第2回 クラブワールドカップ決勝
バルセロナ-インテルナシオナル
世間(というよりよりニポーン国内)の下馬評ではバルサ圧倒的有利と言われた決勝である。
なにをかいわんや、TOYOTA CUP時代においてもそんな下馬評は何度も覆されてきた。
バルサのライバルといえばレアル・マドリーであるが、
レアルも数年前にはボカ・ジュニオールズの前に数分間で撃沈されているし、
バルサ自身も十数年前のTOYOTA CUPではサンパウロに苦杯を喫している。
当時のバルサもやはり各国の代表選手ばかりで形成されたチームであった。
メンバー個々の力だけがフットボールの優位を決めるものではない。
どのような集団スポーツに於いても当然のことだろうが、 チームとしての力をどれだけ出せるか、
それが優位を決めるものである。
こうしてみるとインテルナシオナルが優勝したのも当然の帰結ですらある。
何故当然とまでわしが言い切るか、それを書いてみよう。
1.バルセロナのシステム上の特性
ワールドカップでロナウジーニョが無得点に終わった時、 バルサではFWとしての出場であり、
セレソンではMFだったことが一部で槍玉に上がった事はまだまだ記憶に新しい。
これを念頭に置きつつ考察してみる。
バルサのシステムは4-3-3である。
通常
グジョンセン
ロナウジーニョ ジュリ
イニエスタ デコ
モッタ
ファンブロンクホルスト プジョル マルケス ザンブロッタ
ビクトール・バルテズ
である。
メンバーの特性を知らなければだからどうしたなのだが、
中盤三人はいわゆるボランチタイプのMFである。
イニエスタとデコの二人はボールキープ力、シュート力など十分に備えており守備一辺倒ではないにしろ、
シュバインシュタイガーやフィゴのようなサイドアタッカーでもなければ
ジダンやトティのようないわゆるゲームメーカー(意地でも司令塔という言葉は使わない)でもない。
近い選手といえばバラックのような得点力「も」ありアシスト「も」できるボランチである。
こんな偏ったシステムでもなおバルサが圧倒的な強さを誇ってきたのは
ロナウジーニョを筆頭としたFWの破壊力によるものである。
中盤でパスを回してスペースを作る必要はない。
FWがキープしていれば自然とできるのだから。
つまりは、とにかく前線の選手に当ててしまえば得点に結びつく、
それほど圧倒的な攻撃力によるものなのである。
そしてもう一つにはイニエスタの存在が大きい。
前年度バルサが圧倒的な強さを発揮してきたのは彼が出場するようになってからだ。
とにかくドリブルでボールを奪われることをしない。
一人抜いてからパスを出すという理想的な形を彼が作ることによってバルサの攻撃力は倍増した。
元々デコもキープ力のある選手である。
パッサーとしてのセンスも超一流レベルではないにしろ十分一流レベルである。
いわばいわゆるゲームメイクを特定の選手がするのではなく、
デコとイニエスタの二枚でなんとかこなしていた、というのが本当の処だろう。
しかし一般的に見れば中盤の構成は歪んでいると言わざるを得ない。
ただ攻撃力を存分に発揮し、尚且つ守備も十分に行うというのであれば、
あくまでも現時点でのバルサのメンバーからすればだが、 このシステムしかないのかもしれない。
ある意味革新的ではある。
2.インテルナシオナルの作戦
インテルナシオナルが勝つためには先ず失点してはならない。
これは当然の考え方である。 バルサが圧倒的な攻撃力を持つ以上、
一点を取られてそれを追いかけようと 前のめりになったら更に失点の危険性が高まる。
FW三人だけでも十分に脅威なのだ。
そこで中盤にもスペースを与えてしまうことになれば≒追加失点である。
従って90分通して一点も与えないことが至上命題となる。
その命題を解くためにインテルナシオナルが採った作戦は、
まずバルサのMFとFWの分断である。
正確に言えば、イニエスタとロナウジーニョの分断である。
先ほどイニエスタの特性は明記した。
ドリブルで持ち込み、ロナウジーニョに預ける。
これが一番危険な形だ。
実際にリーガを観れば一目瞭然なのだが、 この形からのチャンスメイク、
ゴールが前年度、今年度と何度繰り返されたことか。
それを避けるために、インテルナシオナルのMFはイニエスタに最大限の注意を払い、
イニエスタがボールを受ければ必ずその前に立ちはだかった。
そしてセアラはロナウジーニョをぴったりマークしていた。
更にもう一つ、ロナウジーニョへのパスコースにはもう一人誰かが入り込むようにしていた。
要するにこういう事だ。
・ロナウジーニョが持てばチャンス=インテルナシオナルのピンチとなる、
→ロナウジーニョに持たせなければ良い
→ロナウジーニョへの供給元を断てば良い
→ならばイニエスタにドリブルさせず、直接のパスを出させ無ければ良い
→イニエスタの前には必ず一人が立ち、一人がパスコースを消し、更にもう一人がロナウジーニョをマークすれば良い
これがインテルの守備戦術だった。
3.バルサの不運
バルサにとって最大の不運はメッシを欠いたことだろう。
ジュリもスピードと縦への突破ではメッシに劣らないが、
右サイドからゴール方向への突破では比べものにならない。
だからインテルナシオナルの守備戦術として、ジュリへのマークは甘くても良かった。
