競争社会と教育〜何のために子どもを育てるのか


  市場主義を経済秩序の基本原理とすることによって、自由闊達な事業活動を促し、消費者、企業ともに潤う社会の
実現を図ることが、資本主義社会のみならず旧・社会主義国、現社会主義国でも程度の差はあれ、進められている。

  市場で企業が勝ち抜くためには当然、質の高い労働者を確保しなければならず、質の高い労働者はその対価とし
て高い賃金を得ることができる。そこで、市場経済は教育の場においてもより良い大学に入学することを目的とした競
争原理を教育理念として持ち込ませることになる。子ども自身は社会経験のなさからそれほどの競争心を自らが芽生
えさせる可能性はそう高くはないが、現実の社会の厳しさをしる親達は、自分の苦い経験を子どもにはさせたくない、あ
るいは子どもに夢を託したいという気持ちから、熱が入ることとなる。

  親に子どもがたくさんいれば、ひとりひとりの子どもに抱くそうした思いはそれほど強くないが、子どもが一人だと、
親のそうした期待をその子どもは一身に引受けて“競争”に立ち向かうこととなる。


  2008年1月6日(日) 午後9時15分からNHKが総合テレビで放映した「激流中国 5年1組 小皇帝の涙」はこうし
た問題に直面する中国のある小学校の5年生の生活を紹介していた。「一人っ子」政策を実施してきた中国では一人
っ子家庭で、親が子を過保護に育てる、いわゆる「小皇帝」問題が起きている。親の過剰な期待、教育ブームの過熱
ぶりが子供たちに重い負担となり、心に暗い陰を落としている。番組の中で、印象に残ったのは、ある夫婦が自分の子
どもの前でインタビューに応じる場面だった。子どもが一人だから、この子が良い大学に入るのに成功すれば、人生は
100%成功、失敗すれば、100%失敗を意味すると言っていたことだ。子どもの前で、「成功すれば、この子は社会
の人材。失敗すれば、家庭の負担」とまで言い切ったのを聞いたときは非常に驚いた。

  日本とだいぶ違うと思ったのは、学校に生徒達と親達が対面式に座るように設計された教室があり、そこで子ども
たちが涙ながらに親達に自分達の苦しさを訴えている場面をみたときだった。テストの点数で評価しないでほしいという
子ども達に対して、親達は自分達も社会で採点されて生きていると反論したときの子ども達の表情が印象的だった。

  市場経済の波にもまれ、生きるのに精一杯な中国の人びとの中にはかつての社会主義の時代を懐かしむ人びとも
いることであろう。日本の学校の一部では、競争は良くないものとされ、徒競走も手をつないで走り、順位をつけないと
いう話しを聞いたことがある。競争社会における教育のあり方、教育における競争のあり方について真剣に考える必要
があろう。

細川幸一


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