歌
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過日、京都に行った際に、甲部歌舞練場わきのヤサカ会館「ギオンコーナー」で京都伝統芸能を見た。外国人等の
観光客相手に、2800円の木戸銭で茶道、華道、文楽、舞妓の地唄舞、雅楽等を見せるオムニバス式の公演である。
せっかくの京都なので、地唄舞を楽しみにしていた。はんなりした京都の伝統の雰囲気と違って地唄舞は直線的で
力強いものがある。しかし、井上流舞妓が踊るその姿に失望と怒りを覚えた。まったく芸になっていないのである。きれ いなおべべきて、ひらひら動いているだけなのだ。都の伝統を紹介する舞台でこんなお粗末なものが演じられていると は夢にも思わなかった。
このようなものを毎日観光客に見せるのは日本の恥と思い、後日、ギオンコーナーの支配人に抗議文を郵送した。
返答があった。一人前に踊れる舞妓を確保することができないという。あくまでビギナー向けの公演であるからこの程 度で仕方ないのだという。
時の権力者や、地元有力者たる旦那衆には一流のものを見せ、市井の「その他大勢」には芸にもなっていない学
芸会もどきの代物を見せて何とも思わない・・・最近の橋梁入札における談合もそうだが、身内だけの論理で事を運ぶ 日本の悪しき伝統が根底にあるような気がする。このようなお粗末なものを代金を取って見せる京都の花柳界には未 来はないと思う。
さて、このような場合、消費者の救済はどのようになるのであろうか? お粗末な芸が債務不履行にあたるか否か
である。また、最近、ミュージカルなどで、ダブルキャストあるいトリプルキャストの場合がある。あらかじめ、配役表が提 示され、消費者は自分のお気に入りの役者が出る回のチケットを買うことも多い。しかし、体調不良などでキャストに変 更があった場合などうなるのか? チケットには免責条項があるが、有効なのか? 違う配役の舞台が見たくて二度、 三度と足を運ぶ消費者も多いはずだ。
観劇の契約で私が気に入らないのは、劇場の70%近くの席がS席などという劇場がたくさんあることだ。東京で特
にひどいのは歌舞伎座2階後方の一等席(S席相当)である。帝国劇場もS席がやたらと多い。特設屋外会場の公演 で、平地に席が大量に作られているために、後ろの席ではほとんど舞台が見えなかったという苦情も聞いたことがあ る。席種の区分基準を提示できる劇場はたぶんないであろう。
観劇に限らず、購入した商品や役務が消費者の期待する性質を備えていなかったというような場合も多いであろ
う。例えば、全日空がポケモンジェットを飛ばしている。もし、機材変更等でそれが手配できなかったときはどうなるの か? 安全に目的地まで時間通りに乗客を運べば、通常は、航空会社は債務の履行を果たしたことになる。しかし、広 告や時刻表でポケモンジェットに乗るよう顧客を誘引しているのである。ちなみに、航空券にはポケモンジェットであると の記述はまったくなく、いやらしさを感じる。この場合、問題は消費者にとってのポケモンジェットであることの契約上の 重みである。偶然その便に搭乗したビジネスマンにとってはどうでもいいこと、あるいはそんな子ども向けの機材でない 方が良いに違いない。
最近の消費者法の書物をみると特殊販売や悪徳商法に関連する記述がほとんどであり、こうした問題について記
述したものが少ない。契約が締結されたあとに、契約の成立を前提にトラブルが生じるケースである。契約で一体何が 定められたかの争いである。大村敦志『消費者法』(有斐閣、1998年)はこうした問題を正面から扱っている。
細川幸一
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