小説 way 一部抜粋

 

「何を迷っている?」

来須は真っ直ぐ瀬戸口を見て口を開いた。目を逸らしたくなるその視線を、しかし瀬戸口は堪えて受け止める。水音が邪魔する中来須は言葉を続ける。

「なんでそんなこと・・・」

「お前の辛そうな顔は見たくはない。いつものように笑えないのなら、俺が笑えるように力を貸そう」

その言葉に瀬戸口は自分が泣きそうな顔をしているのを知る。泣きたいわけではないのに顔が歪むのを止められない。

「構わない」

幾年、狂いそうなほどの時を重ねても、その根底にあるものは変わらない。指の隙間からこぼれていくと分かっていても欲することは止まない。まぶたの裏に見る理想郷は、手に入るものではないのだ。