フリーキックを楽しむ
先日といってもかなり前になってしまいましたが(書き始めてからギックリになったもんで(^^;)
ロベルト・カルロスのえげつないFKを観て、
勝手に触発されてこんなモノを書いてみたくなりました。
フットボールの楽しみ方など、千差万別であるのは言うまでもなく、
個別に書き出せばそれだけでこのHPは成り立ってしまうのですが(笑)、
そこまでやる気力も時間もありませんのでまずは解りやすく尚且つ話がしやすい
フリーキックの場面の楽しみ方など一席打ってみようかと。
まずフリーキック(FK)とは何か、を。
多くのスポーツでは、反則を犯したチームに対する罰則として、
反則を受けたチームに有利な状況を与えるという方法が採られています。
バスケットのフリースロー、野球のボークに対する進塁などを
思い起こしてもらえれば良いでしょう。
そしてフットボールにおいては反則を受けたチームの「フリーキック」で
反則により中断されたゲームを再開する、という方法が採用されているのです。
FKはボールが置かれた場所から半径9.15mの円内には相手チームは入れません。
「フリーな状態でキック」するからフリーキックなのです。
ちなみにペナルティエリアに付属する半円(下図赤塗)は
ペナルティスポットから9.15mを示しており、
PKの際にはペナルティエリアだけでなくこの半円の中にも反則を犯した側の
選手は入れません。
FKには二種類あり、比較的悪質な反則に対する直接FKと、
比較的穏やかな反則に対する間接FKに分けられます。
この違いは、「直接ゴールに入っても得点が認められるFK」が前者であり、
「間接的にゴールに入らなければ得点が認められないFK」が後者であると
理解してもらえれば良いでしょう。
要するにキッカーが蹴ったボールがそのままゴールに入ってもよいのが「直接」、
キッカー以外の誰かがボールに触れなければ得点とはならないのが「間接」、なのです。
ただし観客席にしろTVにしろ、観ている側からすれば、
どのような反則であるか判別しにくく、その後行われるFKが
いずれのFKであるかも判らないことなど多々あるでしょう。
その場合、まずは主審を見れば判ります。
主審はいずれのFKを与えうる反則であるかをジェスチャーにより示すことが義務づけられており、
直接FKの場合であれば反則を犯した側のゴール方向に腕を斜めに上げるというジェスチャーですが、
間接FKの場合これに加え、キッカーがボールを蹴ってゲームが再開する前から
キッカー以外の誰かにボールが触れるまで腕を垂直に挙げたままにするというジェスチャーを行います。
要するにFKが行われる前に審判が腕を降ろしていれば直接、垂直に挙げていれば間接、というわけです。
下のアニメのような動きを見つけてもらえれば、どちらの反則/FKであったかは瞬時に判ることでしょう。
さて前置きも長くなりましたのでここらで実践編と参りましょう。
ただし、よりスペクタクルなゴール前でのFKに限定し、
且つ間接に関しては攻撃側も守備側も特殊な対応を強いられ、
また目にすることもほとんどないので割愛し直接のみに絞って話を進めることにします。
と、いうことで、まずはFKへの守備側の対応からアニメーションで示しましょう。
図の白い円の場所でFKを得たとして、その場所からゴールへの直線コースは
図ピンク色のエリアとなります。
守備側/GKからするとゴールへの距離が近い(=ボールがゴールに届く時間が短い)ニアサイドへの
対応は難しい(=失点し易い)のでニアサイドへのシュートコースを消す事が第一義となります。
従って所謂「壁」はボールとニアサイドのゴールポストを結ぶ直線上が基準となるのですが、
「ボールを曲げる技術」それ自体はアマチュアレベルでさえ難しい事ではないので
図の水色の円の如くゴール→ニアポスト間より更に一歩踏み出した位置が実際の基準位置となります。
それに加え必要な枚数(GKが指示する人数)を壁とすれば、残るシュートコースは
図黄色で示すエリアだけとなるので、理論的には
図赤い円のような位置にGKはポジションを取ればよい、ということになります。
ただ図のようなポジション取りを実際行うには「壁への絶対的な信頼」が必要になるだけではなく、
壁をニアサイドから避けて曲がるボールを蹴られれば多少スピードが緩くても
失点に繋がってしまう危険性が高くなってしまうため、不可能と言っていいでしょう。
敢えて図のようなポジション取りで攻撃側の迷いを誘ったり、
動きと反応に相当な自信のあるGKであればわざとニアサイドを空けてそこに蹴らせたり、
等という駆け引きも僅かながらありますが、
実際にはファーサイドであれば手が届く範囲とし、ニアサイドに来てもそれなりに対応できる位置、
つまり図黄色のエリアのぎりぎり中央寄りのポジションをほとんどのGKが取るでしょう。
以上のように「壁」とGKのポジショニングで守備側はFKのピンチに対応しようとしているのです。
もちろんこのような守備体系が一義的である筈もなく、どのようなGKが守っているか、
どのようなキッカーが攻撃側にいるか、など様々な条件で壁の作り方、GKのポジショニングは
