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 ユーロ2008 決勝  ドイツースペイン


いよいよ決勝である。

ここまで無敗で勝ち上がってきたスペインと、

一次リーグでクロアチアに敗れたものの危なげない戦いを続けてきたドイツ。

面白い戦いになるであろうことは必至である。

スペインはビジャの負傷を受けセスクを先発に。

システムはアラゴネスが拘ってきた4-1-4-1。

ドイツはトーナメント以降のシステム、4-2-3-1。

どちらもワントップだが中盤の構成が違うと言えば違う。

いずれにしろ中盤に人を割いた形であるが、この攻防は一つのポイントである。

ただしシステムなどは基本の形であり、これをどう運用するか、これが問題になるのである。

そしてここまでのところ、双方ともハイレベルなシステムの活用である。

しかしドイツはクロアチア戦で手詰まりになった時の打開が今ひとつであり、

逆にスペインはここまで綻びを見せていない。

つまり綻びが生じたらどうなるかは不明である。

ここがもう一つのポイントになるだろう。

 

 

キックオフ。

スペインは激しくプレスをかける。

常時画面には7人程度が映る。

ここまで体力的にはきつい試合をこなし、且つ日程的にも一日少ないスペインだが、

そんなことでなりふり構ってはいられないのだろう。全力で走りきるつもりか。

対してドイツは激しさはあまりないものの、綺麗に整えられたフォアチェック。

予想通り中盤での攻防が始まったが、早々に危うく事故が起こるところだった。

セルヒオ・ラモスの横パスを飛び出したクローゼがカット。

あわや、というシーンであったがクローゼはコントロールしきれない。

これでスペインのパス回しが更に慎重になった。堅い。

ドイツは中盤で繋ぎながらサイドへの展開。

4分にはラームが攻撃を仕掛ける。決定機には至らず。

スペインは裏を狙う。まだ精度は低い。慎重になり過ぎか。

フェルナンド・トーレスだけでなく中盤からも人が飛び出していく。

この点、イニエスタとシャビの存在は大きい。

二人とも攻守に優れた選手であり、出し手にも受け手にもなれる。

そしてひたすら狙いは裏。

13分にはイニエスタが左サイドを抉り、危うくオウンゴールのシーン。

19分にはフェルナンド・トーレスが裏に抜ける。

浅いラインを引くドイツの裏を徹底的に狙う。

これが功を奏すかどうかがまた一つのポイントになる。

22分、右サイドで裏に通る。クロス。

フェルナンド・トーレスのヘディング。ポスト。クリア。

25分、ドイツ左からのCKを折り返したところにバラック。

枠に向かうもセルヒオ・ラモスが躰全体でブロック。

そしてここからカウンターでまたもフェルナンド・トーレスへ。

一途に裏を狙う形である。

ここは凌がれたが、狙い続けることで針の穴が開いた。

33分、右サイドでまたもフェルナンド・トーレスが裏に抜ける。

予測されていたプレイにレーマンが飛び出す。

フェルナンド・トーレスはラームと競り合いながら、

飛び込んでくるレーマンがコースを塞ぐよりも一瞬早くタッチ。

ボールはレーマンの足を越えゴールに。

やっていることは単純なスルーパスからのシュートなのだが、

あのタイミングであの状況でよくもゴールできたものだ。

神の子と称されるのも不思議はない。

素晴らしいゴールだった。

これでドイツは前に出る。

ボールを運んでセットプレイは得られるものの

ペナルティエリアにはほとんど入れない。

スペインは守備の時にも人数をかけている。

若い選手が多いとは言え、凄まじい体力である。

しかも奪ってからがまた速い。

44分にはドイツが左サイドから攻撃を仕掛けるもカウンターに遭う。

一瞬で前半が終わった。

 

スペインはここまでほぼ完璧。

ここまでドイツの得点に絡んできたポドルスキー、シュバインシュタイガーにほとんど仕事をさせていない。

ドイツはこの二人が攻撃にどう絡めるかがポイントになる。

逆にスペインがここを抑えきればドイツはパワープレイに頼るしかなくなるだろう。

ドイツの守備は裏を取られるのを覚悟でラインを上げている。

ここで迷いが出ると更なる失点に繋がるだろう。

 

