではない。
本題はこれから、である(笑)←長いよ。
今暫く、おつきあいを。
フットボールとは、そして勝負事とは皮肉なものだな、と改めて思う。
ゲームを支配し、美しい組織を見せた方が敗れ、
数少ないチャンスをものにした方が勝つ。
ゲームをコントロールし、献身的な動きを見せたマケレレが
ここ一番という瞬間にこの日唯一と言っていいミスを犯す。
ボール支配にはほとんど関与しなかったロナウドが
オリンピアの守備陣を切り崩し、ゴールを上げる。
何度もバランスを崩しノーマークの敵攻撃陣を作りながらも未失点に終わる一方で、
バランスを崩すことなどなく、ミスのなかった守備陣の最大の砦である
タバレリが唯一のミスとは言えないミスで失点を重ね敗れる。
フットボール/勝負事の儚さを感じずにはいられない。
別の試合の文章を持ってきたのではないよ(笑)
わしは2002.12.3に行われたTOYOTA CUPの総評として
ここまでを書いてきましたので(笑)
疑問に思う人も少なからずいるだろう。
否、おそらくほとんどの人が「?」の筈だ。
下の文章を書いた人など、
わしの文章など気がふれたようにすら感じるかも知れない。
(以下引用)
久しぶりにベストメンバーのそろったレアル・マドリーが、
圧倒的な実力差を見せつけた。
個人技に勝る余裕からか、落ち着いてボールをキープしながら、
ダイレクトパスを回し続けてオリンピア・ディフェンス陣をほんろう。
余裕のあり過ぎたレアル・マドリーは時に軽率なミスを犯したが、
オリンピアはそのスキにつけ込めず、好機を逃した。
クラブ世界一を決める真剣勝負の舞台としては、
あまりに力の差があり過ぎ、実に残念な試合であった。
(引用ここまで スポナビ試合詳細経過・総評より)
多くの人、解説者達はこう思っていることだろうことに疑いはない。
ゲームを支配したのはレアル・マドリーであり、
下馬評通りにレアルが勝利したのだ、と思っていることだろう。
しかし、わしはその感想/戦評に対し声を大にして異を唱える。
というよりむしろ気がふれているのかとすら思う。
それをここから記していこう。
公式記録に依れば、シュートの数はレアル20本に対しオリンピア10本。
ボール支配率は同順に57.8%に対し42.2%。
これだけを見ればレアル優位に見えるだろう。
しかし、この数を見て欲しい。
不思議とは思えないだろうか。
直接/間接フリーキックの数を。
同順にする必要もなく、14/3本対14/3本で全くの同数なのだ。
これが何を意味するか。
勿論クリーンに終始したゲーム内容にもよるのだが、
それ以上に重要なことが影響しているのだ。
そして更にもう一つ、オフサイドの数もこの証拠となる。
わしも驚いたのだが、なんと1本ずつなのだ。
これらが何を意味するか。
オリンピアの守り方、である。
オリンピアの守備陣は、
圧倒的にボールを支配しているように見えたレアルのパスワークに対し、
無理に突っかけておらず、更にDFラインを深くして守っていたという証拠がこの数なのだ。
実際に試合を観た人は記憶を呼び覚まし、
且つ上記試合経過を読んでいただきたい。
レアルが華麗なパスワークによりオリンピアのDFラインを崩したことなどなく
ボールはオリンピア守備陣の前で前後左右に行き来していたこと、
そしてオリンピアの守備陣が明らかに崩されたのは
ロナウドやフィーゴの個人技によるものばかりであり、
得点はピンポイントのパスとロナウド/グティの個人技により
得られていることがお判りではないだろうか。
即ちオリンピアの守備陣は華麗なパスワークを目の前で繰り広げられても
自分達のポジションを崩すことはなく、
サイドへの展開を半ば無視してまで ゴール前を守り続けていたのだ。
愚直なまでに危険地帯での数的優位を守り続けるこの方法は
パラグアイ代表のものと同じである。
この守り方を徹底し、そしてほぼ完全に機能していた。
