インターネット社会の子どもへの影響


                                          日本女子大学家政学部助教授 細川幸一

1.インターネットの功罪

  20世紀末から21世紀初頭へかけてのもっとも著しい科学の進歩は情報分野とくにインターネットの発達であろう。
10年前には予想すらしなかった速度でその進歩・普及は進み、インターネットなしには我々の日常生活は考えられな
いほどになった。
  
  インターネットは電話や郵便といった通信手段に比べて格段にそのコストを安くし、海外との通信も言葉の障害を除
けば極めて容易となった。また、「通信」と「放送」の垣根もなくしている。すなわち、従来は資本力のある企業等だけが
放送手段を利用して一般大衆に対して情報を発信することができたが、インターネットではだれでも気軽にホームペー
ジを開設し、不特定多数の人々に情報を発信することができる。そしてもっとも特徴的なのは情報発信者の匿名性が
確保できるということである。自分の素性を知られぬままに不特定多数の者に情報伝達ができる。
  
  日常生活の利便性を格段に高めたインターネットは同時に相手先が見えぬまま人間関係や契約関係を築くことに
よるリスクを生じさせている。道徳、世間体、コミュニティ等の監視といった社会的規制により抑えられていた人々の欲
望も匿名性という衣を着て、抑えておくことができなくなってきている。インターネットは現代社会の病理を増大させてい
るが、そこでは子供達にもっとも大きな影響を与えている。


2.子供にとってのインターネット
  
  現在のインターネット社会には、自己責任原則に基づいて自主的な行動ができる(と想定されている)一般成人にと
っても危険な落とし穴があるが、そこに子供たちが安易に入り込めば、その危険性はますます増大する。一方、その有
用性は計り知れないものがあり、高等教育のみならず、義務教育においてももはや子供をインターネットから遠ざける
だけではなく、いかにそれをうまく利用するかという教育の必要性が叫ばれている。
 
  子供にとってのインターネットの問題については以下のように整理できる。

○有害サイトへのアクセス
 インターネットは大人の欲望のはけ口でもある。ありとあらゆる誘惑がそこにはある。アダルト向け図書、映画、ビデ
オ等は従来の行政による業者規制と違反事業者への制裁により子供のアクセス拒否が比較的容易なのに比べ、イン
ターネットではそれが働きにくい。多くの成人向けサイトでは閲覧者が未成年か否かを問い、閲覧者が成人であること
を認めてはじめてな内容が提示されるが、これの効果はほとんどないであろう。むしろ問題があった場合のサイト提供
者の免責を確保する手段にすぎない。有料サイトでは、クレジットカード等よる代金の前払いが原則であり、未成年者
には一定の歯止めがかかるが、親のクレジットカードがあれば簡単に契約できてしまう。個人による子供の買春メー
ル、掲示板なども多い。あるいは子供サイドからの働きかけも容易な状況をインターネットは作り出している。

○子供自身の犯罪行為の助長
 近年、メールを利用した企業の脅迫や偽計業務妨害事件の犯人が未成年者だったというような事件が相次いでい
る。子供たちが自分の勉強部屋のパソコンでいたずらや遊び半分でEメールや掲示板を利用して罪を犯してしまうよう
な状況にある。通常、いたずらでは済まない行為は子供でもそれを認識しているはずだが、インターネットではその重
大性に気づかないということもあろう。

○契約トラブルの増大
 インターネットは商品やサービスの購入も容易にしている。子供が、あまり好ましくない、あるいは高価な商品やサー
ビスを契約することも、通常の店舗販売や通信販売に比べて容易である。また、法律上、インターネットによる消費者
契約は「通信販売」となり、「訪問販売」と違って法律上クーリングオフ権の定めはない。民法は結婚していない満二〇
歳未満の者を未成年者とし、親(法定代理人)の同意がない契約は取り消すことができるとしているが、もしサイト上の
データ入力で虚偽の申告をしていると契約は取消すことは法的には困難である。


3.対策の現状と課題
  
  有害インターネットへのアクセスを拒否するファイリング・ソフトが市場に出ている。しかし、日本PTA全国協議会の
調査によれば、保護者の約70%がその存在を知らないという。インターネットはその普及が急速に進んだため、子供
たちより保護者の方がその仕組みに疎いことも多い。問題の多い出会い系サイトについては、「インターネット異性紹
介事業を利用して児童を誘引する行為の規制等に関する法律」(いわゆる「出会い系サイト規制法」)が、平成15年9月
13日より施行されたが、検挙件数は多くはない。暴力等の犯罪に比べ、子供が被害者として申し立てを行うケースは多
くないであろうから、事件がより潜在化している可能性もある。
 
  インターネット社会における子供の保護は、子供相手に違法行為を行う者を処罰するとともに、子供自身に物事の
善悪を判断させるための教育が車の両輪のように重要であろう。ましてや子供が個人的に使用する携帯電話にインタ
ーネット機能がついている現状を考えると、子供を親や学校が絶えず監視することは不可能であり、子供自身に物事
の善悪を考えさせる教育が求められている。

  そこでは、保護者だけではなく、学校、行政、関連企業、インターネット関係の専門家等が協力し、子供のインター
ネット利用の実態を十分に把握しながら進歩していく技術の功罪を吟味し、有効的な手立てを編み出していく努力が不
可欠である。



   Topへ     Back