後半に入る。

ドイツはラームをヤンゼンに交代。

負傷交代だそうだがこれは痛手である。

ラームが上がれなければポドルスキーが活きない。

ただでさえポルディへのパスは全然繋がっていない。

ドイツベンチ、ヤンゼンもそれは解っているだろうが、果たして。

スペインはじっくりとボールを回す。

ボールを前後させる動きにドイツのDFラインが乱される。

フォアチェックを緩め、中盤が下がって一旦DFラインに入ってから前に出る動きなのだが、

スペインの中盤が分厚いためにどうしても遅れ気味になる。

このスペースを与えるのは危ない。

10分、ヒッツルスベルガーをクーラニーに交代。

パワープレイを仕掛けるのかと思えばそうでもない。

一応放り込んではみるのだが、しつこさが足りない。

もちろんスペインがサイドでプレッシャーをかけて

アーリークロスが簡単には上げられないのもあるし、

プジョル、マルチェナが安定しているので

如何にクローゼ、クーラニーといえどキープは元よりパスを落とすのも難しいのはあるのだが。

ドイツの交代に意図と結果が見えてこない時は危ない。

クロアチア戦が良い例である。

ここを打開できればドイツにも芽はあるのだが。

それでも15分、なんとか左サイドに抜けたバラックがクロス。

クーラニーはフリーで逆サイド。

カシージャスのファインセーブである。

全く以て交代が早いアラゴネス。

セスクをシャビ・アロンソに。

シルバをサンティ・カソルラに。

守備固めというより、中盤の動きが生命線と知っての交代だろう。

中盤が薄くなればドイツのサイドが生き返る。

わずかにでも動きが落ちれば簡単に攻守が入れ替わるだろう。

このペースを譲りたくないのだ。

そしてこれは大当たりであった。

リフレッシュした中盤が攻守を安定させた。

20分過ぎ、FKからセルヒオ・ラモスの頭、

直後のCKからイニエスタのシュート。

いずれもレーマンが凌いだが、ここで得点を重ねていても不思議はなかった。

30分、フェルナンド・トーレスをグイサに。

ドイツはクローゼをマリオ・ゴメスに。

「サイドアタッカー二枚ずつ」を採りたいドイツにサイドの交代が難しいのは判るが、

クローゼを落とすのはいくらなんでも痛い。

この辺りの意図が微妙である。

35分にはここまで中盤を底から支え続けたマルコス・セナが持ち込み右サイドに叩く。

サンティ・カソルラから逆サイドのグイサへ。

グイサが更に折り返したところにマルコス・セナ。

不憫にもタイミングが合わず。

わしはMVP級の働きだと思っている彼なのだが、

得てしてこういうものなのである。

40分にはスペインのFK。マルコス・セナに蹴らせてやれよ・・・・(^^;

この後にはメルテザッカーを前線に置きパワープレイを仕掛けようとするが時既に遅し。

チャンスらしいチャンスを作れないまま、タイムアップ。

 

残念ながらわしの期待する打ち合いにはならなかったが、

これはもうスペインが守備を固めつつ中盤の支配に主眼を置いた以上仕方あるまい。

仕方ないという言い方もアレだが(笑)

ここまで勝ち抜くために徹底してきた形である。

それを決勝になってかなぐり捨てる筈もなく、

当然の如く自分達の創りあげたスタイルを徹底したのである。

これが最大のポイントであったように思う。

ゲームを支配する事は単純にボールを支配することではない。

実際のボール支配率はドイツの方が上である。

むしろ「持たされていた時間」が長かっただけなのだが。

スペインはここまで、イタリア戦を除きゲームを支配してきた。

ドイツもクロアチア戦を除き、そうである。

そしてゲームを支配することに、少なくとも経験上、長けているのはドイツである。

ゲームの支配を譲らないためにはあのような形しかないだろう。

 

ただし、前半硬かったという向きもあるらしいが、

「硬い」と「堅い」は区別して欲しいものである。

おバカちゃんたちにも解るように簡単な区別を教えてあげよう。

「硬い」は前に出れないが「堅い」は出れる。

前半早々からひたすら裏を狙い続けたのがその答えとして必要十分である。

リスクを避けて尚且つ攻撃するのが「硬い」なのだろうか。

しかもドイツのフォアチェック/ワンサイドカットをかいくぐってスルーパスを狙い、

それを幾度となく通しているのである。

慎重に「通す」事が第一になり、その結果「ギリギリのボールを通す」事に

ならなかった嫌いはあるにせよ「硬い」とまでは言えない。

ましてDFラインでインターセプトされているのである。

慎重にならない方がおかしい。

「硬い」状態ではパスすら出せまい。出しても精度は上がるまい。

果たしてスペインはスルーパスを狙い続け、精度を上げていった。

そしてその結果が得点である。

「虎視眈々」という四文字熟語までは理解できないだろうが、

せめて「硬い」と「堅い」の意味ぐらいは理解して欲しいものである。

慎重になり過ぎたのを「硬い」というのであれば、3分から13分の10分間、だけだろう。

後は堅く、である。

 

