Jasmin again

雑踏の中を歩く。

現代と前近代が密接した、土地。

ただ一人を求め、流れ着いた、場所。

自分で流れただけだ。

 

愛し合ったと思いこんでいた、女。

独善的な愛は独善的に破綻した。

女は、職場での冷静な口調そのままに、俺を捨てた。

捨てる前に、所有もしていなかったであろう、俺を。

まだ愛だと信じようとしていた。

 

忘れようもない想いを伝えようともした。

彼女は吐き捨てた。

つきまとうな、と。

気づけば、仕事から干され。

飛ぶか辞めるかの二者択一しかなくなり。

何もかも、破綻していた。

 

それでも、彼女への想いは断ち切れなかった。

ストーカー紛いに、彷徨いた。

一月もしない内に、彼女の家から灯りが消えた。

 

業者を装い、会社に電話した。

海外出向。

それだけで、海を越えた。

 

そして、ここにいる。

この土地にいる。

それだけで、歩き回っていた。

 

こんな雑踏に、いる筈もない。

どこかのオフィスにいる筈だった。

会社の名前まで、聞けなかった自分を悔いた。

例え聞いていたとしても、教えられる筈もない。

 

汚れたガラスに、汚れた俺が映る。

周りを行き交う人々に溶け込んでいた。

言葉も通じず、何を調べるでもなく、ただ、歩く男。

塵箱の中の、塵屑。

捨てられ、消え去るもの。

消え去らない想い。

衝動。

噛んだ唇から、血が滲む。

痛みなど、忘れた。

 

ふいに、胸を突かれた。

どこかに、彼女がいる。

なんの確証もない確信。

見回す。

雑踏のみがそこにはあった。

こんな風景に溶け込む筈もない女は、いない。

歩き続けた。

誘われたように、角を曲がる。

そこに女はいるという、狂信。

 

薄汚れた、食堂。

 

花の香りの、茶。

 

記憶を呪い。

 

俺自身を呪った。

 

 

KAI Story