この作家については説明など不用かも知れない。

なぜここまで多作で一定のクオリティを保てるのか

疑問に思わずにはいられない。

自らをエンターテインメントの作家と定義づけ、現代物はもちろん

歴史物、果ては三国志にも取り組むなどその活動のエネルギーは

計り知れない。

一貫して「男の視点」を貫く作風は読み慣れるともうやめられない。

 

 檻に入ったままではいられない男と、檻から出られない男。

そしてそれを端から眺めようとする男。

三人の対比を鮮やかに映し出しながらストーリィは進行する。

悲劇的なエンディングの中、男達は一つのキーワードを目の当たりにする。

そうなったが故に死んでいく男。

そうなれなかったが故に殺した男。

それを眺めることで自分を諫める男。

 北方初期の名作である。

 

挑戦シリーズ(全五巻)

 脆弱な少年が男に、そして獣になっていく。

日本、南米ペルー、そして北米で男は別れを体験し、

その度毎に強靱さを増して行く。

愛する者、友、さらに息子とも言うべき者。

失う度に得る物がある。

そして男は強く、獣と化す。

最終巻、己の傷を舐めるが如くの主人公の姿、

それを見守る女の姿は美しい。

 

老犬シリーズ(全三巻)

 北方作品の多くに顔を出してきた”老犬”の

幼少期、青年期、老年期の三部作である。

獣とならなければ生きることすら出来なかった時代を経て、

男は刑事となる。

そして刑事となったが為に味わう事になる悲劇。

これ以前の北方作品の重さを創り上げるキャラクターの

生き様は、当然の様に重いものであった。

最終作「望郷」で、ふと主人公が漏らす一言に涙を流さずにはいられない。

 

ブラディ・ドール シリーズ(全十巻)

 ブラディ・ドールという酒場を舞台とし、

「荒野」をキーワードにに繰り広げられる

男達の闘いとユートピア。

ややリアリティに欠ける部分は否めないものの、

戦闘シーン、ドライビングの細かい描写はそれを補うに十分。

 物語のエンディング、捨てる事で何かを守ろうとする

主人公の姿を「血塗れの清々しさ」で表現する様は

北方でないと書けない。

 

Books

北方 謙三