生活上の安全をどう守るか(ドア・プロジェクト)


  NHK・ETV特集「ドアに潜む危険」(2005年4月30日放送)を興味深く見た。六本木ヒルズの回転ドアによる幼児の
死亡事故をきかっけに、学者・企業・専門家・被害者等が集まって「ドア・プロジェクト」を作り、日常接しているビルのド
ア、自動車のドア、学校の防火シャッター等の危険性を浮き彫りにしている。 失敗学の創始者である畑村洋太郎・工学
院大学教授を中心に、ドアメーカーの技術者、ビルの管理者、医師や法律家たちがプロジェクトを組織し、回転ドアはじ
め、さまざまなドアが人体を挟んだときの衝撃度を測定し、その結果を徹底討議することで、誰もが無自覚に通り過ぎ
るドアに潜む「安全の死角」を洗い直そうというものである。

  安全に生きることができる社会の構築は最重要なはずだが、こうした日常生活における危険性についての情報収
集や原因調査のための専門機関が日本では発達していない。子を持つ親として立場を超えて、不幸な事故を防ぎた
い・・・そうした参加者の気持ちがこのプロジェクトを支えたという。専門家をも取り込んでの市民参加型の社会システム
構築の将来像のような感じする。責任を追及する「捜査」だけではなく、原因を究明する「調査」が社会システムとして必
要なのである。 

  私は、かねがね、ホテルや旅館の浴室で熱湯が出る蛇口があることに疑問と危険を感じてきた。幼児がひとりでお
風呂に入り、熱湯を浴びてしまったり、大人でもうっかりして熱湯を浴びてしまったなどという事故は数多くあるのではと
思う。しかし、個々の事故が「自己責任」や「不注意」で片付けられたり、ホテル・旅館側のお詫び・見舞金や、稀に民事
裁判でホテル・旅館の責任(「熱湯注意」の表示がない等)をその事故に限り追及されるだけで、そうした事故情報収
集、それに基づく改善が十分なされていないのではと思う。 

  国民生活センターは「危害情報システム」を有し、くらしの中の危険に関する情報を各地の消費生活センターや協
力病院から収集しているが、規模が小さく、財政的にも人的にも十分とは言えない。また、調査権限も持たない。さらな
る拡充が必要であろう。
 
  本学では「学際的共同研究による生活安全保障科学の創成」を立ち上げ、「生活安全保障セミナー」を開催してい
るが、こうした研究が核となり、立場を超えて市民が結集し、安全で安心に暮らせる社会システムの構築ができるよう
な方策も研究する価値があろう。 
細川幸一

(参考) 国民生活センターPIO-NETにおける危害情報システム

○PIO−NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワーク・システム)
 複雑化、多様化、広域化する消費者被害に迅速に対処するため、国民生活センターと全国の消費生活センターをオ
ンラインネットワークで結び、消費生活に関する情報を蓄積・活用している。

○危害情報システム
 PIO−NETで収集する情報のうち、特に日常生活の中で発生する商品・サービス等に関連した事故については、消
費生活センターとともに、協力病院からも事故情報をオンラインで収集し、危害情報システムとして運用している。





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