愛のろくでなし TOUR OSAKA 2011.7.3


                    






       久しぶりのZEPPである。

       殺風景だった前回とは全く異なりとりあえず道が判らない(^^;

       つか前回って全然結婚前だったりするのだが。

       グリグリ回ってる内にやっとこで見つけ、適当な駐車場を探す。

       24時間のコインパーキングに入ってみればそこはどう見てもマンションの駐車場。一応再確認して停める。屋内だし料金も適当なので次回もここに停めよう。

       ゆっくり入るつもりだったが暑いので会場入り。ラ・バンバ。SADEも流れてきた。喫煙所に居座り時間を潰す。

       今回はまたも1ROのほぼ正面。スピーカーは間近。

       今日は佐藤さんのギターは諦めよう(ToT

       Power to the people”が流れる。

       1ROは口ずさみながらスタンバイ。

       ロングジャケットのヴォーカリストが登場した。


       01.エキセントリック・アベニュー

       野太いリズム。直接観るのは高校生以来。って24年ぶりかよ。

       間奏のギターが太い。シンセはかぶさっていない。

       音が少ない分、それぞれが太い音を奏でる。


       02.レイン

       蘭丸抜きでいきなり(笑)とはいえ第一次ソロではずっと弾いていた1ROに違和感は無く、懐かしくもない。

       1ROの音は太く、甲斐さんのヴォーカルに突っかかっていく勢い。うむ。こうでないと。


       03.黒い夏

       ね。だからこうでないと。1ROはリフで激しく突っかかる。

       元々ドライヴ感のある曲だが、この1ROの縦方向のグルーヴが加味されたものは秀逸。


       04.港からやってきた女

       ソロでカヴァーしているのと同様に1ROが声を挙げる。

       蘭丸の揺らぎも前野さんのホンキートンクもない。

       全然全く違う「港」。

       脆弱な男を骨太に唄い上げる妙。


       05.スウィート・スムース・ステイメント

       脆弱な甲斐今昔(笑)。

       これはA.G以来。

       このギターといえば松下誠のイメージが強い(というかそれしかない)が、

       1RO&英二には全く関係なし。やはり、強くて太い。


       06.ジャンキーズ・ロックンロール

       ここまで聴いてみて、甲斐さんは音を区切るように唄う傾向が顕著。

       それにしても1ROノリノリである。

       やはり1ROが前に出る方が面白い。おかげさまでいい汗かいた。


       07.裏切りの季節

       ほほうここまで演っちゃいますか。

       これも生では初見。

       やはり区切る。

       サーカス&サーカスで聴く叙情性は消されている。


       08.ウィークエンド・ララバイ

       サンプリング。

       やっぱ音が足らないってか?

       しかし基本は佐藤さんのアルペジオ。無理からギターだけでも演れたような気も。


       09.安奈

       こんな太い安奈は初めてだな。

       詩から考えてみれば音が太いにも必然性はあるのだが、それにしても太い。


       10.よい国のニュース

       クリアファイルに歌詩て(^^;;;

       開き直ったなあ、もう。

       ストレートな歌詩。みんなのうたにどうぞ。


       11.かりそめのスウィング

       1ROのエレガットが秀逸。いい音出すなあもう。

       A.G.みたくウッド(?)ベースの渡辺さん。

       この曲にはウッドだわ。


       12.ダニーボーイに耳をふさいで

       ゴンゴン響くリズム。ストレートに叩くドラム。      

       小難しい事をやらない方が余程難しく思えるドラムである。

       この曲だったかどうか定かではないが、1ROのギターの突っかかりに耳を塞ぐ甲斐よしひろがいたのは事実である(笑)


