’2000 ハッサン二世杯
日本-フランス戦
〜守備〜
わしは個人的には楢崎を評価していない。 確かにハイボールの処理、反応の速さ、更に後半終盤に見せた、
アネルカのシュートをはじいた時のような一対一の強さ、 こういったものは国内随一であろう。
しかし、「飛び出すタイミング」にかけては、わしは疑問を持つ。
取られた2点とも、そのタイミングさえ合えば、防げたものと見えた。
1点目は飛び出さなくてもいいように思えたし、また、 飛び出したのなら必ずボールに触らなければならない。
2点目は、完全に守備範囲の中である。なぜ飛び出さなかったのか 疑問である。
飛び出して取られたのならまだ納得はできるのだが。
取られた2点とも、楢崎の責任の負うところは大きい。
わしとしては、不合格とする。
次にDFの三枚。クロスに対してはほぼ完璧。
相手に触られることはなかったと言っていい。
他の場面でも、終始冷静な対応を見せ、ヒヤリとする場面はほとんどなかった。
ただし、1点目は完全にこの三枚のミスである。 あそこでジダンに裏を取られるようではいけない。
三枚のラインを揃えてジダンをオフサイドに掛けなければならない場面。
なのに、一枚のズレが失点に結びついた。 ラインディフェンスを引く以上、ああいうミスはいただけない。
ちなみに、この局面で解説の風間氏が言ってた事は違うと思う。
観てない人にはどうでもいいことなので割愛するけど(笑)。
ミスさえなければ、と思わせるので、厳しいけど不合格。
最後に、MFとFWの守備。 稲本、名波と伊東のボランチ三枚はしっかり機能していたし、
他の4人の守備も前線とすれば十分だろう。 ただし。2点目の失点が問題である。
パスを出さんとするジダンに誰も寄っていない。 あそこは、MFの誰かがプレッシャーをかける場面ではないか。
元々DFの松田へのパスミス、松田の処理ミスから出たものとはいえ、
そのミスを取り返さなければならない松田はアネルカに跳ね除けられていた。
(この辺はアネルカの巧さでもあるが・・・・・)
ノン・プレッシャーでしかもジダンである。点が入らないのがおかしい。
誰か寄ることはできなかったのか、疑問が残る。
全体としては、不満が残る守備だった。
〜攻撃〜
中田のボールの受け方は絶品。これまでよりも良くなっていたようだ。
こういう受け方を意識してできる選手は、日本にはいない。
彼が楽にボールを処理することこそが、日本のチャンスに結びつくのだ。
(良くも悪くも、そうなのだ)
やはり、素晴らしい選手であることは間違いない。 ただし、彼が守備エリアで見せた数回のパスミス。
あれはいただけない。 彼ほどの選手は、守備エリアでミスしてはいけないのだ。
しかし、得点には至らないものの、多くのチャンスはやはり彼を介して 生まれていた。
安全確実なパスと、チャンスを生むパスの使い分けも見事。
さらに、西澤のワントップという布陣により、森島と中田が1.5列目的な ポジション取りができたのは収穫。
元々中田は1.5列目の選手で、 絶妙のパスだけが売りではない。
FWのリターンをもらって猛然と相手ゴールに 飛び込むのが好きな選手でもあるのだ。
(あの、ジョホールバルのゴールデンゴールが生まれる経緯を思い出して いただきたい)
試行錯誤が繰り返された攻撃布陣に、一つの目処が付いたといってよかろう。
中盤の底からの組立もまずまず。オフト以来久しぶりに中盤での流れるような パス回しを見たような気がする。
もう少し、簡単にできるような気もするが。 これもまずまずと言っていいだろう。
難をいえば、やはりサイドからの攻撃を増やしたい。 サイドをもっと利用しなければ、
中央の攻撃も生きないのは自明であると思う。 ただ、あのフランスから2点を取ったのは評価されていい。
親善試合に毛の生えた程度の大会で調整段階のフランス相手でも評価されていい。
結果オーライだが、結果を残してなんぼなんで合格 。
〜監督〜
さて、去就が取り沙汰されるトルシエについて。 結果を云々と協会は言うのだから、
当然合格としたい、去就問題については(笑)。
前回のワールド・チャンピオンであり、 FIFAランキング第3位であるチームと引き分けたのだ。
合格以外の何物でもなかろう。
後で詳述するが、日本の監督をする事がどれだけ大変なことか、
協会自体が 理解できてないのだからしょうがない。
その大変さを理解し、尚且つ結果を出せそうなのはトルシエぐらいしかいないのだ。
