ユーロ2012 Final スペイン-イタリア
優勝候補筆頭だったスペインと下馬評を覆してここまで勝ち上がったイタリアである。
この試合の興味はイタリアがポゼッション勝負を仕掛けるかどうか。元々パスワークの巧い国だったが、ここ数年立ち後れていた感がある。しかしプランデッリは専守防衛を好まず、攻撃的な意識を強く持ったチームに変えて来た。積極的、攻撃的な現代の潮流に乗って来た訳である。ここまでの勢いを維持すれば五分の勝負ができるだろう。スペインがイタリアのポゼッションを許すようだと勝機はイタリアに傾くはずだ。さて、どうなるか。
Kick off。
イタリアのラインは高い。前からのプレスもかける。
オープニングシュートはピルロ。前に出るイタリア。
少しの時間でゾーンを作り上げるイタリア。
これをスペインが崩せるか。
5分、シャビにデロッシのファウル。セルヒオラモスのFK。浮く。
イタリアはロングパスも正確。長いパスが有効なだけにスペインを間延びさせれば面白くなる。
7分、スペインがペナ前でキープ。イタリアはラインを下げてもゾーンはしっかり作る。ラインの上げ下げはやはり巧い。美しい。これは準決勝も同様であった。横からの崩しはそう簡単にはできないだろう。スルーが抜けるかどうか、そして切り込めるかどうか。
10分、スペインのキープ。DF-MFの間に入り込んではイタリアを揺さぶる。シャビのシュートは浮く。
12分、スペインのキープ。スルーパスにセスク。切り込む。急角度でクロス。シルバ。決める。この場面でこの形で得点できるとは。ドイツには許さなかった形。疲れか。
イタリアのセットプレイが続く。カシージャス、セルヒオラモスは際どいボールをはじき出す。カシージャスのこの場面での安定感は素晴らしい。チャンスの芽を悉く摘む。
20分、キエッリーニ負傷。バルザレッティIn。
イタリアの勢いが緩む。攻撃を緩め守備に傾くと終わる。しかし疲れもあるだろう。踏ん張れるか。
26分、バルザレッティのクロスにバロテッリ。先に触るカシージャス。この辺の芽の摘み方はさすが。
28分、中盤の攻防から左サイドにスプレッド。カッサーノ粘ってシュート。イタリアは前に向かう。
30分を過ぎてイタリアのロングボールが繋がらなくなる。
32分、ミドル。カシージャス余裕。
34分にはスペインらしいパスワーク。短いパスで出し入れする。これでイタリアがラインを崩すかどうか。層構造を保つ。しかし逆にイタリアは攻撃に人数をかけられなくなって来た。少人数のカウンターで崩れるスペインではない。
41分、シャビが完璧なスルーパスをジョルディ・アルバに。後ろから上がって来た余分な一枚にあれを通されてはたまらない。ゴール。
43分、バロテッリが下がって受ける。スペインの中盤の守備が粗い。シュートにはカシージャス。
45分、バルザッリがイニエスタに遅れてファウル。イエロー。
スペイン強し。
趨勢はほぼ決まってしまった。
中盤の攻防をもっと続けられれば良かったのだが、そこを許したくないスペインが早々に得点してしまった事、更にはキエッリーニの負傷でイタリアは前に出れなくなった。こうなるとイタリアに勝ち目はない。バロテッリやカッサーノがいかに優れていようと3点は考えられない。中盤での優位を奪い返す以外にイタリアは勝ち目がないだろう。不可能に近い話だが。
後半を前にカッサーノをディナターレに。これが一つの対策だろう。答えは出るか。
後半。
イタリアは人をかける。これしかないのだ。しかし楔が入らない。外回りの攻撃ではそう簡単に得点には至らないだろう。ディナターレのヘッドは越える。
右サイドを抉るセスク。アバーテ必死のクリア。
直後には明らかなハンドもあったが、まあこれは流しても良かろう。
4分、シルバが右サイドへ。シャビへ繋ぐ。簡単なプレイは拒絶するかのようなパスとドリブル。これが効くのだ。
5分、イタリアが繋ぐ。これをやり続ける以外にイタリアには勝ち目がないのだ。ディナターレのシュートはカシージャス。
8分、キープからイニエスタのスルーにセスク。トラップミスがなければ得点だった。
