一日の終わり
 
 

  端的に言葉を紡ぐ。

何もできない事を伝えるために。

限界。 末期。 痛みのコントロール。

明らかに曇る表情。 感情を噛み殺す表情。

幾つかの壁の向こうでは、浅い眠りにまどろむ人。

 

 自発的なものではなく、科学の力により得られた眠りに。

俺の向かいには俺自身と同世代の人々が並ぶ。

こんな場所でなければ、共通の話題を有していても不思議はない人々。

居丈高に、残酷な現実を突きつけられる人々。

 

 できる事など。ない。

幾ばくかの苦痛の除去以外には。

それが肉体的な苦痛であろうが、精神的なそれであろうが。

 

 可能と不可能の谷間は残酷なほどに狭い。

しかし、その底は。とてつもなく深い。

その谷間を埋める力は、ない。

俺自身の中にだけないのではなく。

 

 どこにも、ない。

 

 底にある痛みという鋭利な部分をなだめるだけの、もの。

感覚の麻痺と同時に、精神もまた。

痛みと同時に、人格を消失させてゆく。

慰めの言葉など、どこにあろうか。

慰めになる言葉もなければ、 それを吐く立場にもない。

ただ、現実のみを突きつける言葉しかなく。

それを言うだけの職務。

 

 車に乗り、深く息を吐く。

残酷な現実を吐き出す。

エンジンをかけ、深く息を吸う。

虚構かも知れないもう一つの現実に還るために。

 

 

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