マジな話。絶対に合格である(爆)。この辺は後で。
感情論(笑)はこの辺にしておいて試合の話に戻ろう。
西澤ワントップ、1.5列目に中田森島というのは、今現在考えられる布陣では ベストなのではないだろうか。
中田が生きる意味でも、同じチームで尚且つ 絶好調の二人を使うという意味でも。
ただし、西澤を使うのなら、もっとサイドからの攻撃を意識したメンバー構成に するべきではなかったろうか。
中村のセンスに疑問はないが、サイドを抉る能力には 疑問が残るし、やはり彼の線の細さは致命的だ。
スルーパスの出所を分散するというのはもちろんあるだろうが、 稲本や名波が後ろにいる以上、
むしろサイドアタッカーそのものにした方が名波も生きそうだ。
ただ、結果だけを見れば十分だろう。その結果を生む布陣であったし、
またその布陣にある程度の規律めいたものが見てとれた。
(蛇足ながら、この「規律」をキーワードに後で詳述する)
むしろ、守備の規律は乱れていたような感を受ける。 守備で規律が乱れるのは選手の責任でもあるが、
徹底できない監督の責ももちろんある。 当たり前のことができなくて失った2点には、選手ともども猛省を促したい。
守備の規律は、攻撃の規律よりも簡単な筈なのだ。
〜総評〜
改めて、思う。この国でフットボールを指導するのが如何に難しいことか。
この国で指導者となるためには、「規律」の指導を根本から始めなければならないのだ。
以前JokerのHPにて苦言を呈した、「基本」の中に含まれる事である。
ボールをもらう動き。処理しやすい体勢でボールを受けるための動き。
処理した後の動きまで考慮に入れた上での動き。 先の動きを予想した上で、パスを出す。
こういった動きを集団で行う際、必要な物が「規律」と呼ばれるものである。
先進国では、南米であろうが欧州であろうが、こういったことももちろん基本として 選手は備えている。
いくつかの規律を知っており、規律を与えられなくとも ある程度の事はできるのが普通の選手である。
そしていかなる規律にも合わせ得るのが一流選手。
規律を踏み越えてでも更に良い結果をもたらす者が超一流選手である。
しかし我が日本では。規律は与えられる物である。 その時々の指導者に規律を与えられ。
しかも多くの指導者は規律を与えることすら知らず。
(そんな人が更迭されましたねえ・・・・・)
了解事項なくしては、コミュニケーションが取れるはずもない。
言語が違えばコミュニケーションが成立しないように、 規律なくしてはピッチにおけるコミュニケーション、
つまり パスワークは成立しないのである。
この様な現状で、規律を徹底するのは、並大抵の指導者ではできない。
かつてオフトは、「トライアングル」を用い、その動きを単純化することで ある程度達成して見せた。
すなわち、パスを出す相手をあらかじめ二人決めておき、 パスを出す一人と合わせた三人での動きを決める事で、
DFラインからのパスを スムーズに前線に繋ぐことを可能とした。
そして前線に運びさえすれば、後はラモスからのパスとカズのドリブルで チャンスを作り出すことができた。
トルシエ監督下の代表が最も苦慮しているのが、これだ。 前線にボールを運べない。
チャンスは一か八かのパスが通らなければ生まれない。 従って、点もほとんど入らない。
チャンスを作っているのであれば、時の運で済ませることもできる。
しかし、チャンスの無いところに得点は生まれない。 よって、得点力不足などと叩かれることになる・・・・・。
ただし、今回の試合では規律の萌芽を認めた。 これまでトルシエが植え付けてなかったのか、
植え付ける必要もないと思っていたのかは知らない。
しかも、比較的前線からプレッシャーをかけてくるフランス相手に、
いい時にはワンタッチで4人、5人とダイレクトパスが繋がっていた。
こういう規律立ったパスワークを、ここ暫く見た憶えはない。
考えてみれば、トルシエは日本同様規律を知らない国で、 しかも数カ国に渡り規律を植え付ける作業をしている。
その意味では、世界に二人といない指導者かも知れない。
このまま順調に攻守の精度を高めることができれば・・・・・
決勝トーナメントに出場することも、もしかしたら可能かも知れない。
ただし、トルシエを首にした場合。 また無からのスタートである。
日本という基盤のない国が、ゼロから積み上げてワールドカップで 決勝トーナメントに出場できるものかどうか。
大東亜共栄圏の確立よりも難しいものである事は相違なかろう。