1998年 ワールドカップ 準決勝

ブラジルーオランダ戦

 まずはお断りを。

 ”レポート”と表しましたが、時間をおってこのプレーあのプレーと書くと、

際限のないものになってしまい、迷惑なだけ(笑)になり、 また時間的 にも苦しいので、

総評、エッセイといった形を取らせていただきます。

 本文に移る前に(笑)。二つ三つほど注釈を。

 以前言った ”ワールドカップは準決勝を観ろ”について、その理由を。

 まず、強豪といわれるところは、まずここに照準を合わせて コンディションを調整してくる、

つまりもっともコンディションがよい状態で戦う、 とい うことが一点。

一ヶ月もの間最高のコンディションを維持するのはどんな超人でも不可能。

であれば、決勝に合わせたいが決勝に出れなければしょうが ない。 そういった兼ね合いの中で、

準決勝にコンディションのピークを合わせるのが 一般的になっている。

 次に、退場、警告累積で決勝に出れなくなると困るので、 イエローあるいはレッドに相当するような汚い反則が減り、

クリーンな内容になる。 その 結果として選手の能力が最大限に発揮される可能性が高くなる。

 さらに、準決勝までの5試合の内に、チームの組織が精錬されてくる、

決勝に出るというモチベーションなどが加わり、個人的、組織的、また体力的、精神的にも

もっとも良い状態で戦うことになる。

 そういうチーム同士が戦うのであれば、好試合になるのは必然、 そういっても差し支えないでしょう。

 欧米型、南米型という表現について。

 結論を先に言いますが、そんなものはありません。 あるとすれば、ドリブルが上手い選手が「比較的」多いのが南米、

そういう選手が「比較的」少な いのが欧州。 その程度の違いです。

今現在そういうことを言うのは、無能な解説者、不勉強なメディア、それだけです。

今やワールドクラス、優勝候補と呼ばれるためには、 個人の能力はもとより組織の能力がなければなりません。

蛇足ながら、有能な監督とは、選手の 技量を見極めそれにあった組織を 作り上げる事ができる監督、と言えるでしょう。

 欧州南米という区別に意味がない実例を挙げましょう。

欧州型の代表ともいわれ、組織的すぎて面白くないとまで揶揄されるドイツ。

この国の今回の ワールドカップでの得点パターンは、 ロングボールをビアホフの頭に合わせること。

そしてそのこぼれ球に クリンスマンが詰めること。

つまりビアホフのヘディング、クリンスマンのポジショニング、フォローの速さ。

そういった”個人の能力”のみによって得点している、という事実。

 逆に、南米型の代表、ブラジルの得点が特定の選手でなく多くの選手によって上げられているという事実。

3点以上あげている選手がロナウド、リバ ウド、ベベト、サンパイオの4名。

多くの選手がシュートを打つ、という事はすなわち、チャンスとなるポイントに

必ず誰かが走り込むということ(= 組織の動き)が徹底されている証拠。

 端的すぎますが、お解りいただけますでしょうか。

これまで何かあればすぐに欧州型、南米型というカテコライズを 行ってきたメディアが、

何も考えずに、何も勉強せずに書いてきたかを。

 組織は個人のために。個人は組織のために。この両方を体現できるのが、

強豪と呼ばれるチーム、国なのです。

 

 さて、いよいよ(笑)、本文です。

が、先にも断ったように、時間をおっていくのは辛いので(爆)、 総評です。

 開始直後から、これまでのブラジルとは違うな、と思わせる動き。

 何が違うか。

 まずFWからDF間での距離が短くなっている。

さらに縦の選手間の 距離だけでなく、オランダの選手がボールをキープしているとき には、

横幅をも狭めて(これを”絞る”といいます)数的有利な状態で守備をしている。

 そして一旦ボールを奪うと、直前まで絞っていた選手達が一斉に広がる。

まるで開花を早送りで見るときのような美しく、統一された動き。

選手で作る三角形の花びらがいくつも作られてゆく。    

 こ、これは・・・・クライフ率いるアヤックス、そして当時のオランダ代表が 編み出したとされる

”トータル・フットボール”、”プレッシング・フ ットボール” ではないか!!!

 以前から、このような戦術

〜局所の人数を増やし、相手ゴールに近い位置でボールを奪い、一瞬にして攻撃の陣形を整え、相手ゴールに迫る〜は、

個人技が高いレベルにある選手が多くないとできないとされてきたが、それをまさかブラジル代表がやるとは!!