これに対し、オリンピアのチャンスはどうだったろう。
華麗なパスワークなどなく、確実安全なパスを繋いだだけなのにも関わらず、
レアル守備陣を完全に崩していたのは前半だけでも
コルドバのシュート、ロペスのボレーシュート、 MA・ベニテスのシュートの
少なくとも三本は完全にフリーでのシュートだった。
ただしコルドバのシュートはカシージャスとの駆け引きに負け確実に止められてはいたが。
後半のバエスのヘディングもまた、余裕を持って打たれたものだった。
オリンピアはman to menを基調とする堅固な守備からのカウンターで幾度も
チャンスを作っていたのがここまでで十分お判りだろう。
これはパラグアイ代表のスタイルそのものであり、
オリンピアはその選手のほとんどがパラグアイ代表に名を連ねている。
即ち、オリンピアは
プラン通りにゲームを進めていた
という事である。
オリンピアがゲームを支配していた、
というのは多少言い過ぎである嫌いは認める。
しかしながらプラン通りのゲームを進めていた以上、
ゲームを支配されていたというのは明らかに間違いである。
つくづくも恐ろしいのは見た目の印象と予断である。
レアル・マドリーというスター集団に目が眩み、
スター選手達が織りなすパスワークに眼を奪われ、
〜これはオリンピアに許されていたというのが正しいことは既に述べた〜
オリンピアというチームの素晴らしさを見ることも感じることもできなくなってしまう。
正直に吐露するが、わしがレアルのボール支配率が60%に満たなかったのに驚いた。
70%近くキープしていたような印象だったからだ。
しかしその実60%にも満たず、さらに絶対的なチャンスの数もほとんど変わらない。
これでレアルがゲームを支配していたと言えるか否か。
少なくとも互角としか言い様はないのではないか。
オリンピアの監督、プンピードは互角の戦いだったと述べた。
わしは両手を挙げ同意するし、これが負け惜しみだった等とは
微塵も思わない。
上記の事に加え、組織だけを見ればオリンピアの組織の方が格段に優っていたし、
平均した個人の技術はレアルの方が上かも知れないが格段に劣るものではないのだから。
ただ、結果のみが、違った。
シュートの結果のみが、違った。
皮肉、わしがそう感じるのをお解りいただけるだろうか。
マケレレやロナウドも皮肉である。
わしに言わせればMVPは
何度もシュートシーンを作り実際にアシストしたロベルト・カルロスか
献身的に攻守のバランスを取り攻撃に晒されそうな場所には
必ずと言っていいほど顔を出したマケレレ以外に考えられない。
ただマケレレはあの空振りがあるのでやはりロベルト・カルロスになるだろうが(笑)
しかしマケレレのミスはこれ以外には一度あるかないか、である。
あのシュートさえ決めていれば、マケレレ以外にMVPはあり得ない。
なのにどフリーのシュートシーンという最高の場面で
空振りという最大のミスを犯してしまった。
逆にロナウドなどあの美しいパスワークにほとんどタッチしていない。
起点となるポストにはかろうじてなっていたが、それだけである。
しかしオリンピア守備陣を最も崩した回数が多いのは彼自身であり、
シュートを決めたのも彼である。
対するオリンピアのGK、タバレリは皮肉に泣いた。
冷静に幾多のシュートをさばいていた彼が、
グティのシュートの際には ポジションを前に持っていってしまった。
ミスと断じるのも憚られる動きではあるが、
もし彼がシュートを最大限に予測していれば容易に止められるシュートではあった。
改めて思う。
これほど皮肉を感じさせる美しい試合は初めてであったな、と。
儚く、哀しいからこそ美しいのかもしれない。
勝負事全てそうなのかもしれないが。
ただ、いずれにしろ、両者とも持ち味を十分に魅せつけた
素晴らしい試合であったことに間違いはない。
両チームに最大限の賛辞と、敬意を表したい。