       13.翼あるもの

       ブレも揺れもない翼。

       ひたすら短いジョルトを叩き込むパワーファイターのよう。


       14.三つ数えろ

       元々は揺らぐこの曲が揺らがない。

       1ROBigNight、佐藤さんはオリジナルなリフ。

       なんで普通に、いやさがっしりと噛み合うんだか。


       15.漂泊者

       あまり言いたくなけどこの曲だけは言わせてもらおう。

       「クラップは不要である」と。

       サビはともかく、メロは明らかに普通のエイトではない。

       1ROのギターとドラムがシンクロするそのリズムは。

       にしてもすげえ迫力。

       しかも破壊的なそれとはまた違うんだな、なんとなく。


       16.絶対・愛

       これは正直な処、一番意外だった。

       しかも渡辺さんのベースは跳ねるのを抑えているようにすら見えた。

       三連に乗りまくり跳ねまくりの坂井さんのそれとは対極である。

       跳ねるリズムで跳ねさせてきたこの曲を。

       なのにこれもアリと思わせる力量。


       17.嵐の季節

       ん〜と、いつもより照明が暗い。

       もちろん最後は客席まで明るくなるのだが、この演出はベタではあるけど良いと想う。

       何故なら目頭に来たから。



       E1.ダイナマイトが150

       これもまた跳ねるのを抑えて直線系。

       マイクアクションは当然コード付。


       E2.風の中の火のように

       ストレートに来るなあこれもまた。

       FIVEともバンドともまた違う。

       強い。とにかく。



       E3HERO

       飛天のギター五枚と比較するのも野暮な話だが、アレンジはあの形でもとにかくパワフルである。

       うねりを抑え、ギター二枚がズドンと飛んでくる。


       E4.光あるうちに行け2011

       やはりここは希望の唄以外に無いだろう。

       ほとんど暗転の中、甲斐よしひろが叫ぶ。


       アヴェマリアが流れる。

       筑紫哲也は言った。

       「甲斐バンドの唄は援歌である」

       そんな言葉を想い出した。

       それはそのまま、甲斐よしひろにも当てはまる。

       ここまでそれを意識的に表現した事など、果たしてあっただろうか。

       明らかに復興への力添えとしての意志が表れていたと想う。

       阪神大震災後のチキンジョージもここまでではなかったと記憶している。

       もちろん規模は比較にならないし、身近さでもまた違うのだろう。

       それほどに今回の震災被害は甚大なものである。

       意識がそうであったとしても、それを体現できるのはやはり甲斐よしひろの力であるのだろう。

       刻むように唄いながらも、うねりを抑えたストレートなアレンジが目立った。直接胸に届くような演り方、なのだろう。

       直球勝負の「嵐の季節」や「光あるうちに行け」を叫ぶ甲斐よしひろに力を与えられない者など果たしているのだろうか。

       「漂泊者」や「三つ数えろ」にしても同様である。これら逆説的な唄を以てしても当然のように力が湧出してくる。

       上述のように「港からやってきた女」から「スウィート・スムース・ステイトメント」(←しかしタイトル長いな。iPodに表示しきれないし)の流れは

       らしからぬレベルの脆弱さなのであるが、背反的なアレンジがそれを補ってあまりある力強さである。

       強い。とにかく、強い。

       へし折る強さではなく、押し出し、引き上げる強さ。

       それを体現するライヴだった。

       わしに何ができるか。

       わしにできるのは医療の端っこである。

       医療にできるのは何か。

       医療は何の為にあるのか。

       ほとんど哲学のレベルである。

       わしなりの結論は変わらない。

       人々の健康を維持する事である。

       病と云う障壁を取り除き、健康、健全な生活を保つ事である。

       それが復興への礎となる確信は変わらない。

       実際の被災者の診療などほとんどないのであるが、それでも尚。

       これまで以上に、持てる力を出し尽くす気概は持たされたような気がする。

       そんな、Liveだった。












       と、これだけではもちろん終わらない。

       こねくったフェイントはもうめんどくさいのでやらないが。

       感情論だけで終わらせるレポはわし自身が面白くないのだ。

       手前勝手な推察で遊ぶのがこの場である事はもはや周知徹底されていよう。

       ここからが本題である。