10分、ピルロからディナターレへ裏。こういうのは効かないだろう。
11分、モントリーヴォをモッタ。
12分、右サイドでイタリアFK。ファーサイド。カシージャス。少しでも緩いボールにはカシージャスは完璧に対応する。これは前回大会も同様だった。ニアに速い球でないと無効だろう。
13分、シルバをペドロへ。
15分、替わって入ったモッタが肉離れか。
これでもイタリアは前に出続ける事ができるのか。できなければ終わりだ。あまりにも痛い。
20分、スペインが押し込む。前でのキープ。
独りの差が絶望的な差を生み出した。
イタリアはもう守るしかないのか。静かに時が過ぎて行く。
じわじわといたぶるようなスペインのポゼッションが続く。
26分、セスクをFトーレスへ。とどめを刺しに来たか。これだけキープできればFトーレスは活きる。
それでもイタリアは層構造を崩さない。この辺りは徹底されている。勝ち目は無いにしても、踏ん張れるかどうか。プライドだけで守る以外にはない。
36分、ピルロへのパスをカットしてそのままスルーパス。Fトーレス。狙い通り。ワンタッチで簡単に流し込む。終わった。いや、既に終わっていた。ピルロへのパスをインターセプトしてからの得点である。完全に攻撃の芽を摘んでしまった。
41分、イニエスタをマタへ。いくらでも裏が狙える、そういう事だろう。
その通りにスルーパス。Fトーレスがノールックで右に流す。マタ。
終了。
イタリアはスペインに粉砕された。
日程的な事情もあるが、これほど完膚なきまでに叩きのめされるイタリアは見た事が無い。キエッリーニが怪我で中盤に人を避けなくなった処にモッタまで負傷で一人少ない状況では如何ともならない。とどめを刺すデルボスケも酷いと言えば酷いが。イタリアはドイツ戦とは逆に失点した事でゲームプランが狂った。スーパーゴールの類いなので開き直ってプレスを続けていればまた違ったのだろうが、ドイツの鋭いクロスを封じ込めてきただけに自信が揺らいだのかもしれない。結果的には前に出れなくなってしまった。せめて前半を1失点だけで凌ぎ、ポゼッションで渡り合えていればまた違う結末になっただろう。2失点に怪我人続出ではどうしようもない事だろうが、残念な内容、結果となってしまった。モッタが退いてからはもう瀕死の状況だった。そこにFトーレスにマタでは死者に鞭打ちである。イタリアのポゼッションは詰まる処ピルロに依存する部分も大きく、ここで勝負できなければ話にならなかったのだ。
対してスペインは決勝にピークを持ってきた。ベストゲームだったと選手の何人かは口にしていたが、その通りである。イニエスタもシャビもジョルディアルバもブスケツもシルバも、皆がベストのパフォーマンスを見せた。カシージャスの安定感は神の領域である。そんな、ベストのスペインに挑むにはイタリアは手負い過ぎた。苛烈な準決勝を守り抜いた代償はあまりにも大きすぎた。しかしあれでなければ間違いなくドイツに敗れている事だろう。ドイツ戦で封じ込めたクロスで失点した事はその象徴と言える。ドイツ戦ではあれ以上に厳しいクロスを抑え込んできたのだ。それができなくなった時点で、敗戦は決まってしまったのかもしれない。
好ゲームとは言えない内容ではあった。しかし、イタリアは積極的に前に出ようとしていた事は否定できない。2006年の呪いは解けたと考えて良いだろう。ここで更にポゼッション能力を上げる事ができれば、チャンスメイクをチームでできるようになれば、スペインを打ち破る事もあるかも知れない。ドイツとともに息を吹き返してもらいたいチームである。
それにしてもスペインのポゼッション能力はまだまだずば抜けている。ピークを決勝に持って来れる体力、精神力も凄まじい。次回のワールドカップでも優勝候補の筆頭であろう。今のスペインならブラジル開催というハンディすら無きものにできそうだ。これに勝つために腐心してきたドイツはイタリアに足を掬われてしまい、足を掬ったイタリアに残る力はわずかだった。6戦、7戦でスペインに勝つためには更なる戦術、戦略が必要なのだ。どこの国がスペインに土をつけるか。それも含めて興味深い。