値下げも自己申請に任せるのか?



   2005年3月20日に小田急線の運賃改定があった。その中には多摩線の運賃値下げも含まれていた。1974年に新
百合ヶ丘から多摩ニュータウン方面への線路を新設するにあたり、その資本費を利用者負担とするために、通常の区
間キロ数運賃に10円〜20円(普通運賃の場合)を加算する「加算運賃」を設定し、およそ30年にわたり、多摩線利用者
から普通運賃で10円〜20円高い運賃を徴収していた。それを今回、廃止したための運賃値下げである。

   値下げはけっこうなことであるが、なぜ30年も経った今になってようやく廃止なのか・・・その説明は一切ない。新線
加算運賃は、新線建設に伴う資本費を、その路線の利用者の負担によって回収するために設定されている。すなわ
ち、小田急線で言えば、小田急線全体の運賃の値上げ等によって回収するのではなく、その多摩線の利用者(直接の
受益者)に加算運賃を負担させて回収しようとするものである。これはこれで道理に適っているのだが、問題はいつ回
収が終わり、加算運賃を廃止するかである。

   1998年、京浜急行空港線全面開通に際して、同社は空港線利用者に対しては区間キロ数運賃のほか、170円を
特別に加算することを運輸省(現・国土交通省)に申請し、運輸省は申請どおり認可した。すなわち、品川駅から羽田
空港駅まで230円のところ(区間キロ数運賃)を170円加算して400円としたのである。その後、同線の利用者は順調に
伸び続け、2004年2月には羽田空港駅利用者数が1億人を突破している。1億人が170円の加算運賃を払っていると想
定すれば、170億円の追加的収入を同社は得ていることとなる。そんなに順調に利用者数が伸びているのなら、加算
運賃170円の廃止も間近なのかと考え、国土交通省HP上の「ホットラインステーション」に問い合わせた。しばらくして下
記の回答があった。


   「新線加算運賃は、新線建設に伴う資本費について、受益者の負担による適切な回収を図るために設定
されているものです。新線加算運賃の見直しについては、加算運賃の設定趣旨を踏まえつつ、各事業者におい
て適切に措置されるべきものと考えております。京浜急行電鉄によれば、空港線の加算運賃の見直しについて
は、空港線の今後の収支状況、資本費の回収状況等を見ながら、検討していきたいとのことです。」


   すなわち、加算運賃認可後の資本費の回収状況等を行政が把握し、回収できた際にはただちに加算運賃を廃止
させるような制度にはなっていないのであり、また、その状況を消費者が知ることもできない(有価証券報告書等を分
析すれば可能なのか・・・)。値下げを当該事業者の申請に任せる制度であってよいのであろうか?


   *    *    *    *    *    * 

   そもそも京浜急行空港線の加算運賃については、その決定自体もあやしい。というのは、同線と競合関係にある
東京モノレールの浜松町駅−羽田空港駅間の普通運賃が470円なのである。そこに新しく京浜急行空港線が開通した
のだが、京浜急行が品川駅−羽田空港駅を230円かそれより少し高い程度で運行をはじめれば、東京モノレールの顧
客がかなり京浜急行に流れることが予想された。そこで、京浜急行に170円加算させて400円とし、両者の運賃を400円
台であわせたのではという声がある。もしそうだとすれば、京浜急行が加算運賃を廃止することには東京モノレールが
猛反対するだろうし、国も容易には認めないであろう。
   本件については手続き的にも問題がある。本来、運輸大臣(現・国土交通大臣)が運輸審議会に諮問し、その答
申を得て、大臣が運賃決定を行うのであるが、本件は「軽微な事案」として、運輸審議会での審議を省略してしまってい
る。


   私は、必ずしも安い運賃で乗車できることだけが消費者の利益とは思わない。京浜急行空港線の開通のために
東京モノレールの経営が傾き、同線が廃止されることとなれば、それは消費者の不利益となる。とすれば、両社の運賃
調整も致し方ない面もあるだろう。しかし、もしそうした合意を裏で行い、消費者には加算運賃は資本費の回収のため
だけであと説明し、回収状況も明らかにせず、加算運賃を消費者に負担させ続けるとすれば、加算運賃を設けた事業
者に不当な利潤を与え続けることとなる。そもそも鉄道運賃をはじめ、公共料金の価格規制が必要とされる根拠のひと
つは、事業者が超過利潤を得ることを防止することにある。現在の運賃認可制度は不透明であると言わざるを得ない
のでないか? (国土交通省、東京モノレール、京浜急行各位からご意見・反論があれば、ぜひお寄せいただきた
い)
   

  参考:読売新聞「運賃認可に利用者の参画必要」(1999年8月19日朝刊)


細川幸一


付記:国土交通省からの回答内容には承服しかねるが、同省HP上でメールによる質問を受け付け、それに回答する
  「ホットラインステーション」 の設置については高く評価したい。





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