ユーロ2012 SemiFinal ドイツ-イタリア
強豪同士であるが、流行の先端を行くドイツと一歩遅れた感のあるイタリアの対戦である。それでも守備の堅さはやはり伝統であるイタリアをドイツがいかに崩す事ができるか。ゾーンディフェンスの本家本元だけにこれを譲る訳にも行くまい。ドイツがいつも通り後半終盤に勝負をかけるかどうか、この点も含めて興味深い。
前半。
ドイツはプレスをかけない。やはりいつも通り前半は流すつもりのようだ。
開始してすぐ、左サイドからの攻撃の応酬。どちらもシュートまでは至らず。
対してイタリアは攻撃への圧力が高い。人をかけている。
3分、バロテッリが裏を狙うがノイアー速い。
4分、ドイツCK。ケディラに抜ける。ケディラも驚いたか、ピルロの前。
イタリアも鋭く裏を狙う。縦へのダイレクトパスはイングランド戦では多用されていない。逆にドイツは目立たない。まだ抑えているのだろう。
11分、ケディラがドリブル、ボアテングにスプレッド。ダイレクトのクロス。ブフォン弾く。CK。ドイツは簡単にサイドを使う。イタリアの中が堅い事もあるが、中央を狙う雰囲気は薄い。
15分、ゆったりと回すドイツ。やや際どいパスを続ける。疲れさせての後半勝負が見て取れる。イタリアはこれにつき合うか。つき合えばドイツ優位は揺るがないのだが。
16分、右から持ち込むイタリア。こちらは難しいプレイはない。簡単に繋いでモントリーヴォがシュート。ノイアー余裕。
17分には左からカッサーノ。これも余裕。
19分、ピルロから左にスプレッド。ボアテング遅れる。カッサーノがクロス。バロテッリ。ノイアーはどうしようもない。ドイツのゲームプランはこれで変更を余儀なくされる。前に出るだろう。
23分、簡単にクロスを上げるボアテング。マリオ・ゴメスは当てるだけ。
26分、マリオ・ゴメスのポストからエジルシュート。ブフォン余裕。
ドイツは圧力をかけるがシンプルに狙うプレイが続く。縦への抉りは弱い。MF裏のスペースが使えないと苦しい。
33分、エジルとボアテングのパス交換から右サイド深いところに持ち込むボアテング。クロス。ポルディ直前でクリア。
35分、左サイドでキープして中央ケディラ。嫌なシュートだがブフォン弾く。
直後、左サイドから簡単にバロテッリの裏へ。ラームはポジションミス。あれだけ遅れてはいかなノイアーでも止めようはない。
ドイツは歯車が狂ったか。ラーム-ポルディの動きが連動しない。
前半流し目に入ったドイツをイタリアが上手く突いた。これは完全に狙い通りだろう。ファウルを避けたのもあるだろうが、一点目、カッサーノはさほどのプレッシャーを受けず簡単に上げている。ドイツにしてはルーズな守備だった。確かにイタリアは厄介な相手だが、最初から圧力をかけ押しつぶすべきだったか。ここまで試合を支配し続けて来たドイツだが、ここでイタリアにペースを譲ってしまったのは失敗だった。ポゼッションを譲る事でゲームも支配されてしまった。後半支配を取り戻せるかどうか。
後半。
ドイツはマリオ・ゴメスをクローゼ、ポルディをロイスへ。
勝負に出るしかない。
1分、右サイドに流しロイスシュート。緩い。
ドイツは楔を使い始めた。4分、右サイドから左に。流れてラーム。楔を当てて走り込むラーム。フリー。外す。これは決めたかった。
ドイツの攻めにイタリアが対応しきれていない。一つ一つに遅れが見える。大逆転もあり得る。狂った歯車を戻せるか。
9分、右サイドエジルが際どいクロス。躰を張るイタリア。
10分、ワンツーからクローゼ。ボヌッチスライディング。
12分、カッサーノをディアマンティへ。
13分、右サイドバロテッリへスプレッド。持ち込んでシュート。逸れる。
14分、エジルから楔でクロース。ボヌッチファウル。FK。ロイス。やや近いか。ブフォン。
18分、モントリーヴォ→モッタ。
22分、簡単に回して中央のスペースへ。右のマルキージオ。外す。
