我々はクレーマー社会を目指しているのか

  
  7月2日付読売新聞の「TRYアングル クレーマー急増の背景」で、学校・企業・役所などへ自分が被った不利益や
一方的な要求をぶつける「クレーマー」が急増している背景を探っている。
  教育評論家で法政大学教授の尾木直樹氏が教育現場での実例として、「授業中、携帯電話を使った生徒から携帯
を取りあげて校則通り1週間預かると、基本料金を日割りで請求してくる」、「通学路に犬のフンが落ちていたと苦情の
電話をかけてくる」という親のクレームを紹介している。同氏は、教育現場に非常識なクレームが出始めたのは、200
0年に東京の区立小中学校で学校選択制が導入された時期の少し後からではないかという。学校選択制はいい面も
あるものの、「費用を払っている側は消費者」という視点が生まれ、「学校に要求するのは当然」という風潮が出てきた
という。

  最近、教育理念として個人の尊重や個性を伸ばすことが叫ばれているが、2006年10月4日付産経新聞【正論】で、
共立女子大学名誉教授木村治美氏は、 学歴社会の弊害を是正するために、自分らしさを大切にし、価値観を多様化
することを図ってきた中で、個性重視、個の尊重等のいわゆる個人主義の掛け声が自分本位主義、孤人主義に都合
よくすり替えられたと主張している。集団活動になじまなかったり、反社会的な行動を取る子を、「それはこの子の個性
だ」と反論する親の話をよく聞くという。 

  教育現場では、学歴社会への批判から、競争は良くないものとの意識も強くなっており、徒競走で手をつないで走る
学校があるという。


  西洋型の個人主義とは、社会の構成員たる市民としての自覚と責任を共有した上で、自らの権利や考えを主張す
るものである。伝統的社会や共同体への帰属を否定し、だからといって西洋型の市民としての自覚が歴史的に醸成さ
れていない日本において、自らの主張だけを貫徹しようとする「孤人主義」が台頭しているということであろうか。

    
  個人や個性が尊重されなければならないのは言うまでもないが、自らの権利や考えを主張できる社会を実現すると
いうことは、他者の権利を侵害したり、主張を拒否するような自由は制限されるという思想がなければならないのであ
る。

 細川幸一

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