’2000 アジアカップ 決勝

日本-サウジアラビア戦

 

 〜序〜

 決勝について書く前に、一言総評しておきたい。 この大会の意味づけを。

トゥルシエは、「勝ちに行く」とだけ繰り返していた。 そして「攻めて勝つ」とも言っていた。

それがどんな意味を持つのか、わしなりに解釈してみる。

 それは、「アジア相手になら守らなくても、 攻め一辺倒でも勝てるチーム作り」に他ならない。

どこかのメディアが「脱・アジア」という表現をしていたが、

正にこれがトゥルシエの考えるこの大会の位置づけであったのだと思う。

世界の中で第四勢力にしかならないアジアの国相手になら ごり押しでも勝てるチーム作り、1ランク上のチーム作りを目指し、

あわよくばこの大会を制し列強の仲間入りを 果たそうという目論見であったのではないかと考える。

 結果的に言えば、ごり押しでも勝てるチームはできあがった。 この点では大成功であると考えたい。

ただし、問題点は多々ある。 攻撃守備に関わらず問題点は山積みである。

しかしわしが思うに、これら問題点は解決にさほど難しいものではなく、 僅かの期間で修正しうる点である。

憶測に過ぎないが、トゥルシエは難しい問題を先に解決しておいて、 簡単な問題を後に回すタイプなのかも知れない。

強化に時間を要するやり方ではあるが、現在その大枠はできあがりつつある。

 後二年の内、細部の詰めまでをも成功した場合。

2002年のワールドカップに於いて、我が日本代表は 予想もつかなかった成果を上げることになるだろう。

 そのような楽観的な視点を持ち、この試合を評価してみたい。

 

 〜攻撃〜

 サウジの中盤から後方にかけてのチェックに攻めあぐねた感は否めない。

特に後半序盤、前線から激しいプレッシャーをかけてくるサウジに対し、 安全なサイドへのパスを選択せず、

前線中央へのパスが目立ち過ぎた。 楽にサイドに展開して攻めた方が良い場面が多く見られたのにも関わらず。

意固地なまでの中央でのポストプレイを仕掛けすぎである。

前方にスペースを持ち、尚かつフリーでいるサイドの 望月、中村が無視され、

背後にびっちりマークをつけた西澤、高原に ボールを預けようとするプレイが多かったのである。

相手ゴール近くならまだしも、ハーフウェイラインよりも後方で 50%通るか否かのパスを出すべきではないのである。

一種無謀なパス、不確実なパスが多すぎた。

 更に、カウンターが余りに下手である。

DFがボールを取ったらサイドのフリースペースにボールを出し、

更にスペースにFWを走らせればカウンターは一丁上がりなのである。 なのにこの展開は皆無であった。

もっと楽な展開を多用すれば相手はサウジと言えど、 もう1、2点は取れた筈である。

 これが意図的でないとすれば、余りに視野が狭いと言わざるをえない。 パスの選択がいつもにも増して悪すぎる。

 しかし、もし、これが意図的であるならば。 更なるステップアップのための「練習」であるとするならば。

ギリギリのパスを通し、前線の選手がシュートチャンスを作る練習であるとするなら。

相手は一対一に強く、本気、しかもホームとも言えるサウジである。

恰好の練習相手、アジアで最高の練習相手であったのではないだろうか。

 結果として中村のFKから望月がゴールを挙げる事になるが、 この時など入るべくして入った点である。

セットプレイの確実性は更に増している。 この点は素直に評価して良いだろう。

 

 〜守備〜

 最終ラインの三人については特に言うことはないだろう。 裏を取られ過ぎではあるが、あのような展開では致し方ない。

元々DFラインを高めに設定してあり、前線からのチェックが甘い以上、 ああなるのは必至である。

GKが川口ということもあったのは確かだが、 恐れてDFラインをズルズル下げることは無かった。

シュートチャンスを作られてもほとんどの場合ワンサイドを切っており、

〜要するにシュートコースを半分は塞いでいたと考えてもらえば良い〜

本当にやばかったのはあのヘディングシュートぐらいだろう。

 ただ、後半に入り、シュートチャンスはかなり作られていた。

前線〜中盤でのチェックが甘かったのが一点、 安全なパスを出さずに容易にボールを取られていたのがもう一点。

ボールを安全にキープすることが最大の守備であり、

前線からパスコースを限定し、ペナルティエリア付近に近づいた時には

パスを出すところがないどんづまりの状態にすることが守備の基本である。

 この二点をきっちりこなせるようになれば、 多少の相手でもそうそう点を取られる事はないだろう。

 GK・川口の守備はもう、十分である。 GKで一番大事な事は、「ミスによる失点をしない」事である。

「こうすれば守れていたかも」という失点をしない事である。

アジアカップ6試合の内、ミスによる失点は無いと言っていい。

これだけでも十分であるが、それだけではない。

以前から意識はしていたようだが、より正確になったフィードは特筆に値する。

前線への正確且つ速いフィードは最も単純且つ最も迅速な シュートチャンスを生み出す。

精錬すれば、新しい攻撃パターンとなりうるだろう。

チラベルトが世界最高のGKだと自負するのは、その守備力は当然として 攻撃力も加味されての事である。

わしとしては、現時点では川口が楢崎を二、三歩リードしたと考えたい。

 

 〜課題点〜

 以上ででもう十分かも知れないが、一応課題点を挙げておこう。

1.安全なパスコースの選択

2.カウンター攻撃の充実

3.前線からのタイトな守備

4.GKからのフィードをシュートまで繋げる

 ・・・・・・・全部基本的なことじゃったりして(笑)

 チーム作りをする上で、まず最初に手を着けるのがこういったところである。

即ち、最も手を着け易いところなのである。

ミルティノビッチ率いる中国がこの辺りを こなそうとしていたのは明白なことである。

一番手を着け易いから、そこからマスターさせようというところなのだろう。

 対してトゥルシエ率いる日本は。 こういった事をさておいて、やや難易度の高いことをマスターしようとしている。

どちらのやり方が正しいのかは、2002年に明らかになるだろう。

ただ、現時点でマスターしたことを維持しながら、 これら単純なことをマスターできれば。

 我が日本代表は決勝トーナメントを闘っていることは間違いないだろう。

 

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