24分、バロテッリ→ディナターレ。
26分、ボアテング→ミュラー。大博打に出た。
30分、イタリア右に出る。マルキージオ外す。
ドイツは持ち込むもイタリアの壁は堅い。チャンスにならない。
フンメルスも上がる。カウンター。外す。
38分、やはり外から入れるしかない。CKが続く。
39分、右サイドから狭い所でパス交換。抜け出す瞬間にバルザレッティ。
44分、クリアを折り返して裏。フンメルス。ブフォン正面。
45分、右サイドからのクロスにバルザレッティハンド。PK。エジル。
ロスタイムに必死の攻めのドイツ。ノイアーはハーフウェイを越える。
笛。
終わってみればイタリアの支配で終わったゲームだった。ケディラやラームが決めていれば全然違う展開になったのだろうが、ドイツが得点できない事で完全にイタリアの支配でゲームが進行してしまった。ゲームを緩めるのは良いが、ルーズになってしまった事がドイツの敗因だろう。せめて二点目だけでも防ぐ事ができていれば、ドイツが支配を奪い返し、勝利する事も難しくなかっただろう。ラームはミスと悔やんでいるが、あの局面であのミスを見逃してくれるイタリアではない。まさに勝負を決めたのはあのミスだった。
と書いてしまっては身も蓋もないのでいくつか拾い上げてみる。
前回大会の決勝ではラーム-ポルディのラインが寸断されたことがドイツの敗因だった。この試合でもここを狙われてしまった。ミュラーでなく、クロースを使ったのがイタリアの狙い通りになってしまった。クロースはイタリア中央の動きを抑制するため、とのコメントがあったが、これでドイツは右サイドから有効な攻撃を見せる事が難しくなった。中央に入るクロースではボアテングも縦に抜けるしかない。縦に抜けるだけのウイングでは怖くないのだ。それでもチャンスメイクは果たした点は賞賛されるべきだろうが、脅威とはなり得なかった。イタリアはラーム-ポルディのラインを消し、ボアテングの出たスペースを突く、ドイツは中央でのプレイを仕掛けピルロを抑える、お互いに相手に合わせた戦術を採用してはいるのだが、その結果がより有効だったのはイタリアだとしか言いようが無い。むしろ相手に合わせず、ガチンコで仕掛けた方が簡単に勝てたようにすら思える。相手に合わせて対応する事こそがイタリアの真骨頂だ。ここでの勝負を選んだ時点でドイツのアドバンテージは霧散、言い過ぎであれば半減してしまった。今のドイツであればポゼッションを譲らず攻め続け、イタリアの強固な守備を打ち崩す事もできただろう。あの状況であってさえ、ラームのシュートの場面など、イタリアの守備を完全に崩しているのだ。入らなかったのが不思議な程のチャンスメイクができているのだ。
ここで気がついたが、ドイツのクロスに対応するイタリアのDFラインは素晴らしかった。ドイツのクロスで最も厄介なのはDFとGKの間を通る鋭い低いクロスである。これが来ると如何に長身でフィジカルの強いセンターバックがいても関係ない。触られればゴールなのだ。前半33分のボアテング、そして後半9分のエジルのクロスはいずれも低く速いクロスだったが、どちらも躰を投げ出すようにカットに動いている。いずれも読んでいなければ絶対に対応できないクロスだ。先に触られたらゴールとなるクロスなのだ。ここだけは許してはならない、そんな気合いすら感じるDFだった。DFラインのコントロールだけではない。バックパス気味に下げられても良いようなポジションにMFが陣取り、非常にバランスよく配置されていた。ゾーンの本家本元はイタリアだ、そう言わんばかりの守備だった。
そしてもう一つ、この試合を通じて、少なくとも前半はイタリアの方が積極的に走っていた。日程の都合上インターバルの短いイタリアが、である。繰り返すが、積極的に走ったチームが勝つ、それがここ数年の傾向である。そしてドイツこそがそれを体現してきたチームだった筈である。それを少し譲ってしまったが故の敗戦、わしにはそう思える。必然的な皮肉、である。