’2000 オリンピック 決勝トーナメント
日本-アメリカ戦
序盤、アメリカはのらりくらりとしたリズムでボールを回す。
相当にシンプルなフットボールをするイメージ。
かなり徹底した規律を植え付けられているようだ。
決まり切った動きながら、スペースに走り込む事、 そしてそこにボールを出す事は決まっているようだ。
簡単にボールを回している。 しかし、上手くはない。下らないミスを連発する。
つられるように日本もミスを繰り返す。 前半20分頃まで、
のんべんだらりとボールが回っては 滞る締まらない試合運びだった。
今にして思えば、これがアメリカのリズムの作り方なのかもしれないが。
それに加え、日本選手全員に動きの重さが見える。
予選三戦をすべて全力で闘い、その最後がブラジルだった事の影響なのか。
しかもトゥルシエのとる戦法は、決して楽な戦い方ではない。
更に若いオリンピック世代だ。疲労は相当なものだろう。
前半はこのまま0-0でも良い、そう思っていた。
そんな中、酒井が中央に切れ込もうとしたところでファールを誘う。
PKを取ってもおかしくはない位置であるが、 ペナルティエリアのすぐ側でのFK。
中村が蹴ったボールは壁に跳ね返されるも、再度切り込んでクロス。 柳沢のヘディングが決まる。
この後アメリカは攻撃を厚くするも、開始から作られたリズムは そう変わることもなく、
のんべんだらりとしたまま前半が終わった。
後半に入り、ゲームのペースが速くなってきた。
前半見られたアメリカのミスは減り始めた。 日本も攻めるが、ゴールには至らない。
アメリカのコーナーキック。 ここが第一の勝負所だった。
これを凌げば。勝てる筈だと思っていた。 しかし混戦の中、ゴール左隅にボールが突き刺さった。
同点。
日本も折角得たペースを離そうとしない。 更に攻撃を重ねる。 右からのクロスを高原が押し込む。
負けられないという日本の執念を高原が形にした。
日本の体力はこれが限界だったのかもしれない。
勝ち越しを境に動きがみるみる落ちて行く。 押し込まれる形が続く。
勝利への執念のみでアメリカの攻撃をなんとか凌いで行く。
楢崎の負傷。 客観的に見れば判断ミスとしか言い様がないが、 気持ちだけは評価したい。
その後もゴール前に立つ。 正に気力のみの勝負となる。
89分、アメリカの縦パスが裏に抜ける。 酒井が追いかける。 ウォルフはボールに向かわず、
酒井の走るコースに走る。 転倒。足は掛かってない。
僅かに酒井の左手がウォルフの背中に掛かっていた。
笛。痛恨のミスジャッジ。 ミスでなければ、アメリカ贔屓だったのだろう。
再度、同点となる。
長いロスタイムの後、休憩を経て、延長。 消耗戦となった以上、形らしい形も作れず、タイムアップを迎える。
PK戦による決着。
何度も繰り返すが、PKになった以上、勝敗 〜公式記録上は引き分けとなるため、
正確に言えばトーナメント上位進出〜 は、運と精神力の勝負となる。
一番プレッシャーのかかる4番目で、中田。 この日最も精彩を欠いた中田が蹴らざるを得ない 日本の苦境が、
中田の表情に浮き彫りとなる。 フットボールを経験した者が感じた予測。 不吉な確信。 現実となった。
わしは断言するが、チームプレイである以上、 勝敗は誰か一人が責任を負うものでない。
言うなれば、二点しか取れなかった攻撃も悪ければ、 二点も取られた守備も悪かったのだ。
現代のフットボールが全員攻撃全員守備で行われる以上、 負けたのは全員の責任でしかないのだ。
サッカーマガジンの評で、中田の出来は悪いものの PKに関しては全く評価の基準としないとしていたが、
その通りである。 もう一度言う。PK戦は運と精神力の勝負である。
入って当たり前のものが入らなくなる極限状態を彼らは闘ったのだ。
ワールドカップという大舞台で、幾多の名選手がPKを外してきたことだろう。
ジーコ、ソクラテス、プラティニ、バッジオ、バレージ・・・・
結果、決勝トーナメント一回戦で日本は姿を消すこととなった。
明らかに消耗したコンディションの中、代表は良く闘ったと讃えたい。
あくまで引き分けであり、敗戦ではないと言いたい。
しかし。これだけは書いておきたい。 不当なジャッジにより、日本は敗戦を強いられたのだと。
同じ行為をしても、その判定はその場所、 そしてチームによって全く安定していなかった。
ルールブックにも書いてある規定を無視して、 警告(退場)を取らないのはその際たるものだ。
なぜ最後までアメリカは11人で戦えたのか。 正当なジャッジでないから、そうとしかわしには言い様がない。
なぜ同点になったのか。 ウォルフの反則〜しかも二つの〜を無視して、
不可抗力としか言い様のないものを反則と認定したからだ。
わしはここでただ一つ、日本代表に苦言を呈したい。 なぜ抗議行動を誰も取らなかったのか。
酒井本人が抗議しなかったのは当然の事だ。 抗議により警告を出されれば、一枚警告を受けている彼は退場となる。
ならばなぜ、他の誰かが抗議に行かなかったのか。 暴言を吐かなければ、退場とはならない。
暴言でなくとも抗議として言葉を発せば、ルールブック上は警告である。
しかし「抗議らしき」行動、ジェスチャーは制限、規定されていない。
ゲームの進行を妨げない程度に抗議を表す事は可能なのだ。
不当なジャッジを何故受け入れるのか。
せめて審判に無言のまま詰め寄る事ぐらい、 その程度の執念を見せることぐらい。
誰もしないまま、PKの笛は鳴った。 だから、舐めた笛を吹かれるのだ。
審判の眼球を刳り抜きたいぐらいの怒りをわしは持った。
その怒りを、代表に向けよう。
なぜ、わしらの代表の君達は勝利への執念を形として見せてくれなかったのだと。
なぜ、不当なものをそのまま受け入れたのだと。