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JR西日本福知山線の列車横転事故は大惨事となったが、私鉄とJRの熾烈な顧客獲得競争が事故の背景にあると
いう報道が目に付く。 大阪駅・神戸駅へは尼崎駅で乗り換えなければならいJRとしては、列車の高速化・乗り換え時 間の短縮が消費者サービスの最重要戦略とされていたようである。
規制緩和による競争原理の広範囲な導入が目指され、事実、事業者の事由闊達な活動による競争が促進され、消
費者がより安く商品やサービスを購入できるようになったと思う。
しかし、今回の事故やJALの不祥事などを見ると、低価格・利便性を追求するなかで、消費者の最も基本的な権利
で ある「安全である権利」がないがしろにされてきているというのも実感である。その原因のひとつに、そういた熾烈な 競争のしわ寄せが現場でサービスを提供する労働者にきており、過酷なノルマ等、労働条件の悪化があるような感じ がする。
今回の事故でも列車の運転手等が過ちを犯すと「日勤教育」という単純な作業の反復や数日間にわたり反省文を一
時間毎に書かせるといったペルテイが科され、自殺者まで出るような実態が明らかにされつつある。
JRの事故における労組側の記者会見がたびたび報道されている。大競争時代に勝ち抜くための努力・コスト削減
等を進めながら、一方で雇用契約、下請けとの契約等において優越的地位の乱用を防止し、それによって商品やサー ビスの質を維持するためのシステムが模索されているといえるではないかと思う。しかしながら、「消費者の安全」を御 旗に労働条件を守ろうとする労組と、安全を第一としながらも健全経営に重きを置く経営者側の対立は鉄道、航空、病 院等々至るとこで見られる。労働条件を良くしさえすれば、安全な商品・サービスが提供されるというものでもない。JR 西日本の労使対立をみると労組側の言い分だけを鵜呑みにはできないという印象を持つ。
そうした問題の妥当な解決点は欧米では政治的に見出されているのではと思う。欧米では労働者でもある消費者と
消費者でもある労働者が政治の場で拮抗していて、良い具合に企業と消費者、企業と労働者の取引関係がfairな形で 維持されているのかもしれない。日本では消費者の視点を持たない男性中心の終身雇用者たる労働者と、主婦やO L・学生等を中心とした臨時雇用者の立場から抜け出せない消費者の対話がなく、そこに大競争時代が到来し、企業 は右往左往している・・・ということであろうか。
消費者サイドも列車が30秒遅れたら怒鳴るとか、みのもんたがココアが体に良いといえば日本の小売市場からココ
アがなくなってしまうような行動パターンを改め、スローライフを楽しむ心のゆとりが必要なのかもしれない。日本の消費 者は食品の製造日付に非常に敏感である。そのために食品メーカーでは夜の12時になると一斉に製造をはじめるそう である。そのコスト・電力の無駄は相当なものになるようである。
日本では、労働争議はあまり目立たなくなっているが、経営者側は労組との対立を避けて、違う道を歩んでいるよう
にも思う。JALはJALウェイズ(JAZ)、ANAはエアーニッポン(ANK)というように子会社を作り、親会社とは別の賃金 体系で労働者を雇用し、親会社の傘下で運行している。そこではパートタイマーの労働者が数多くいる。不祥事が起こ る前にJAL(JAZ)で海外に出かけたが、不慣れな乗務員・職員が多く、不安を覚えた。ある航空会社では終身雇用の キャビンアテンダントとパートタイマーのアテンダントが混在して乗務しており、両者にしこりがあって業務が円滑でない という話も聞く。このあたりも日本が誇った「安全神話」の崩壊につながっているのではないか。
付記:JR西日本の記者会見における一部記者の「はやく社長を呼んでこいよ」等の無礼きわまる発言は一体何なので
あろうか? 遺族が声を荒げるのは当然であるが、記者の傲慢な態度は日本のマスコミの魔女狩り的な体質とレベル の低さの表れであろう。さらに、ボーリングのあとの宴会で、「焼きそば」と「揚げだし豆腐」を注文した云々の居酒屋か らのレポートにどのような意味があるのか?
細川幸一
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