       まず、このツアーに纏わるキーワードを幾つか拾い上げてみよう。

       暴論を先に吐いておくが、ここで東日本大震災(後)を省略するのは無論のことである。

       このLiveにおいて震災やその後の復興に関するメッセージはあくまでも修飾、後付の範疇である。

       感情的、意識的には相当な割合を占めるものだと考えられるが、それは要するに甲斐よしひろの「意識レベル」の話であり、

       わしが述べたいのは甲斐よしひろの「無意識レベル」、つまりは音楽的衝動がなんだったのか、である。

       従ってこれ以降では震災に関しては無視する事とする。


1.キーボードレス

これはBEATVISIONでも明言していた事なので明らかだろう。この15年の長きに渡り、前野氏がいないツアーなどMy NameKiller Gigぐらい、つまりはアコースティック・ユニットによるツアーのみである。通常のツアーには必ず帯同し、微妙且つ繊細なアクセントを加えていたのが前野氏である。その、彼がいない。ほとんど考えがたい状況ですらあるのだ。まして、代わりのメンバーを使うわけでもなく、「レス」なのである。キーボードレスに至るなど、KAI FIVE結成当初以外に思い当たらない。甲斐さん自身もMCで述べたように、サンプリングぐらいは使って佐藤さんがちょこっと弾いてたりはして皆無という訳でもないのだが、それも微々たるものである。甲斐さんはKAIFIVE結成当時ロックの基本構造(?)についてヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、そしてオーディエンス(笑)と述べていたことがあるが、それを踏襲するかのようなメンバー構成だった事、ここに幾つかの鍵があるのは間違いないだろう。


2.BTRレス

勝手に言葉を作ってしまうが。先の前野氏だけでなく、松藤坂井両氏もこのステージにはいなかった事は相当なインパクトを持つ。エポックメイキングとすら言えるだろう。大体が大森さん亡き後の甲斐バンドが甲斐バンド足り得たのは彼らの発するグルーヴの存在なくしては語れない。甲斐バンドとしての活動のみならず、二十世紀末からここまで、甲斐よしひろは三連を基調としたグルーヴへの傾倒が顕著である旨をわしは何度も述べてきたが、それももちろん彼ら無くしては語れない。この三人を抜きにしてこの十年は語れないのだ。One Night Standのレポでも指摘しておいたが、一つの到達点に達したら次の展開を広げるのが甲斐よしひろである以上、メンバーからBTRの三人が抜けるのもある意味必然的ではあるのだが、それでもやはり驚きは確かに在った。しかも、JAH-RAHも、蘭丸もいないのだ。ここにおいて、うねりを持つグルーヴは割愛、排除されたに等しい(もはや断言)。


3.田中一郎、佐藤英二の起用

バンド(のグルーヴ)を削除しつつ、バンド構成には欠かせない、というよりも甲斐バンドのメンバーそのものである1ROと準メンバーと呼んで差し支えない佐藤さんの二人が入っているという矛盾も、また指摘されるべきポイントだろう。甲斐バンドのメンバーがいながらも甲斐バンドではなく「ソロ」だと明言する姿勢。MCでも「三年ぶりのソロ」とソロ・アクトである事は明言しているのだ。いつかどこかで聞いたようなメンバーの構成である。ここにもトピックが存在しているのだ。


4.ソロ/KAIFIVE時代への偏重

とりあえずこの日のセットリストである。


01エキセントリック・アベニュー

02レイン

03.黒い夏

04.港からやってきた女

05スウィート・スムース・ステイメント

06.ジャンキーズ・ロックンロール

07.裏切りの季節(ジャックス)

08ウィークエンド・ララバイ

09.安奈

10.よい国のニュース

11.かりそめのスウィング

12.ダニーボーイに耳をふさいで

13.翼あるもの

14.三つ数えろ

15.漂泊者

16絶対・愛

17.嵐の季節


E1.ダイナマイトが150

E2風の中の火のように


E3HERO

E4光あるうちに行け2011


21曲中、7曲つまりは1/3が第一次ソロ〜KAIFIVE〜第二次ソロの時期に発表された曲である。たかだか1/3で偏重とはこれ如何に、ではあるが、ではこの十年でソロ/FIVE名義の曲が三割を超えるものがどれだけあるか。ちょっと抜き出してみればこんな感じである。


飛天: 7/26

My Name: 3/19

RockumentV: 10/21

Party 30: 4/33

Classic KAI: 4/18

20Stories Tour: 5/20         (分子=ソロ、FIVEの曲数/分母=全曲数)


もちろんバンド名義のLiveは省略するが、主立ったソロ・アクトではRockumentが半数程度あるのを除けば、ソロ・アクトまっただ中で行われ、今回より5曲多く演奏された飛天ですら7曲である。Rockumentとの共通性を挙げるとすれば、まずは当然、バンド・アクトの直後である点だろう。2001Beatnik Tourの同年に行われたのがRockumentである。ただしこの時はカヴァー(主にソロアルバム「翼あるもの」より)も多く演奏されており、今回とは似て非なるものという印象を受ける。