臨機応変に変わってきますが、ここに於いてGKの責任が極大化すると言っても過言ではないでしょう。
というのも、多くの場合壁の枚数と位置決めはGKに委ねられているからです。
もちろんポジショニングもGKが自分で決めるのです。
試合の流れの中での指示、守備体系ももちろんGKの指示に依る処は大きいのですが、
如何せん流れの中でボールと攻撃してくる敵を見ながら指示通りに動くのは
敢えて言えば不可能以外の何ものでもありません。
対してFKの場合では止まったボール/FK開始位置への対応ですから、
守備側の選手にできる事といえば上のような壁を作り、
壁以外の守備陣はマンマークにより直接ゴールを狙ってこない場合に備えるという
決まりきった事をこなすのみ、なのです。
その決まり事を指示するのがGKなのですから、その責任を負うところが大きいのは当然と言えるでしょう。
それでも、そこまで守備側が守備体系を整えてもFKは得点の好機になり得るのです。
その理由を幾つか挙げていきましょう。
まず第一に、以前にもどこかで書きましたが、フットボールのゴールは17.86平方メートルという
広大とさえ言って良いほどの広さを持つことが挙げられます。
この広さを完全に塞ぐことなど不可能、なのです。
上のような守備体系を敷いたとしてもどこかに穴が存在するのは避けられないのです。
幾つか例を挙げてみましょう。
ニアサイドからゴール上隅を狙う最もオーソドックスなパターンです。
ただしこれにもいろいろ種類があり、ジーコやマラドーナのようにインサイドで狙う選手もいれば
フィゴやベッカム、日本にいたエドゥ等インフロントで狙う選手もいるし
リバウドや三浦淳宏のようにインステップで狙う選手もいます。
逆にファーサイドを狙うパターンです。
FKで直接狙う場合、上の二つが九割五分を占めると考えてもらっていいでしょう。
低い弾道で軌道をねじ曲げる事が出来る選手は少ないのですが、
オランダの名リベロ、牛殺しの異名を持つクーマンやロベルト・カルロス、
そして我らがホセ・ルイス・チラベルトらが得意とするパターンです。
各選手をご存じの方はお解りでしょうが、強烈なキック力がなければ
このパターンでゴールを挙げることは不可能と言ってもいいでしょう。
そしてこれが冒頭に述べたロベルト・カルロスのFKです。
爆発的なスピードでなければ絶対に入らないシュートです。
と言うより、これで狙おうと考えること自体が異常といえるでしょう(笑)
幾つか挙げてみましたが、もちろん他にも様々な狙い方があります。
(間接的に狙うのは省略しますが・・・・)
しかしながら上でも述べたように、FKのほとんどはゴール上隅を
曲がり落ちる弾道で狙うものがほとんどなのです。
何故かと訊かれれば答えは簡単です。
止め難いから、入り易いから、なのです。
20メートル以上の距離があっても、つまりボールが蹴られてからゴールに届くまでの時間が長くても、
FKが直接決まるシーンなどざらにあります。
何故ああも簡単に入るのか、質問を受けることも多いので最後にそれを解説して終わることにします。
まずは下にアニメを並べてみます。
向かって左が曲がり落ちてくるボール、右が直線的に向かってくるボールです。
GKの周りの赤い範囲が守備範囲を示すと思って下さい。
ボールがゴールに近づいてきた時、ボールの軌道とGKの守備範囲が一致する部分が
図のピンク色の部分です。
一目瞭然、広さが違うのがお解りいただけるかと思います。
正に線で捕らえるか、点で捕らえるかの違いと言っていいでしょう。
線で捕らえる場合、多少タイミングがズレてもボールに触る位置を修正することで対応できますが
点で捕らえる場合ではそのような対応は効きません。
つまりタイミングの僅かなズレも許されないのです。
更には左図を見ていただければ解り易いと思いますが、このようなボールを捕らえる時には
バックステップして後方に高く〜2.44mの高さまで〜ジャンプしなければならないのです。
図では簡略化のため半円状の守備範囲としていますが、
正確にはGKの後方は前方に比べ狭く低くなるのは言うまでもないでしょう。
摂理に逆らう動き、なのですから。
まして実際にはゴール上隅にボールが来るのですから、これに横への動きが加わることになります。
従って、ボールがゴールに届くまでの僅かな時間に、側後方に移動し、
「点」に対しタイミングを合わせ、ジャンプして手を懸命に伸ばすという動作を
GKは強いられるのです。
たったこれだけの文章の動作を完遂することがどれほど難しいことかお解りいただけるでしょうか。
ちなみに20mの距離から放たれたボールがゴールに届くまでの時間は0.5秒から1秒の間です。
この僅かな時間に完璧な動きをこなさなければFKを止めることは不可能なのです。
それが精度が高くスピードのあるボールであれば尚更止めることは困難となります。
だからこそ、FKがそのままゴールシーンとなることがざらにある、ということになるのです。
FKという時間にして僅かな、しかし凝縮されたスペクタクルを楽しむのに
この拙文が何かの足しになりましたでしょうか。
ご意見ご感想などいただけましたら幸いです。