深夜。
電話が鳴る。受話器。
返事。無言。電話の向こうには。誰もいない。
鳴らしたのは。いない。誰もいない。
夢。焦がれた人を待つせいか。
電話を枕元に置いたまま寝る習慣。
しかしそれが本当に鳴ることは少ない。
夢の中で鳴るだけ。それを繰り返す。
夢の中での会話。とりとめのないことを喋る。
記憶には残らない。ただ、貴方の声だけが聞こえてくる。
その終末だけは記憶に残る。貴女が別れを告げる。覚醒。
気付くと。音のしない電話を握りしめている。
耳に押しつけている。汗だく。涙すら流す。
それが夢であったこと。
喜び。
しかし。電話が鳴ることは。なかった。
貴女の声は聞こえてこなかった。現実。
悪夢か正夢か。
どちらでもいい。ただ。貴女の声が聞きたい。
聞こえてこない声を待ち。
鳴らない電話を睨む。
毛布を抱かねば寝られない子供のように、電話を抱えて眠る。
いつからか。俺の中でほんの一握りのつもりだった貴女が。
これ程までに。増大していようとは。
貴女は悪性腫瘍のように俺の中に侵潤し。
その方々に転移し。全てを取り去ることなど。
健全な部分すら抉り取らねば。貴女を捨て去ることなどできない。
時が特効薬にでもなるというのだろうか。
できうることなら。そうであって欲しい。
現在はただ。貴女を待つだけ。貴女の声を待つだけ。
今日もまた。
眠れない。
貴女の声を待ち。
睡眠薬も効かない。
電話が鳴る。いない。