裏さえ取らせないようにすれば良く、持たれても中央へのワンサイドを切れば、
ジュリは中央へは入り込んで来ない。
・・・ドイツのような守り方である。
ここにもしメッシがいれば、メッシへのパスコースも切る必要性が生じ、
2.のような作戦を取るには守備への偏重が大きくなり過ぎる事になる。
これではハーフウェイラインを超えることすら難しくなる。
パラグアイならいざ知らず、ブラジルのチームにこれが採用し得たか。
攻撃すらできない状況になっただろう。
また決勝そのままのメンバー構成でこれをやれば必ず隙が生じたであろう。
メッシがいないからこそ、インテルナシオナルは先述のような守備戦術を採用し得たのでもあるのだ。
更にもう一つ挙げればザンブロッタの負傷だろう。
ベレッチもザンブロッタにさほど劣るわけでもないし、
攻撃に於いてはザンブロッタより上かもしれない。
しかしあの時点で交代のカードを一枚切らざるを得なかったのは痛すぎる。
もう一枚あれば、失点後賭けに出ることができた筈だ。
それができなかったのは不運以外の何物でもなかろう。
4.ライカールトのミス
と言えば、三枚ボランチの底、モッタをシャビに代え、
シャビが前のめりに行ったそのスペースを突かれて失点した事と思うかもしれない。
が、これは全くの結果論である。
守備も考えながら攻撃的に行くためにはこれしかなかったようにも思う。
サビオラを入れるにしても、それではイニエスタとデコが守備一辺倒にならざるを得なくなるし、
イニエスタとデコのいずれかをサビオラに代えるのでは攻撃力が増えることにもならない。
バルサのアイデンティティは攻撃にある。
攻めなければならないチームなのである。
かといってFWの誰か一枚を交代するわけにもいかない。
エトーもメッシもいないのだ。
FWの交代は苦肉の策以外の何物でもない。
こう考えるとあの交代は理に適っている。
ましてあの時点では失点していないのだ。
それではライカールトのミスとは何か。
ここで日テレのアナウンサー、バカワムラの言葉を挙げなければならないのは ちと腹立たしいが、
彼はレポートでこう言っていた。
「ライカールトはFWに下がるなと指示している」と。
わしはここでライカールトに異を唱える。
MFとFWが分断されている以上、その連続性を回復するためには
FWが下がる以外に方法は無かったのではないか、と。
FWとMFの距離を置いたままではインテルナシオナルの守備戦術の罠に填るだけではなかったか。
ましてデコ、イニエスタにはアシストもシュートもできる能力がある。
ジュリやグジョンセンとのワンツーを使えばスペースを作り出すことができたのではないか。
それができないメンバーではないだろう。
愚直なまでに従来通りの攻撃に阿る必然性があったとも思えないのだが・・・・
いずれにしても、FWを下げないことでバルサがチャンスを作る可能性が 増えたものではなく、
むしろイニエスタが横にはたくしかない状況に陥ったのは間違いない。
5.バルサのジレンマ
攻撃的にいかざるを得ないチーム、点を取らなければならないチームの不幸、 とでも言うしかないのだろうか。
上のような状況下、DFラインを上げざるを得なくなったバルサを狙い通りのカウンターが崩す結果となった。
MFとFWが分断されて且つ攻撃的に行くためにはDFから底上げしてMFのラインを押し上げるしかない。
FWが下がって受けない以上、MFからのボールをDFが受けざるを得ないのだ。
となれば、インテルナシオナルとしては、その隙を狙うのは必定である。
それがインテルナシオナルとしては功を奏する結果となった。
DFラインが上がり、その前にわずかなスペースが生まれ、 そこでイアルレイがボールキープした瞬間に大勢が決まった。
後はタイミングを計り、パスを出すだけである。
イアルレイはドリブルを仕掛けつつ、最高のタイミングでパスを出した。
それでもバルサのDFは食らいついていったが、アドリアーノは冷静にトラップ、シュート。
これがこの試合の結果だった。
6.まとめ
こうしてみるとわしがインテルナシオナル優勝は当然の帰結、というのにも理解が得られよう。
インテルナシオナルはバルサの欠点/弱点を分析し、その対策を立て、それを実践したのだから。
ましてバルサにはミスも不運もあったのだ。
これでは勝てるものも勝てまい。
もちろんインテルナシオナルにはイアルレイというボールキープに長け、スピードもある選手がおり、
ここ一番でゴールを決めたアドリアーノという選手がいた事も大きいが、
少なくとも戦術に関しては全てインテルナシオナルが上回っていたとしか言い様がない。
戦術全てが試合結果を決めるものではない。
それはTOYOTA CUPレアル・マドリー-オリンピアのレポートでも書いたように明らかな事だ。
しかしこの試合に於いては戦術の優劣が勝負を決めた。
明らかに勝るものが一つでもあるのであれば、それは勝負の大勢を決める要素となりうる。
それは個人能力でもあるし、運でもある。
戦術の徹底と、個人能力と、運。
考えるまでもなく、論理的に判断し易いのは戦術の徹底である。
この決勝戦が論理的に当然と言えるのがお解りいただけるだろう。
蛇足ながら。
いずれが最も身につけ易いものであるか、考えるものでもあるまい。
ダイヒョーの強化に何が必要か、これほど解り易い例もあるまいが・・・・