TOYOTA CUP 2001

バイエルン・ミュンヘン VS ボカ・ジュニアーズ

 

 昨年ほどではない国立の寒さ。

バックスタンドの2列目。

横の動きが見づらいだろうと思いつつ、

リザーヴお湯割りを呑みながら開始を待つ。

昨年と同じように、ボカ・ジュニアース(以下ボカJ)の

サポーター達は始まる相当前から太鼓を叩き、

カルチャークラブの曲をもじった応援歌を歌っている。  

 

 いつもより地味な開会イベントの後、

ボカJ、バイエルン・ミュンヘン(以下バイエルン)の

選手達がピッチに現れる。  

 

 全体として、守備的な試合運びだった。

幾つかの要因の上、延長後半にバイエルンが一点を奪い、

クラブチーム世界一の称号を得ることになった。

しゃがみ込み、涙を流すボカJの10番、リケルメ。

この姿が印象的であり、象徴的な試合だった。  

 

 前回大会に習い、

1)ボカJの攻撃に対するバイエルンの守備

2)バイエルンの攻撃に対するボカJの守備

3)勝敗を分けた要因

について述べてみたいと思う。  

 

 なお、以下に用いる選手名は最も世間的に

通用していると思われるものにさせていただく。

ややこしい場合には( )にて示すこととする。

 

1)ボカJの攻撃に対するバイエルンの守備  

 ボカJの監督ビアンチは、チラベルトを擁した

ベレス・サウスフィエルドの頃から、

カウンターで点を取るまでの間は

必ず簡単確実なパスに徹する戦術を採る事はよく判っている。

攻撃はほとんど全て、リケルメ(ロマン)、

ギジェルモ(バロスチェロット)、 デルガドの三枚のみでほとんど行い、

FWが左右にシフトしてスペースが逆サイドにできれば

誰かがそのスペースを突こう、という程度。

特にギジェルモは左サイドを拠点とするだけに、

右サイドのマルティネスの動きは重要だった。

開始直後には右サイドのスペースを突く動きを見せていたが、

前半半ばにしてマルティネスは交代。

これにより、ボカJの攻撃は先に挙げた三人のみによるものとなった。

すなわち、ボールを奪うと出来るだけ早く

リケルメにボールを預け、ギジェルモ、デルガドが

裏(GKとDFの間)のスペースに走り、

リケルメがボールを出す、という形だった。  

 対するバイエルンの守備は絶賛に値する。

美しいバランスを取って前後左右に動く。

新体操やシンクロナイズドスイミングを思わせるほどだった。

ギジェルモ、デルガドにマンツーマンで付いたDFラインに

MFのラインが引き込まれることなど皆無だった。

MFのラインと、DFのラインが綺麗な2列でボカJの攻撃に対応する。

中でもMFフィンクの動きは絶賛に値する。

集団での動きに徹しながら、リケルメがボールを持った瞬間には

必ずと言っていいほど、激しいチェックを繰り返した。

ボールを奪った後は、確実にフリーな選手にパスを送る。

彼を経たボールは動きを落ち着かせ、

新しいリズムを作りだしていた。

余談ながら。

私見を言えば、MVPは彼をおいて他にない。  

 リケルメをどう封じ込めるかについてバイエルンの監督、

フィッツフェルトが採った策は、リケルメがボールを持った瞬間に

フィンクと更にもう一人がマークに当たる、

というものだったと思われる。

VTRで観ると、なぜファールを取らないのか疑問に思うほどの激しいマークで。

これによりリケルメは数回しかチャンスを作り出せなかった。

というよりもあのような執拗且つ激烈なマークを受けても尚、

リケルメはチャンスを作りだした、と言うべきだろう。

FWのギジェルモ、デルガドへ効果的なパスを出し、

決定的な場面も前半だけで四度ほど作った。

これだけでも十分驚嘆と賛美に値する。

しかし、デルガドの退場により後半は

リケルメとギジェルモ二人だけでの攻撃に成り下がる。

後半以降、ボカJにチャンスはなかったといって差し支えない。

バイエルンは完璧にボカJを抑えていた。  

 

