2002年 ワールドカップ 準決勝

ブラジル-トルコ

 TVの画面にカナリアが舞う。

イングランド戦までとはうって変わったブラジルのプレス。

ハーフウェイライン辺りから人数をかけ、ボールを奪おうとする。

前回大会同様に、準決勝での激しいプレス。

 

全く同じ文章を書いてしまおうかとさえ思ってしまう(笑)

 

ドイツほどの精密さはないものの、

テクニックと反応スピードでは優るブラジルのフォアチェック。

ボールを奪えば、必ず二人がパスコースに顔を出す。

イングランド戦の攻撃陣最大四人とは大きな違いだった。

それでもトルコも準決勝まで進んできたチームである。

日本がベスト4へ進むチャンスだ、

等と名前だけに踊らされた(ている?)解説者達を

嘲るかのように素晴らしい展開を魅せる。

やはり、これがワールドカップの準決勝だ。

激しく且つクリーンな試合展開。

 トルコも同様に前線からプレスをかけ、奪ってしまえば 素早く正確なパス回しで展開する。

ダイレクトでパスを回してしまえば、如何にブラジルが

激しいプレスをかけようにも間に合わない。

縦へ、横へ、中央へ。

早いパスが目まぐるしく飛び交う。

ハサン、ハカンシュキュル、バシュトゥルクを軸として

ブラジルのDFを脅かそうとする。

シュートチャンスはあるものの、 決まる、と確信できる展開はない。

ブラジルもリバウド、ロベルト・カルロス、カフー、

そしてがロナウドがシュートを放つも決まらない。

 20分を過ぎて、ブラジルがやや落ち着いたようにプレスを緩める。

ブラジルの攻撃にかける人数も目減りした。

それにつられるかのようにトルコの運動量も下がる。

双方とも、体力に優れたチームではない。

あの展開で90分もたせる事など不可能である。

予定変更、か。

ブラジルは前半早々に勝負を決めるだけの得点を挙げ、

後は体力を温存するつもりだったのかもしれない。

あくまで先=決勝を見越した闘いをブラジルはしていたのだろう。

しかしそれができなければ次の手がある。

前半は抑え気味のまま、チャンスを窺う展開となった。

中盤でのプレスが弱まっただけ、ゴール前までは進む。

ただし後方に人数を割くようになった以上、

逆にシュートチャンスは減っていた。

 

 後半に入る。

やはり前半開始ほどのプレスはない。

しかし前回大会同様に、ブラジルは後半開始直後のゴールを狙っていた筈だ。

前回大会、リバウドのスルーパスをロナウドが素晴らしいスピードで

ものにしたのは後半開始直後だった。

 左に展開するブラジル。

ロナウドの前方には三人。

ボールを受け、三人の間を強引に抜きゴールへ突進するロナウド。

走る右足を出す度にボールタッチ。

一回、二回。

三回目、僅かに足を後方に振り上げる。

正確に言えば、振り上げるという表現が合致しない程の大きさで。

そのまま足を出す。

トゥキックかとも思える位置でボールを前に転がす。

シュートだった。

あの動きの中、シュートが来ると予想できた者は選手観客含めて誰一人としていまい。

否、ロマーリオだけは判ったかもしれない。

試合後のインタビューで、ロナウドが語った内容は、

あのシュートはロマーリオの得意な形であり、

だからこそこのゴールはロマーリオに捧げる、といったものだったのだから。

 それでもトルコのGKルストゥは反応し、左手でのフィスティングを試みる。

しかし。

当てるのが精一杯だった。

おそらくルストゥがシュートと感じたのは、

ロナウドがシュートを放った後、僅かな時が経過した時点だったろう。

あのタイミング、あの足の振りでシュートが来ると予想することすら困難である。

ましてシュートを撃った瞬間に反応することなど人間業ではない。

GKというものは。

シュートのタイミングを計らなければボールに触れることなど不可能である。

計ってでさえ、10数メートルの距離を飛んで来るシュートを防ぐことは困難なのだ。

いつ撃たれてももいいと構えることはできても、

撃った瞬間を逃せば、ボールは枠の中、なのだ。

 従ってこのロナウドのゴールは0コンマ数秒、

いや0コンマ0数秒の遅れが 生んだゴール、なのである。

これがどれほどぎりぎりのラインを超えたシュートかお解りいただけるだろうか。

わしは本大会、いやワールドカップの歴史の中でも屈指のゴールだと断言する。

ルストゥは唖然とへたり込んでいたが、それもそうだろう。

何が起こったか頭で考えた時には既にゴール、失点だったのだ。

戦意を喪失しても誰も攻めることはできないゴールだった。

 

 それでもトルコは諦めようとはしなかった。

ハサンのヘディング、バシュトゥルクのボレーシュートがゴールを脅かす。

やはりブラジルはサイドからのクロスに弱いことが露呈する。

二人とも、ほぼフリーといっていい状態でボールを扱っていた。

前回大会の準決勝においては、この状態からクライフェルトにヘディングを決められている。

幸運にも、今回においては失点する事はなかった。

得点後も人数をかけないながらもゴール前に押し寄せるブラジルの攻撃陣。

トルコもサイドバックを上げ、クロスを上げたいところだろうが

守備を疎かにするにはブラジルの攻撃はリスクが高すぎた。

従って人数をかけないまま攻撃しようとしても数的優位な状態には持ち込めない。

  ブラジルの守備の穴は少なからずあった。

わずかなマークのズレなど数え切れない。

しかし、ハサン、バシュトゥルクがシュートを撃つまでには至らない。

瞬間的な躰の寄せと足技の巧みさでボールを奪ってしまう。

  35分過ぎには、ブラジルは完全に守りの体勢に入った。

しかしイングランド戦とは異なり、明らかに時間稼ぎを試みるプレイは

さほど多くなかったように思う。

シュートチャンスさえ作っていたのだから。

比較してみれば、イングランドよりもトルコの方が

攻撃パターンは数多く持っている事は明らかである。

従って失点の可能性も十分にあり、ならば突き放す駄目押しを

あわよくば狙おうと考えていたのかもしれない。

 タイムアップの笛が鳴る。

歓喜するブラジルの選手、スタッフ。

終わってみれば、危ない場面も数多いながら

ブラジルの計画通りの展開だったのではないか。

前半の内に決めれるものなら決める。

そうでなければ後半開始当初に勝負をかける。

後は守ってカウンター。

予定通り、だったのだろう。

 

 ゲームを支配していたものがゲームに勝つとは限らない。

しかしこの準決勝二試合、両方ともゲームを支配していたチームがゲームに勝利した。

順当、というしかない。

 

 そして、6/30。

決勝はドイツ-ブラジルとなった。

ドイツに勝機があるとすれば、サイドからのクロスを如何に有効に使うかだろう。

クロスをどれだけ上げることができ、

またそれをどれだけフェイントとして使えるか。

 

 目が離せない一戦になることを期待したい。

 

 

 

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