とまあいろいろ抜き出してみたのでそれを纏めてみる。

1.キーボードの無い編成

2.グルーヴ(うねり)の除去

3.バンドメンバーの起用

4.ソロ、FIVEの曲への偏重


1.4.からはそのまま KAIFIVEを連想させる。

2.3.からは1987年の甲斐バンド解散後を連想させる。

つまり、ソロとKAIFIVEが内包された構成であると考えられるのではないか。

してみると「かりそめのスウィング」でのウッドベースはA.G.を思い起こさせるし、「港からやってきた女」は解散以後バンドでは演奏されておらずむしろソロのイメージが強いし、「三つ数えろ」「漂泊者」はKAIFIVE1stツアーで演奏された印象はやはり強いし、「安奈」「HERO」はほとんど毎回唄われていてバンドの印象は弱い。ついでに赤い線入りパンツはFUNKである。こじつければいくらでも出て来るのだが、19871995年ぐらいの雰囲気がぷんぷんと匂うのである。「CHAOS」以降の少人数で一つ一つの音を太くし、その中心にヴォーカルが居座る雰囲気と、構成においては酷似している。


今、「酷似」と書いた。果たしてそうだろうか。

ここはLiveに居合わせた人にも訊いてみたい処である。

ちなみにわしは当然ながら、そんな風には露ほどにも想っていない。

Live後、CRYBBSでこんなやり取りをした。

CRY「今までのどのツアーにも似ていない気がする。」

わし「うん、確かに」

そうなのだ。

メンバー構成や選曲だけを見れば、明らかに系譜は辿れる。しかし実際の感想は、上の如くとなってしまうのだ。確かに、この十年必ず、アコースティック編成ですら、ステージに認められたグルーヴは無かった。音が絡み合いうねるようなそれは。かといって、それこそ1ROもメンバーであった第一次ソロやKAIFIVEと比べれば音の厚みも太さも勢いも、そして、グルーヴも、格段に違う。グルーヴも。


「あれ?」と想わないでいただきたい。

BTRのグルーヴは排除されたって・・・」等と突っ込まないでいただきたい。

ここを書きたいが為に何度も「うねり」という枕を付けてきたのだ、わしは。

これは事前から予想していたことだ。BTRレス=「うねるグルーヴ」を排除した事は解る。では、それ以外の何を感じさせてくれるのか。どうくるのか。わしが会場に足を運んだ第一の目的は、この確認の為である。グルーヴを全く排除するのか、それともグルーヴのベクトルが変わるのか、それを確認したくてチケットを買ったようなものである。

その答えが先の文章である。

わしの躰を「突き動かす」グルーヴを確かに感じたのだ。

これまでにあり、完成されたと言って良い「揺り動かす」ではなく。

「翼あるもの」で書いたように、短い距離からジョルトを立て続けに喰らうような錯覚。

そう、今回のグルーヴはいわば「縦波」なのである。

縦方向の波、ではない。それは横波の一種である。

物理を習ってない人は以下リンクを参考にして欲しい。

http://hooktail.sub.jp/wave/waves/


こうしてみると、区切るように唄った甲斐よしひろにも、「絶対・愛」で跳ねを抑えた渡辺氏にも、細かいリズムを刻まなかった佐藤氏にも、いつも以上に激しくリフを奏でた1ROにも、全て納得が行く。全ては、縦のグルーヴを作り出すためだったのだ。

余談だがここの文章で佐藤さんを割愛したのには他意があるわけではなく、唯単に死角になることが多くほとんど見えて無いためである。しかもただでさえスピーカーに近いのに更に目の前で1ROが太い音を奏でたからである。だから前の方は嫌いなのだ。目の前で甲斐さんしゃがむし。聴いてる余裕なくなるっちゅうねん。

話は戻すが、このグルーヴを作るための選曲であるからこそ、ソロ、FIVEに偏重したのであろう。「バンド」のイメージが強い曲であればどうしても横のグルーヴが頭を擡げてくるだろうし、当然客もそれを意識的無意識的に関わらず期待してしまう事だろう。

そして、少なくとも縦のグルーヴを作り上げるまでには至った、という事は、当面これを煎じ詰めに走るという事だろう。その中で「バンド」らしい曲をどう料理して行くのか、それは次回のツアーで明らかにされるだろう。まだこのツアーに参戦するのではあるが、既に次回が楽しみである。





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