躰の熱で覚醒する。
シャツはいつの間にか脱いでいた。
シーツから湿気と熱が放たれる。
俺は音を立てないように、ベッドから離れる。
ドアを開け、バスルームへ。
蛇口から水を出す。
冷水とは言えないが、躰から熱を奪うには十分だった。
バスタオルで顔を拭き、全身の汗を拭う。
乾いたシャツを取り、袖を通す。
汗で濡れたシャツは、洗濯機に放り込んである。
リビングのドアを開け、スイッチを入れる。
眩しさに眼を細める。
冷蔵庫からペットボトルを出し、直接喉に流し込む。
中に溜まった熱も、冷めていく。
煙草をくわえる。
ジッポの金属音にエコーがかかる。
深く吸い込み、呼吸を止める。
薄い煙が、僅かな光に照らされる。
五回ほど繰り返す。
指を焦がす。
眩暈。
足元が、揺れる。
夢を思い出す。
多量の汗は、室温だけに起因するものではない。
消えた筈の、消した筈の想いや望みの残遺物。
有意識上には既にない筈のもの。
それらは形を変え、姿を変え。
汗とともに噴き出してくる。
何かを得るために捨てたもの。
何かを得たために捨てたもの。
形も色も消え去り、そのイメージだけが投影されるもの。
イメージだけの漠然とした不安に駆られ、リアルな不安が形を作る。
俺が何処に向かっているのか。
何処を漂っているのか。
何が、目的なのか。
何が。
足音を消して、寝室に戻る。
音を立てずに、ドアを開ける。
俺の名を呼ぶ声。
ん、とだけの返事を返す。
何をしていたのかと問いかけ。
煙草を吸っていたと返す。
会話が終わる。
ベッドに入る。
腕が伸びてくる。
そっと。
握る。
おやすみ。
返す。
枕に、涙が零れていく。