「イ・・・ッ」 君の声が途中で切れる。

僕は、君の指をそれぞれ僕の指で包んだ。

一緒、だよ。

現在、も。

未来も。

僕は、君の中で果てた。

君は、僕を包んで。

 

君から電話がかかってきたのは、

ほんの、数時間前だった。

明らかに、酔った声。

明らかに、泣いている声。

明らかに、何かを失った声。

 

居ても立ってもいられなかった。

僕の小さな車で、君の家に。

君と、誰かの巣だった場所へ。

君だけの巣になって数時間の場所へ。

 

君は細い声で、泣いていた。

僕は、そっと、肩に手を置いた。

君は激しく振り向き、僕にしがみついた。

強い酒の匂いが、鼻をついた。

アルコールの匂いさえ、君のものだった。

 

抱いた。

 

そのまま寝息を立て始めた君に、毛布をかけた。

僕はその寝顔を眺めながら、浅い眠りについた。

君の寝息に、寝返りに眼を開けながら、朝を待った。

何度目かに目を醒ました時。

 

ふと。

憶えているのだろうか、

憶えていなければ驚くのではないだろうか、

不安を覚えた。

 

不安を打ち消した。

事実を隠すことはない。

僕の気持ちを、想いを、彼女は薄々知っていたはずだ。

それで、何かを覆い隠すために僕に電話してきたのだ。

 

仮にそんなきっかけであったとしても。

君をこの腕に抱くことを、どれだけ焦がれたことだろう。

君と一緒にいれば、それだけで夢を見ることができた。

僕がしてあげられること。

僕がしてあげたいこと。

伝える事もできないままだった僕。

 

これで、伝えることができるだろう。

 

僕は寝ることも忘れ、どこから話せばいいか考えた。

君の過去も、未来も、僕は何にも遮られない。

君の哀しみも、傷も。

全て僕は自分のものにできる。

それが事実としてあったところで、

それは僕と君の前では何の意味も為さない。

 

だから、君さえ僕を視てくれれば。

 

君さえ僕の腕の中に居てくれれば。

 

君の頬に掌をあてた。

君が身じろぎ、眼を、開けた。

 

KAI Story

   かなしみがすきとおるまで