’2000 TOYOTA CUP

レアルマドリッド vs ボカ・ジュニアーズ

 強いチームが勝つ。当然といえば、当然の事である。

その当然のことをまざまざと見せつけてくれた試合だった。

とはいえ、勝者と敗者の間にあったのは、大きな差ではない。 非常に微妙な差であった。

それがどのような差であったのか。

1.レアル・マドリッド(以下レアル)の攻撃に対するボカ・ジュニアーズ(以下ボカJ)の守備、

2.レアルの守備に対するボカJの攻撃、

3.パスワーク

以上三項目について記してみる。

そこから導き出される答えは、意外な程に単純な差である。

ただ、その単純な事を実行するのが容易ではないとだけ、 ここには書いておこう。

 

1.レアルの攻撃に対するボカJの守備

 この試合で主に見られたレアルの攻撃パターンは、

 a.左サイドはロベルト・カルロス、右サイドはフィーゴからのクロス

 b.ラウルをポストに使い、主にグティがそのボールに絡んで展開 の二つである。

 これに対しボカJは中央に人数を多く用い 〜横10メートル以内にDF四人がを揃うことすらあった〜、

尚かつフィーゴ、ロベルト・カルロスに対しては極力二人がプレスをかける、

という守備で対抗していた。

 この結果、ラウル=グティのコンビネーションはほぼ99%機能していなかったし、

サイドからのクロスもほぼ完璧に押さえ込んでいた。

「ロベルト・カルロスの一点があるではないか」 という声も聞こえてきそうだが、

あれはロベルト・カルロスの スーパープレイにより生まれた点であり、

フィーゴのクロス自体は ミスに近くはあるが一応クリアされていたのである。

そのボールをロベルト・カルロスが胸トラップだけでDF二人の間を擦り抜け、

更にGKが反応できないタイミングで尚かつゴール右上隅に

とどめに曲線を描くシュートを放ったからこそ生まれたゴールなのである。

 これに当てはまらないのは、唯一、フィーゴが中央に切れ込んで ラウルにスルーパスを出したプレイぐらいである。

微妙な〜ミスジャッジを疑わせるほどの〜オフサイドの判定ではあったが、 ボカJのDFが完全に崩されたのは、

あのプレイだけと言っていい。

 早い時間でリードしていた事もあり、ボカJは終始人数的な余裕を持って、 且つ組織的なディフェンスをしていた。

これがタレント集団レアルを封じ込めたのだ。

 

2.レアルの守備に対するボカJの攻撃

 レアルは基本的に前線からプレスをかけ、 浅くフラットなDFラインによる守備を行っていた。

これに対し、ボカJは当然のようにDFラインの裏を狙うロングパスを放り込んできた。

その結果が、わずか6分での二点である。 しかも、二点とも数的には不利な状態での得点である。

毎日新聞の記事では「DFが薄くなった所を突かれた」等と 気がふれたような事を書いていたが、

要するに浅いDFラインの裏を突いただけである。

あの状況では、仮に四人のDFが全員揃っていたところで ボカJのFW、デルガドとパレルモのコンビが、

シュートまで持ち込んだであろう事はまず間違いない。

 さすがにレアルもややDFラインを下げ、更に中央のイエロとカランカが

両サイドよりも数メートル後方のポジションを取ることで対応した。

以後、頭越しに裏を取られることはほとんどなかった。 しかし、時既に遅し、であった。

  3.パスワーク

 さすがに世界一を競う両チームであり、随所に素晴らしいパスワークを見せてくれた。

ロベルト・カルロス、フィーゴ、デルガド、リケルメ……… 彼らがボールを持つだけで、

何か素晴らしい事が起こるであろう期待を持たずにはいられない。

また、両チームともペナルティエリア直前でダイレクトパスを繋ぐプレイを見せてくれた。

驚嘆と感嘆の唸り声が国立を包む。 必然、わしも唸らずにはいられない。

 だがしかし。ここにも差があった。 ボカJのパスワークは、レアルの一枚上を行っていた。

開始直後のロングパス。 二点リード後の長短緩急自由自在のパスワーク。

終了15分前からのセーフティファーストのボールキープ。

自動的にスイッチが入ったかのように展開を変化させて行く。

 これに対しレアルは焦燥感を募らせるだけであったように思う。

後半のレアルのパスミスは………数え切れない。

後半30分を過ぎた時、レアルの同点は奇跡としか言い様がない状態になった。

それほど、ボカJのパスワークは安定していた。

 レアルにとって惜しむらくは、レドンドの不在、放出だろう。

彼なら、展開に沿ったベストなパスを選択し、そこからリズムを生み出す事が出来ただろう。

こう思うのは、レドンドがわしの好きなプレイヤーであるからだけではない。多分(笑)。

 

 ここまで書いてくればもうお解りだろう。 組織力の差、意識の統一の差である。

ボカJはレアルに勝つための対策を練り込んできたのは間違いない。 そしてその対策法を実践して見せた。

11人のチーム全体が、90分に渡って自分が何をすべきか理解し、実践して見せたのだ。

そしてタレント軍団、レアル・マドリッドを破って見せたのだ。

実のところ、レアルがチームとしてできあがっているとは言い難い。

基本的な戦術には変わりないが、まだ応用編までは行っていない、という感を受けた。

レドンドの放出、フィーゴの獲得からさほど時間は経っていないのだ。

GKのカシジャス、MFのグティはまだまだ経験不足である。

一言で言うと、蒼い。あくまで、ボカJに比較して、の話ではあるが。

 印象としては、ボカJの完勝と言っていい内容だったように思う。

一つ違えば、レアルの完勝になったのかもしれないが。

そんな微妙且つ絶対的な差が、2000.11.28の国立にはあったように思う。

 

 試合後の生ビールは、30年で三本の指に入る味だった。

 

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