2)バイエルンの攻撃に対するボカJの守備

 バイエルンは足元へのパスを多用し、

じっくりとした攻撃だった。

中盤からいきなりスペースを突こうとするボカJに対し、

キープ力のあるパウロ・セルジオ、エウベルに預けた上で、

サイドにスペースを作ってサイドから攻撃を仕掛ける形を採る。

しかし守備的な試合運びの中、 左サイドからの飛び出しを得意とするはずの

リザラズはほとんど上がって来ない。

サイドにボールが渡ったとしても、

ゴールライン付近まで行くことはほとんどなく、

アーリークロスを上げる形が多い。

もちろん、負傷でエフェンベルグ、ショルを欠いていたことも大きいのだろうが、

単調な印象は拭いきれない。

これに対しボカJは、スキアビ、ブルディソを

センターに置いたDFラインだけでなく、

セルナ(チーチョ)を中心としたMFも

全体として下がり目に位置していた。

が、一度中央のFWにパスが出ると、

セルナらMFが献身的かつ迅速にマークに当たり、

突破されることもなく、こちらも綺麗な2ラインを保つ。

アーリークロスが上がったところで

センターバックのスキアビのヘディング、GKコルドバのキャッチに

捕獲される以外になかった。

従ってバイエルンは遠目からシュートを撃つ以外になく、

完全にDFを崩してのシュートはない。

崩れかけた瞬間、シュートを撃つ、という感じであった。

後半半ば、バイエルンは長身、

というよりも巨漢といった方が良いだろう、

ヤンカーを投入する。

これによりバランスが壊れた。

完全に抑えられていたアーリークロス、ロングボールに

ヤンカーが触れ、ポストになり得たのだ。

彼がボールを落とせば、足技のあるエウベル、

パウロ・セルジオに ボールを渡すことができる。

じわじわとバイエルンの攻撃がゴールに迫る。  

 延長に入ると、ここまでほとんど攻め上がりを見せなかった男が

バックスタンド側を駆け上がっていくようになる。

リザラズである。

わしらの目の前を疾走していくその姿は、

すでに90分闘った選手には見えない。

今、まさにゲームが始まったかのような動きを見せる。

ここで勝負は決まっていたのかも知れない。

リザラズが自由に駆け上がれるようになった時に。  

 結局、リザラズの攻め上がりからコーナーキックを得たバイエルンが、

ゴール前の混戦からクフォーのシュートにより一点を挙げることになったのだ。

 

3)勝敗を分けた要因  

 ここまで読めば、バイエルンが勝つべくして勝ったようにも思われるだろう。

しかし、前半に限って言えば、どちらが勝ってもおかしくなく、

むしろボカJが勝つであろうという印象を得たことは明記しておく。  

 あれだけ囲まれ、ファール気味にマークされても

リケルメは決定的な場面を四度も作りだしたからだ。

残念ながら一回はオフサイド(この際デルガドは遅延行為により一枚目の警告)、

一回はバイエルンのGKカーンの果敢な飛び出しにより防がれ、

もう一回はギジェルモに出したパスから折り返したもののデルガドがシュートミス。

そして、前半終了直前のデルガドへのパス。  

 ここで、デルガドは退場となる。

コントロールできないボールには見えなかったが、

デルガドはわざと転倒。

カーンはそれを避け、明らかに接触していなかった。

明らかなダイビング。

ダイビングに対する警告はルールである。

二枚目の警告となり、退場。

返す返すも残念な退場だった。

これがなければ・・・・と思わずにはいられない。  

 更にもう一つ、マルティネスの交代も忘れてはならない。

おそらくは右腿の肉離れだろうが、彼を失ったボカJは

三人だけでの攻撃を強いられたのだ。

マルティネスと交代したカルボは攻撃に加わることは皆無だったといっていい。

猛然とスペースに飛び込むマルティネスがいない事は、

リケルメ、ギジェルモ、デルガドの三人は前しか向けない事を意味していた。  

 後半に入ると、ボカJの攻撃はリケルメとギジェルモの二人だけになり、

チームとして攻撃する意志は不明確であった。

激しいマークを受け続けた結果、

延長に入る頃にはギジェルモの足は止まり、

リケルメは足を引き擦っていた。

これで点を取れというのはいかにも無理な話である。

先制された後カルボをカレーニョに代え、

攻撃の枚数を増やしたところで先の二人は満足に走れる状態ではなかったのだ。

遅くとも、延長に入った段階でカレーニョを投入していれば、

また違った結果になったのかも知れない。  

 おそらく、であるが、ボカJはPK戦を狙っていたのであろう。

そのため守備の枚数を減らすカレーニョの投入が遅れたのだろう。

果たしてその作戦は失敗だったといわざるを得ないのだが。  

 バイエルンの勝利という結果の最大の要因は、

ボカJの攻撃パターンが、二人の退場により破綻した事と言えるだろう。  

  

 トップレベルのチーム、というものを明確に見せてくれた両チームに拍手したい。

そしてそのレベルのチーム同士の闘いは、

僅かな綻びによるバランスの変化が結果を決めることを示してくれた。  

 

 特に今回は、両チームとも組織が完成されており、

組織の美しさを示してくれた。  

 

 あの美しい組織は、わしの眼に焼き付いている。

素晴らしい試合と、素晴らしい朝までの酒だった。

 

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