ボローニャのおじいさん
適当に乗ったのがいけなかった。バスは駅のひとつ手前の交差点でそれとは反対の方向に曲がってしまった。ぼくたちは次のバス停で降り、駆け出した。これを逃すとベネチア行きの列車は2時間ない。バスが曲がった辺りを走っているとき、旧型フィアット500(チンクエチェント)がぼくの横に止まった。白髪で、眼鏡を掛けた初老の男性が運転している。彼は窓を開け、「どこへ行くんだ。」と尋ねる。ぼくは、「スタツィオーネ(駅)。」と答える。彼は車に乗れと手招きをする。ぼくたちは躊躇せず、後部座席に乗り込む。5分も経たないうちに駅に着く。ぼくは女性ならキスをしたいくらいだと思いつつ、「グラーツィエ。」と云いながら、彼と握手をする。何かお礼をしたいという思いの後髪を引かれながら、またぼくたちは駆け出した。ホームの番号を確認し、階段を駆け下り、駆け上がり、なんとかベネチア行きの列車に無事乗ることができた。