(加茂言うところのゾーン・プレスは トータル・フットボールの猿真似、

といった意味が 少しはお解りいただけましたでしょうか)

 驚嘆のあまり鳥肌が立つ。何度もしぼんでは開き、シュートという種を蒔くカナリ ア色の花。

詩人じみた感想が頭をよぎる。    

 対してオランダは。こちらが本家といわんばかりに同様の動きを示す。

ブラジルの花びらが一点で彩りを見せて(ドリブルでキープして)から広がる のに対し、

こちらは線の彩り(ワンタッチまたはツータッチでのパス)を見せる。

ただ、アルゼンチン戦より動きが劣って見える。 やはりこの戦術で 長期戦を戦うことは、

コンディションの悪化を招くのか。    

 しかしオランダも優勝候補の一角。ブラジルの弱点は研究済みだ。

ブラジルはロング・パスへのセンターバック二人の対応が悪い。 そこをいたぶるよ うに攻め続ける。

 この日ゼ・カルロスの攻撃参加が比較的少なかったのは攻撃能力の欠如だけではなく、

このせいでもあるだろう。    

 縦へのロング・パス、センタリングをゴール前に集めるオランダ。

惜しむらくはクライファートが決められない。 クライファートはこの日何本のヘデ ィングを放ったことか。

後半終了間際の一本を除き、全て空砲だった。    

 しかしこれが決勝戦の不吉な予言にも思えた。 何本ものヘディングシュートを許すブラジルのディフェンス。

決勝での3失点の内、2点がヘディング シュートによるもの。

これを見たフランスがブラジル攻略の傾向と対策その一に掲げたとしても不思議ではない。

(もっともブラジルのこの弱点は開 催以前より指摘されてきたが)    

 そして後半。開始早々、ロナウドの得点。リバウドからロナウドが かろうじてタッチできる一点へのパス。

ロナウドはワンタッチでコントロール。 こ の辺は技術はさすが、といわざるをえない。

シュート。オランダのGK、 ファンデルサールをあざ笑うかのようにゴールに吸い込まれるボール。

 歓喜の 瞬間。    

 ブラジルはこの得点により戦術を変更。先ほどまでの果敢なプレッシングが消える。

 ボールを持ったオランダの選手に走り寄ることをやめ、パスコースだけを切って自陣にボールを運ばせる。

奪った瞬間に花びらを広げるがその花びらは八重桜ではなく、 ソメイヨシノ。ひどい時には朝顔。  

 後半20分まではオランダの攻撃も空回り。しかしそれもパスをテンポよくまわす内に リズミカルな、

躍動感のある攻撃へと変わってゆく。  

 何度もチャンスを作り出すオランダ。が、入らない。

ブラジルは居合い抜きの如く 隙を見つけては斬りかかる。が、これも、入らない。    

 41分。オランダのロングボール。アウダイールがヘディングミス。 サンパイオがクリア。

リバウド。リバウドの蹴ったボールはオランダの闘犬、ダビ ッ ツの胸に当たり、 前方へ転がる。

そこをヨンク(?)が身体を投げ出してフリーで待つR・デブールへ。

このクラスの選手ならば、誰のマークもな い状態ならピンポイントでパスを出せる。

そして、クライファートが空中で踊った。基本通りGKの足下に叩きつけられたボールは、

ネットに向かっ て跳ね上がる。クライファートがコーナーフラッグに手をかけ、胸を 張る。

 延長に入って、両国ともやや攻撃に対して消極的になる。

あくまで比較的、ではあるが。

ゴールデンゴール(Vゴール)方式の欠点。失点を恐れるあ まり消極的にならざるをえない。

それでもこの二国は攻めた方だろう。縦の間から密かに銃をのぞかせるように、

散発的ではあるがゴールに向かう。

 しかしそれではゴールは割れない。両国とも、優勝候補といわれる国だ。 守備の組織は十分に整備されている。

 タイムアップまで、前半とは違う意味での、消極的な鍔迫り合いが続いたように感じた。

 PK戦。

以前エッセイでも触れたことがあったが、こればかりは戦術も個人の能力もない。

運と精神力のあるものが勝つ。

この点で勝っていたのは、 冷静さを失うことなく、自信をその 全身にみなぎらせていたタファレルと、

気迫という点ならばこの人にかなうものはないであろう、

ドゥンガがいる、ブラジルだった。

 これに対し。オランダ4人目、R・デブール。珠玉のアシストをした筈の彼の顔には、 緊張が見て取れた。

もちろん、悪い意味での。ナーバス。 

 はずす。

 わしは予感していた。自信なさげなものは、必ずと言っていいほど、はずす。

そして予想通り、ボールの軌道はタファレルに向かってゆく。

 ひざまづき、両手を挙げるタファレル。感動。

 ぎりぎりの戦いを勝ち抜いた者のみが見せうる表情。    

 

 時間的な問題もあり、まとまったものではなくなってしまいました。

書きたいことがありすぎて、無理矢理端折ってこうなりました。 非常に読みにくいものと思います。    

ただ、ワールドカップ開催中にこれを元々掲載していてくれたCRYに

”サッカーの見方が変わった” といわれたことが嬉しくもあり、ショックでもありました。

もっとも っとフットボールの楽しさを知って欲しい。

フットボールはアートであり、ファンタジィであることを知って欲しい。

その足がかりになれば、そう思って書かせてくれ、とCRYに依頼した次第です。

その目的のため、抽象的すぎる表現を使い、細かいプレーについては あまり言及 しない形にしました。    

このようなものが足がかりになるかどうか不安です(笑)。    

 

 一度、サッカー観戦オフしましょう(爆)。そうすればもっと楽しめるはず、です。

 

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