さて冒頭に述べた、中盤の支配がポイントになる、それはもちろんセオリーであるが、

それだけでドイツを御することは不可能である。

中盤を無視してでも点を取れる戦術があり、選手がある。

それをもさせないためには最前線から出所を押さえる必要がある。

この点でスペインの守備は素晴らしかった。

前から誰かがチェックし、後ろは後ろでマークきっちり。

結果ドイツの中盤はほとんどチャンスに絡めていない。

それでもクロスを上げ、シュートを放ったバラックをむしろ褒めるべきだろう。

特にポドルスキーの抑えは完璧である。

ビジャとの得点王争いのせいでもあるまいが、

この試合ポドルスキーの姿をほとんど観なかった。

ポルトガル戦でクリスチアーノ・ロナウドを半分は消したドイツだったが、

この試合では逆にポドルスキーが消されてしまった。

これでラームがいなくなってしまっては片羽もがれたようなものである。

事実として前に向かえなくなってしまった。

いくらシュバが頑張ろうとしてもこれではどうしようもない。

一応データとしてはこうである。

左サイドのラームが出したパスが前半だけで46本。

ポルディが一試合を通じて出したパスが31本。

このデータだけでポルディが如何に消されていたかが見える。

ラームがキープしても、その先がない、そんなデータだ。

 

話は横に逸れるが、昨期、今期とバルセロナが無冠に終わったのも

ロナウジーニョを消すことに相手チームが心血を注いだ事に端を発する。

リーガに属する選手はその技の効果を誰よりも知っているだろうし、

そのノウハウもまたよく知っていることだろう。

逆にその痛みもよく知っているだろう。

イニエスタなどはその最たるものだ。

その技をドイツにぶつけたのだ。

八つ当たりと言え無くはないかもしれないが(笑)。

 

更に消す選択肢としてもポルディは当たりだった。

シュバでも良かったが、ラーム×ポルディとシュバ×フリードリヒでは前者の方が脅威だろう。

しかもラームがいなくなってしまった。

この時点でスペインの戦術は大当たりになってしまった。

 

こうしてみるとわしが挙げた試合のポイントは全てスペインが奪っている。

中盤でのボール支配はスペインが全員一丸となって圧倒しているのに対し、

ポルディはゲームに参加できなくなってしまった。

スペインは徹頭徹尾ゲームを支配し得た。

裏を狙い続けたことでも得点という結果を出した。

全てのポイントでスペインが勝っていた。

そのためにスペイン/アラゴネスは先手先手を打った。

守備においては前線からプレスをかけて中盤以降の守備を固め、

攻撃はひたすらスルーパスを狙い、得点してからは前後左右へのパスを増やし、

中盤の動きが僅かにでも落ちたらリフレッシュ・・・・と。

とにかくゲームを完全に掌握しようという動きであった。

頑なに握ったものは離さない、それを徹底していたのだ。

スペインがゲームを支配し続け、このゲームはスペインのものであった。

ドイツにはゲームを奪い返す手段がなかった。

少なくとも、形として見えなかった。

この辺りは今後への課題だろう。

 

しかし是非この攻撃的な形は続けてもらいたい。

今回のメンバーでは右サイドからの攻撃が物足りなかった感は強い。

だから当初ラームを右サイドに置いており、2トップでの攻撃を目指したのだろうが、

マリオ・ゴメスの不調もあり機能せず1トップに修正せざるを得なかった。

まだまだ未完成、未熟であったのだ。

是非とも完成型を見せて貰いたいものだ。

 

スペインはこの大会で優勝すべきチームであった事は間違いない。

完成度も高ければ、メンバー一丸となって走り続けた体力も素晴らしい。

個人個人の能力は言わずもがなである。

正直に言って前回のWCとは全然違うチームである。

攻守ともに成長著しい。

以前は攻撃は攻撃守備は守備的な分裂があったのだが、

今回に関しては全くない。

明確に「攻撃のための守備」ができていた。

一つの理想形を提示し得たのではないか。

ここは特筆しておきたい。

 

また総論として述べることにするが、この大会でスペインが優勝し、

ドイツが準優勝したことも特筆すべきである。

攻撃的な2チームが決勝を争ったのである。

そうでないチームは敗退していったのである。

これが世界の潮流になればわしは楽しい(笑)